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第13話:財務担当(金庫番)フィオナの登場と、カジノの急成長回





side:南の都市ミナーミ・冒険者ギルド






「―――お、おい、正気か!? この内容は間違いではないのだろうな!!」


 南の都市ミナーミの冒険者ギルド。

 その奥にあるギルド長室で、ギルドマスターは机に両手を叩きつけて立ち上がっていた。

 彼の目の前にあるのは、あのCランクの有力パーティー『銀の盾』から届いた一通の【緊急魔導書簡】であった。

 大森林の内部から、最も迅速にギルドへと事実を伝えるために送られた、最高速度の伝導手紙。

 そこに綴られた驚愕の記述に、ギルドマスターは顔面を土気色に変えていた。

 大国ナンポウ王国が誇る、ドルバ特使率いる五千の正規軍本隊。

 カジノダンジョンを武力制圧するために大森林の入り口へと進軍したはずの彼らが―――なんと、戦闘の形跡すら一切残さず、カジノとは全く別の方向にある北の最凶エリア『竜の谷』へと迷い込むように行進していったというのだ。


「進軍方向を変えた理由が不明だと……!? それに、あの場所へ行ったというのか……!?」


 手紙を読み進めるギルドマスターの指先が、恐怖と困惑で激しく震える。

 そこには、さらに信じがたい事実が書き連ねられていた。

 かつては生息していたものの、最近では生息数が激減し、滅多に見かけなくなっていた大蜘蛛や巨大ワニ、あるいは無数のワイバーンといった凶悪な高ランクモンスターたちが、どういうわけかあの谷に大量に潜んでいたというのだ。

 突然そこに踏み込んでしまった五千の部隊は、驚異的な野生の暴力に一瞬で蹂躙され、跡形もなく壊滅。

 ドルバ特使をはじめ、生き残ったわずかな者たちは、衣服も身ぐるみもすべて魔物に剥ぎ取られ、ほぼ全裸で泣き叫びながら敗走していった――。


「……五千の正規軍をこうも一瞬で。流石は高ランクモンスターども、と言うべきか。あの死地に不用意に突っ込んだのが王国の運の尽き、これでは壊滅させられたのもむしろ仕方が無い……」


 ギルドマスターは深く椅子に背を預け、冷や汗を拭った。

 何が起こって軍が北へ向かったのか、その理由は全くの謎だ。

 だが、人類にとっては「手出し無用の絶対的な自然の災害」が、あの森の奥にはまだ厳然として存在している。

 それだけは痛いほど理解できた。


 緊急で招集されたギルド上層部の会議は、緊迫した空気のなか、あのダンジョンをこれ以上刺激せず「慎重に調査すべきだ」という結論に傾いていった。


「万が一にでも、あのダンジョンが人類を敵と認識してしまったらどうする! あの『竜の谷』の凶悪モンスターたちを意のままに使役して人里に襲いかかってきたら……国がいくつ滅ぶと思っているんだ!」


 ギルドマスター自身の口から放たれたその強烈な一言に、会議場にいた重役たちは凍りついたように沈黙した。

 ギルドは現在、この件を最重要案件として慎重に対応中である。

 国に対しても、「これ以上下手にあのダンジョンを刺激して、連中が人里に侵略してきたら責任が取れるのか?」と強く迫ることで、即座に無謀な軍事介入を止めさせて立ち入りを自粛するよう、ギルド側から強く圧力をかける決定が下された。

 こうして周辺国家の権力者たちは、恐怖のあまり完全に手止まりとなり、ただ固唾を呑んで「様子見」を決め込むことしかできなくなったのだ。

  





side:ダンジョンマスター ヒロユキ






 ―――チリン、チリン、チリーン!


 ジャラジャラジャラジャラ!!!


 ダンジョンにちょっかいをかけてきた大国ナンポウ王国のバカ特使と五千の侵略軍勢を、上位スキルで『竜の谷』へ綺麗さっぱり追い払ってから数日ほどが経過した。

 流石にあんな大騒ぎの直後だし、周囲が警戒して一時的に客足が減るかとも思ったが……それはどうやら完全に杞憂だったみたいで、我がカジノダンジョンは連日大人気のままである。

 今日も今日とてフロアはありがたいことに『満員御礼』のすし詰め状態だった。

 だが、その大繁盛の裏で、我がカジノの運営ラインには別の深刻な問題が発生していた。


「南都市のスロット売上が金貨三枚、現金タワーの回収分が銀貨五百枚、景品の残数チェックが……よし、これで計算は合っているな。次は四号台の集計に……」


 一般客立ち入り禁止のバックヤードの一室。

 我がカジノの優秀なスタッフであるルークが、机の上に美しく整理された大量の帳簿と向き合っていた。

 ホワイト企業を目指す俺が、かつての世界のブラック上司どものように部下を限界までこき使うわけがない。

 ルークには適度な休憩を挟ませているし、彼自身の能力が非常に優秀なおかげで、ルークは一銅貨のズレもない完璧な事務作業を、何の問題もなく涼しい顔でしっかりとこなしていた。

 だが、やれてはいるのだが……売上の規模が膨れ上がりすぎたせいで、ルークはその完璧な帳簿付けの作業にかかりきりになってしまい、そこから動けなくなりつつあった。


 ルークが事務から動けない。

 それはつまり、フロアの硬貨詰まり対応や清掃、エラー処理といった雑務をルークに手伝ってもらうことができなくなった、ということを意味していた。

 結果として、その分のフロアタスクが丸ごと俺の肩に降ってきてしまい、俺の忙しさは再びオープン初期のワンオペに近い状態にまで逆戻りしかけていたのだ。


「ルーク、仕事は大変だが問題ないか?」


 俺が幽霊騎士の鎧をガチガチと鳴らしながらボイチェンによるイケボで声をかけると、ルークはハッと居住まいを正し、恐縮した様子で深く頭を下げた。


「はい、幽霊騎士様! あなた様の手厚いご配慮のおかげで、俺自身は無理なく完璧に仕事をこなせております! ですが……あなた様からこれほど素晴らしいカジノの運営を任されているというのに、俺の、俺の算術能力が足りないばかりに、事務仕事だけで手一杯になってしまい……任された業務のすべてに手が回らない状況が、本当に申し訳なく思っております。これでは、幽霊騎士様にご負担をおかけしているのも大変心苦しく……すべては俺の不徳の致すところです!」


 ルークは俺を神の如く崇めているため、この過酷な状況をすべて「自らの能力不足」のせいだと本気で謝罪してくる。

 いやいや、これ普通に物理的なマンパワーの限界だからね!?


「くくく、ルーク、自分を責める必要はないよ。お前はよくやっている」


 赤スーツを纏ったジェードが、冷えた缶ビールを片手に、苦笑しながら部屋に入ってきた。

 彼も手が空いた時に事務仕事を手伝ってはくれているのだが、やはり餅は餅屋だ。

 ジェードが机の上の書類の山を一瞥して告げる。


「だが幽霊騎士どの、ルークの言う通りだ。これほど毎日巨万の富が動くとなれば、内側の金勘定を専門で回す人材を補強せねば、近いうちにフロアの作業が完全に回らなくなってしまうよ。根本的な解決が必須だね」


 ジェードの言葉に、俺は鎧の奥でぐぬぬと頭を抱えていた。

 帳簿関連を任せられる人材が必要と言われても、こんな中世ヨーロッパ風の異世界で数字に強い人間なんて限られているだろうし、そうそう簡単に見つかるわけがない。

 ルークやヴォルガの時みたいな奇跡の出会いが、そう何度も起きるわけがないのだ。


「(どうしようもないじゃん、これ……。どうすりゃいいんだよ……)」


 このままでは自分のホワイトなニート生活が激務で崩壊してしまうと、俺が一人で密かに苦しんでいたのだが、まさかの幸運が夕方ごろにやってきた。






side:フィオナ・商会代表






「ジェード様! どうか、どうか我がフィオナ商会の持ってきた商品を、このカジノダンジョンで取り扱っていただけないでしょうか! 一銅貨のズレもなく完璧な品質と帳簿を保証いたします!」


 カジノの裏口にある面会室。

 そこに、泥を被ったようなみすぼらしい格好をしながらも、その瞳にだけは強い意志の光を宿した若き女性、フィオナが必死にジェードへ頭を下げていた。

 俺は不気味な幽霊騎士の鎧を纏ったまま、ジェードの後ろで静かにその様子を見守っていた。

 彼女の話を聞けば、事情はかなり複雑で、かつ悲惨なものだった。

 フィオナはもともと、ミナーミでも有数の大商会の娘だった。

 だが、父親の命令で金持ちの偏屈なジジイの後妻にされそうになり、それに猛反発。

 彼女は自らの頭脳と算術能力だけを武器に、家を飛び出して自ら『フィオナ商会』を立ち上げて独立したのだという。

 立ち上げた当初はそれなりに仕事も順調だったらしいが、彼女の独立が気に入らない父親や、商会を継ぐ予定の私の馬鹿な兄による妨害が徐々に酷くなってきたのだという。

 取引先の商会に圧力をかけられ、仕入れた商品を卸す場所すら奪われ、完全に追い込まれてしまった彼女は、この状況を何とかするためにここにやってきたのだ。


「このままでは私だけでなく、私を信じてついてきてくれた数人の働き手たちまで路頭に迷ってしまいます……! だから、今や四大都市で一番の現金が動くという、このカジノの噂を聞いて、命懸けで大森林を突破して直談判に参りました!」


 フィオナは涙を浮かべながらも、誇り高く背筋を伸ばして取引のメリットを熱弁する。

 その様子をじっと眺めていたジェードが、冷えた缶ビールを傾けながら、俺の方へ視線を向けた。

「さて、幽霊騎士どの、どうするかね? 彼女はただの感情論で泣き落としにきているわけではない。不利な状況を認めつつ、こちらに提供できる完璧な品質と帳簿のメリットをしっかりと提示している。なかなか、商売人として見事な交渉をするではないか」


 ジェードの言葉を聞きながら、俺は鎧の奥でじわじわと思考を巡らせていた。

 これまで外部の商人との取引を制限していたのは、希少なダンジョンアイテムを外の市場で自由に取引させてしまうと、わざわざこのカジノにまで足を運んでくれる客の数が減り、結果としてダンジョンそのものの価値が低下してしまうのを心配していたからだ。

 そのため、商品はすべてここでしか手に入らない限定品として厳しく管理してきた。

 だが、ただ感情的に縋るだけでなく、冷静にメリットを提示する彼女の交渉姿勢は確かに見事だった。

 何より、理不尽でブラックな環境によって自分の実力とは無関係なところで追い詰められている彼女の境遇には、前世のブラック企業時代を思い出して、元社畜として少しばかり共感できる部分もある。


(……うーん、ただの感情論じゃないし、カジノの価値を落とさないよう条件を付ければ、もうそろそろ少しは締め付けを緩めて取引を許可しても問題ないかもしれないな……)


 俺の慎重だった方針が珍しく少しだけ軟化し、どう動くべきか考え始めた、まさにその瞬間だった。

 横から真剣な顔をしたルークが「少しよろしいですか?」と一歩前に進み出た。

 そして、すがるような目で俺を見上げてきた。


「幽霊騎士様、彼女の実家はそれなりの所だと知っています。そこの娘なら、相応の算術能力を持っている可能性はあると思います。もしよろしければ……彼女の能力を測るための『テスト』を行ってもよろしいでしょうか?」


 ルークのその明確な提案に、俺はコクリと鎧の頭を下げて許可を出した。

 すぐさま、テストが開始される。

 まずは算術のチェックだ。

 ルークはカジノの複雑怪奇な売上帳簿をフィオナに見せ、記載された計算が正しいかを確認させた。

 フィオナは帳簿を受け取ると、パラパラとページをめくり――わずか数秒で、ぴたりと指を止めた。


「ルーク様。この帳簿、すぐに分かりますが二つ目と五つ目の計算が合っていません。銅貨の桁が微妙にズレています」


「……ほう、一瞬で気づきましたか……」


 ルークは納得したように静かに頷いた。

 指摘されること自体は当然としつつも、その圧倒的な速度を認めるような、深く静かな声だった。


 続いて、目利きのチェックだ。

 ルークは奥から、誰の目にも美しい装飾が施された『立派な剣』と、ボロボロで茶色く変色した『錆びた剣』の二本を持ってきて、それぞれの値段を当てるようフィオナに迫った。

 普通の商人なら、間違いなく立派な剣に高値をつけ、錆びた剣をゴミ扱いするだろう。

 だが、フィオナはその二本の剣をじっくりと観察すると、不敵に微笑んで錆びた剣を手に取った。


「こちらの立派な剣は、外見こそ華やかですが中身はただの安鉄です。せいぜい銀貨数枚でしょう。ですが……この錆びた剣、ただの錆び刀ではありませんね。この柄の噛み合わせ、そして刀身の不自然な厚み……実は仕掛けがあります。

この錆びた刀身は、ただの『鞘』のように外れる構造になっている。ほら――」


 フィオナが剣の根元をカチリとひねると、ボロボロの錆びた刀身がスルリと外れ落ちた。

 その中から姿を現したのは、部屋の明かりを反射して美しく青くきらめく、伝説の『ブルークリスタルの魔剣』であった。


「中から出てくるのがこの魔剣となれば、市場に出せば金貨数十枚、いえ、それ以上の価値はくだらないでしょう。これほどの一品をテストに持ち出すとは、このダンジョンの底深さには驚かされますね」


 ルークは深く感心したようにため息を漏らすと、俺を振り返って一礼した。


「幽霊騎士様、この短時間で錆びた刀身の奥にある仕掛けを見破るだなんて、実に見事な目利きです。やはりキミには素晴らしい才能がありましたね」


 ルークがフィオナの確かな実力を称賛しながら、我が主に太鼓判を押して示す。

 フィオナの実力は、本物のチート級だった。

 これほどの天才財務を、家族のくだらない嫉妬と強欲のせいで腐らせておくのは、ワンオペに苦しむ我がカジノにとって最大の損失だ。

 俺はボイチェンを響かせ、一歩前に進み出て、絶望の淵にいるフィオナへ静かに語りかけた。


「……いいだろう、フィオナ。お前の実力、確かに見届けた。ならば、どうだ。お前たちの商会ごと、我がカジノダンジョンの『専属スタッフ』として入らないか?」


「えっ……? 専属、スタッフ……ですか?」


「そうだ。フィオナ商会を『ダンジョン専属商会』として正式に迎え入れる。カジノの景品交換所を丸ごとリニューアルし、ダンジョン内部に『フィオナ商会・カジノ本店』をセットして、お前たちの商品の販売や客からのアイテムの買い取りを行う本格的な店舗として営業させてやろう。専属商会になるのだから同じ所から金を出す。つまりは仕入れの金も利益もダンジョンと一緒になるということだ。もちろん頑張れば頑張るほど評価し、それなりの見返りや待遇も約束しよう」


 俺の言葉に、フィオナは呆気にとられたように目を見開いた。

 どんな国家の軍勢すら一瞬で出禁にする絶対の武力を誇るダンジョン。

 その莫大な資本をバックにして、カジノの巨大利権に直接絡むことができるようになるのだ。

 これほど商人として魅力的で、安全な取引は世界中どこを探しても存在しない。


「ただし、条件がある。我がダンジョンから支給する特別なアイテム類は、すべて『ダンジョン内限定』での販売・使用を徹底しろ。商品価値の低下など、様々なトラブルにならぬようにある程度の制限が必要だろう。そうして一定の口は挟むことにはなるが、それ以外は基本自由だ。……構わないか?」


「ええ、ええ、もちろんです、幽霊騎士様……! むしろそれほどの利権と後ろ盾をいただけるのであれば、条件などいくらでも呑みましょう! このフィオナ、そしてフィオナ商会の命、すべてあなた様と、このカジノダンジョンのために捧げます!」


 フィオナは感極まったようにポロポロと涙を流すと、その場に跪いて俺を見上げた。

 こうして、フィオナとその忠実な数人の働き手たちが、正式に我がカジノの仲間となった。

 彼らの専属スタッフ加入が決まった直後、俺は「ここに新しく店舗を作るぞ」と心の中でメニュー画面を操作した。

 ダンジョンの管理権限を発動すると、それまで部屋の隅に設置されていた、無骨な景品交換所という名の自販機類が一瞬にして光の粒子となって消滅する。

 さらに俺が管理ポイントを少しばかり消費してその一画の壁をドカンと奥へ拡張してやると、そこへ、大きな店舗がダンジョンの魔力によって全自動で瞬時に形成されていった。

 完成した店は、木目調のカウンターを備えた立派な佇まいであった。

 正面には大きく『フィオナ商会』と書かれた看板が掲げられ、その横には『ダンジョンアイテム販売! 買取も行ってます!』というのぼりまでもが堂々と立ち並ぶ。

 こうして、一般の消耗品から希少なダンジョンアイテム、さらには実戦に使える各種装備にいたるまでを手広く取り扱う、このカジノダンジョン内における初めての本格的な店舗が誕生したのだ。

 フィオナたちはその完成した店舗へと案内されると、すぐさまそこを拠点として店舗を精力的に経営しつつ、驚異的な算術能力をフルに活かしてダンジョン内の複雑怪奇な帳簿付けといった事務仕事のすべてを完璧に担ってくれた。

 おかげで、それまで丸一日縛り付けられていた膨大な事務関連のタスクから基本的に解放されたルークが、無事にフロアへと戻ってこれるようになった。

 再び彼が接客や硬貨詰まりの対応に回れるようになったお陰で、カジノのフロア全体の運営は一気に、かつ劇的にスムーズに回り始める。

 また、フィオナが連れていた数人のスタッフたちも、基本的には誰もが驚くほど真面目で熱心な人間ばかりだったお陰で、今の所はありがたいことに、不正などは一切発生していなかった。


「ふぅ……。よしよし、これでようやく少しは余裕が出来たな!」


 俺だけが入れる安全なモニタールーム。

 その奥にある休憩室の椅子に深く腰掛け、俺は流石にフロアの激務を駆け回って疲れ果てたため、あの重苦しい幽霊騎士の兜をふぅと脱ぎ捨て、大きく息を吐きながら素顔を晒して天井を見上げていた。

 これで自分のホワイトな引きこもりニート生活が完全復活を遂げる―――と、そう確信して満足げに一息ついていたのだが、ここ最近になって、なぜかまた俺の身体にかかるフロアの激務がじわじわと忙しくなってきたのだ。


「おかしいな……。人手は確実に増えたし、仕事も綺麗に丸投げできてるはずなのに、なんで俺はまたこんなに汗だくになって走ってるんだ……?」


 俺が不思議に思って管理端末のデータログを確認してみると、そこには衝撃の事実が浮かび上がっていた。


「あ~、フィオナの所が回転率高すぎて、余計にこっちまで回転率が上がっているのか……!」


 そうなのだ。

 俺の指示通りに作ったあの魅力的な大店舗を彼女たちが効率よく回し、迅速に買取と販売を行うせいで、客の硬貨の消費スピードが爆発的に向上。

 結果として、スロット全台や現金タワー崩しの売上回転率までが何倍もの速度で跳ね上がってしまっていたのだ。

 これじゃ人手を増やして仕事を分散させた意味が全くないんじゃねぇか!?という不都合な考えが脳裏をよぎるも、こうなってしまったものはもう仕方が無い。

 まさにその時、俺の耳元につけていたスタッフ連携用の通信アイテム――インカムから、ザザッというノイズと共に、現場のフロアで汗を流しているヴォルガの切実な声が響いてきた。


『――あー、ヴォルガだ。現金タワーを直してくれって言われたんだが、別の対応中で無理だ。誰かいけないか?』 ヴォルガの緊急要請が通信に入り、俺は息を呑んだ。

 だが、インカムからは何の応答も聞こえてこない。


 当然だ。

 ルークはフロアでの接客と怒涛の硬貨詰まりの対応に手一杯、フィオナたちもリニューアルした新店舗のレジと買取業務の処理で完全に手が離せない状態なのだ。

 誰も返事をする余裕なんてあるはずがなかった。


「……はぁ。仕方がねぇ、誰もいねぇなら俺が行くしかないじゃんか……」


 俺は深くため息を吐きながらインカムの通信スイッチを入れた。


「――了解、今から私が向かうとしよう」


 俺は脱いでいた幽霊騎士の兜を再び頭へと被り直し、ボイチェン用のスイッチを密かに入れる。


「くくく、コンテナが重いんだよ! こうなりゃヤケだ! ドンドン人がやってこないかなぁ! もっと優秀な奴らを集めて、今度こそ本当にただの引きこもりニートになってやるからなーーーっ!!」


 俺は鎧の奥で、そんなやりきれない文言をこれでもかとブツブツと吐き捨てながら、大量の硬貨が入ったクソ重いコンテナを両手に抱え、再び涙目でフロアの裏側へと全力で走っていくのだった。

 カジノタウンの頭脳となる金庫番をスカウトし、組織の土台を盤石にした、ダンジョンマスター。

 しかし、人間の強欲をこれでもかと刺激するこのカジノダンジョンが、このフィオナの参入をきっかけに、周辺4都市のギルドや他国をさらに巻き込み、ただの賭博場から巨大な独立国家へと急速に肥大化していく大激動の未来が始まろうとしているとは、今の段階の彼はまだ微塵も気付いていなかったのである。





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