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第1話:三度目の正直と、引きこもり城の設計図 







■第1話:三度目の正直と、引きこもり城の設計図 






 まるで夜空に浮かぶ神殿のような場所。

 そこで俺は天高く拳を突き上げてガッツポーズをしていた。


「異世界転生キターッ!!!」


「最近多いんですよねぇ、何故か転生を喜ぶ人間」


 目の前の超絶美人な女神様が、何故かため息を吐いているが関係無い。

 正社員採用という言葉に釣られブラック企業に入ってしまい、そこから抜け出ずにただ働くか飯食ってるか寝るだけの日々。何かをする気力も時間も無い。

 そして気づけば老人になっており、孤独死一直線。そんなクソみたいな人生から、突如おさらばできると言われれば死んだことなどどうでもいい。

 女神様の話だと、様々な世界があって様々な条件を整えることで安定化させる必要があるらしい。

 しかし事情の知らなさそうな俺らみたいなのを転生させることで根本的な解決を目指しているとのこと。


「では、こちらを回しなさい」


 出てきた赤色(転生先)と青色(能力)のガチャを回し、中身の確認もさせて貰えないまま、俺は手を振る女神様に見送られて強制転送された。


「……はあ、今日はあと何人残ってたっけ?面倒だわぁ、転生作業って」


 そこには先ほどまでとは違い、感情の無い顔で淡々と次の魂を呼び出す、疲れ切った女神の姿があった。


 ―――そして、ここからが俺の地獄の天丼の始まりだった。


 引き当てたチートスキル『鑑定眼』を武器に、超SF世界に転生したのが1回目。

 だが5歳のある日、都市防衛軍と敵ロボットの突発的な戦争に巻き込まれ、泣いていた女の子を突き飛ばして助けた直後、俺は落下してきた巨大な薬莢に踏み潰されて圧死した。

 気づけばまた神殿で、目の前の女神様は盛大なため息を吐いていた。


「……で、帰ってくるなんて聞いてませんけど?」


「……こちらもこんなにスグ帰ってくるつもりなかったんですけどねぇ~」


「さっさと回して、とっとと転生を」


 とお怒りの女神様に急かされ、2回目のガチャを回して投げ込まれたのは嵐の海の大型船。

 海の男の歴史が頭にぶち込まれた直後、船より巨大な魚に美味しく丸呑みにされた。

 転生を確認してから僅か十数秒の最速リターンである。


 三度目、神殿に戻った俺を見て、もはや女神様は不機嫌さを隠そうともしていなかった。


「あーーもー、うるさい!!簡単にポンポン死ぬ子なんて知りません!!こっちの手間も考えてよ!!」


「もう一度だけチャンスを下さいよぉぉぉぉぉ!!」


 記憶をリセットされる通常の輪廻に放り込まれそうになり、必死に狋り付いてガチャを回す。

 感謝と共にカプセルを手にした瞬間、もう転移が開始された。


 ―――いや、流石に速すぎません?


 ふと気づくと、そこは森の中だった。

 今回はある程度成長しているようだが、生きてきた記憶が入ってこない。

 川を覗くと生前の自分の顔。

 完全に手抜きの異世界転移だ。

 ボロ服スタートだが、何も無い空間に手を伸ばして能力を確認する。


 *太田 博之 ダンジョン管理人

  所持スキル:鑑定眼、通販、ダンジョン経営


「これはラッキーと思うべきなのか?」


 一度目の鑑定、二度目の通販、順調に死を重ねて、そして今回のダンジョン経営。

 これってアレか?通販でアイテムを揃えてダンジョン運営でもしろってか?

 というか、この能力の組み合わせ、なんだか妙に『引きこもれ』って言われている気がするんだが……。


「通販!」


 とスキルを使用してみると、出てきたカタログはラインナップが微妙で割高だ。

 そういや金はどうするんだと思っていると、『超絶可愛い絶対的美少女女神様からプレゼントが届きました』と通知があり、初期の通販軍資金として百万円が振り込まれた。

 これはもう超絶可愛い絶対的美少女女神様ですわ~。

 そんな空間で喜び勇んで通販サイトを見ていたのが悪かった。


「うわ~、そう来たか~」


 近くの茂みから低い唸り声が響き、5匹ほどのそこそこ大きいオオカミっぽいのが左右に分散しながら牙を向けてきた。

 完全に俺を獲物として狩る気満々のフォーメーション。

 これは完全にヤバイ。

 一斉に飛びかかってくるオオカミ達。

 ロクに運動をしたことがない俺。

 確実に死亡フラグである。


『通販を使用しますか?』


 と頭の中に突如響く言葉。

 もうこれしかないと思って勢い良く返事をする。

 そして少ない選択肢の中から、園芸用の剣型ショベルを選んだ。


 ―――次の瞬間、俺の手にそれは現れた。


 正面から喉元を狙って跳躍してきた1匹に対し、俺は死に物狂いでショベルを突き出す。

 確かな手ごたえと共に先端が深く刺さって血しぶきが出た。

 だが休む暇はない。

 横から迫る残りの影に、柄を振り回して滅茶苦茶に薙ぎ払い、文字通り泥臭く地面を転がりながら何度も身体を動かして必死に拒絶した。

 鉄の塊をがむしゃらに振り回す俺の狂気じみた抵抗に、オオカミ達は一旦距離を取る。

 重傷を負った1匹を引きずるようにして、残りのオオカミ達は何度も名残惜しそうにこちらを振り返り、未練を断ち切れない様子でゆっくりと森の中へと帰っていった。

 完全に気配が消えたのを確認し、疲れからついその場に座り込んでしまう。

 だが、次の瞬間。


「あだだだだだだだだだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 突如として襲い掛かって来る、激烈な筋肉痛。

 ロクに運動などしていない俺が重い鉄のショベルを必死に振り回し、何度も転がり回った結果だ。

 全身の繊維が引きちぎれるような痛みに地面をのたうち回り、動けぬまま苦しみながら何気なく周囲の状況を確認した俺は、心底戦慄した。

 ここは深い森の中にある川辺だ。

 遥か彼方の空を見上げれば、ドラゴンみたいな巨大な影が悠々と飛び回っている。

 さらに目を凝らせば、森のずっと奥の方にある巨木には、家ほどもある大蜘蛛が禍々しい巣を張っていた。

 おまけに離れた川の下流の方を見れば、明らかに恐竜じみた巨大なワニっぽい生物が、呑気にザブザブと水浴びをしている姿まで見えた。


 ぶっちゃけ勝てるかアホ、という世界だった。

 幸いにも、奴らは距離が離れているおかげでこちらの戦闘には気づいていないようだが、こんな危険地帯、例えまともな訓練を積んだ冒険者であっても……というか、そもそも人類はあの化け物どもに勝てるのだろうか。

 とりあえず今の筋肉痛の状態で少しでも移動して魔物に見つかったら、その瞬間に人生終了だ。


『本エリアを拠点としてダンジョンを構築しますか?』


 死を覚悟したその時、視界の端でスキルが反応した。

 激痛に耐えながらシステムの説明を少しだけ確認すると、どうやら『ダンジョン内は外からモンスターが入ってくることはない』らしい。

 ならば今、筋肉痛で死にかけている俺の逃げ場としてはここが最適だ。

 これ以上のシェルターは無い。

 俺はすぐ隣にあった切り立った崖に向かって必死に手を伸ばし、ダンジョン設置を発動した。

 地面が光ったと思えば、岩壁に洞窟の入口みたいなものが出来ていた。


 『ダンジョンが完成しました。ダンジョンレベル1です』


 俺は這うようにして洞窟へと逃げ込んだ。

 中は1人部屋ぐらいの空洞が開いていた。

 そしてその中央に小さなテーブルが置いてあり、その上に辞書サイズの『スキル説明書』の本がおいてある。


「普通こういうのってチュートリアルとかじゃね?」


 現実逃避を諦めて本を読み進めていた俺は、ある一文に目を留めて硬直した。


 ―――この『ダンジョン経営』スキルは、一度拠点を作るとそこから動かすことが出来ず、さらに『俺自身も基本的にはダンジョン外に出れない』ようになる。


「そういう重要なことは最初に説明しろよぉぉぉぉぉ!!!」


 思わず叫んだ。

 こんなどこか分からん森の中に閉じ込められ、外に出られないまま人生終了まで生活することが決定してしまった訳で……。

 ますます理不尽である。

 通販と経営の財布は一緒。

 維持費を稼がなきゃいけないのに、人と交流出来そうにないこんな場所で、どうやってお金を儲けろというのか。

 しかし、床に大の字になって天井を見つめながら、俺はふと考え直した。


 ……待てよ。


 よく考えれば、外はさっき見たドラゴンやら大蜘蛛やらが潜んでいる地獄のような危険地帯だ。

 そんな場所、別に外に出られなくなったところで、むしろ好都合(安全)なんじゃないか?

 それに、ダンジョンだからって普通にモンスターを呼び出して人類に喧嘩を売る必要もない。

 そんなことをすれば、どうせ理不尽なまでの冒険者による物量や、規格外の勇者みたいなのが出てきて負ける可能性がある。

 まともに戦うなんてリスクでしかないから選択肢から外すべきだ。

 だったら、戦うのではなく、向こうから金を置いていきたくなるような『娯楽』で稼げば良くね?

 その瞬間、俺の脳裏で2回分の転生記憶が一つに繋がった。


 1回目の超SF世界では、戦争の恐怖を忘れるため、人々が前時代的な『当たり付き自動販売機』のチカチカ光る液晶画面に釘付けになり、数字の抽選演出に狂ったように一喜一憂していた。

 2回目の海の男の人生では、いつ嵐で死ぬか分からない極限状態の船乗りたちが出し合って全財産を賭け事に突っ込んでいた。

 人間は、過酷な環境や命の危険がある場所ほど、目の前の分かりやすい『ギャンブル』の刺激に脳を焼かれるのだ。

 そして、ここには安全を求める冒険者たちがいる。

 

「目指すは、戦わないダンジョン。異世界初の『カジノ』だ!」


 これなら、俺は安全なダンジョンの奥に引きこもったまま、自動で金が転がり込んでくる。

 不労所得で安定収入の、究極の異世界ニート生活が可能じゃないか!


 ―――と、盛り上がったのは一瞬だった。


 ふと冷静になって、俺は再び愕然とした。

 待て、こんなドラゴンやら何やらが飛び交う地獄のような秘境の森の奥深くまで、一体誰がカジノをやりに来るんだ?

 誰も来なけりゃ売上ゼロ、維持費で早々に詰んで人生終了だ。

 焦って必死に辞書をめくると、ダンジョンスキルの購入項目に目が留まった。

 そこには、周辺の相手に対して『何となくこっちの方に行きたくな~る~』という一種の誘導スキル『ダンジョン妖精の導き』や、道中のモンスター遭遇率を大幅に低下させる『妖精の加護』が売られていた。


「あっぶね……これが無きゃ早々に詰んでたわ……」


 冷や汗を流しながら、俺はそれらを即座に購入した。

 他にも、ダンジョン内限定とはいえ、破格の安さで便利そうなスキルが大量に並んでいる。

 ダンジョン内でしか使用できないという制約があるっぽいけれど、一歩も外に出られない俺からすれば、全て永続スキルみたいなものだ。

 これは初期投資と割り切ろう。

 俺はカタログの便利スキルを喜んで片っ端から購入していった。

 そうして手に入れたスキルと軍資金を使い、まずはフロア内に通販で仕入れた初期型の『スロットマシン』を数台設置した。

 

 さらに、万が一にでも素顔を晒して外の冒険者に恨まれたり、命を狙われたりするリスクを防ぐため、俺はそのため事前にダンジョン管理のポイントを消費して『変装コスプレセット』とやらを購入しておいた。

 変装すれば、誰がダンジョンマスターか分からない。

 自衛のためなら多少変な恰好でも構わない。

 準備を整え、俺は手に入れたスキルを乱発した。

 周辺の4都市に向けて『ダンジョン妖精の導き』を使用し、さらに道中のモンスター遭遇率を大幅に低下させる『妖精の加護』も重ねて発動。

 仕上げに、洞窟の入口にこれ以上なくポップな手書きの看板をドン、と設置した。


『ようこそ!魔道具賭博場・カジノダンジョンへ!!』 


「いや~、我ながら働いた」


 そう言いつつ湯沸かし器を使って作ったカップ麺を食べながら、俺は千里眼で外の様子を伺った。

 ちょうどその時、最初の獲物……いや、冒険者たちが洞窟の前に現れるのが見えた。







*誤字脱字などは感想もしくは修正機能からお知らせ頂けると幸いです。

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