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未来の旦那様(猫)から指令が来ました!?〜やらかし夫の溺愛プロジェクト〜  作者: しぃ太郎


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第27話 未来猫レイナルト


「信じてください、旦那様!」


 上級メイドたちは、自分は悪くないのだと、レイナルト様に縋り付くように言い訳を始めた。

 それを無言で聞いている、レイナルト様と執事長。

 表情が険しくて怖いです。

 彼女たちは、もう少し空気を読んだほうがいいのでは……。


「……今さら取り繕っても無駄よ?まずは謝罪からではないかしら」

「……!奥さまが謝罪するべきです!お客様をきちんとおもてなしできなかったのは貴女でしょう!?」


 思わず口を挟んだけれど、思い切り睨まれてしまった。

 歯ぎしりのような音まで聞こえてくる。

 まさか私が責められるとは予想外でした。


 食い下がる彼女たちを一蹴し、レイナルト様は命令した。


「下がれ。そもそもお前達に、発言することを許していない」

「そんな……!」


 そこで数人の顔色が一気に悪くなった。

 ふらりと足をよろけさせるメイドも居る。


「言い逃れはさせない。この屋敷で起きたことなのに、私の耳に入らないと思ったのか。上級メイドが一人もクララの側についていないとは、一体どういうことか説明してもらおうか」


「誤解です……!私たちは奥さまに疎まれ、遠ざけられたのです……!そのうえ、この失敗の責任まで私たちに押し付けるおつもりなんだわ!」


 そんな中でも、ノーラは声高に続けた。

 レイナルト様の纏う温度が、さらに冷たくなった。


「お前たちは、別の場所で職務を放棄していたと報告が上がっている」

「……違います!そこの専属メイドに仕事を奪われたんです」


 レイナルト様は苛立った様子で腕を組んだ。


「だから、お前たちの会話すら耳に入っていると言っているだろう。ああ、何だったか……『運が良かった』『責任は新人に押し付けよう』?もっと必要か?」


 さらに追求するため、彼が口を開いた瞬間――。


 ――パリーン!!

 陶器の割れ、次々と物が落ちる音がした。


「キャーーー!」


 次の瞬間、何人もの悲鳴が重なった。


「……なんだ!?」


 その場の誰もが、状況を理解できずに視線を彷徨わせ、レイナルト様がいち早く動いた。


「なんだ!何が起きた……!?」


 騒ぎのあった場所はここから近い。

 私も慌ててレイナルト様の後を追った。

 給仕室!?

 ようやく追いつくと、レイナルト様はその部屋の前で立ち止まっていた。


 中を覗き込むと、開け放たれた窓から風が吹き込み、カーテンがパタパタと揺れている。


 ――窓が開いている?


 そこまで広くない給仕室の床は、散乱した陶器の破片や、振りまかれた茶葉で悲惨な状態だった。


「……一体、なにが」

 レイナルト様が唖然と呟き、その惨状を見た私も息を呑んだ。

「え……!?」


 その場にいた使用人たちが、一斉にレイナルト様へ弁解しはじめた。


「だ、旦那様……!違うんです!今、いきなり猫が来て、暴れて……!」

「――黙れ!」


 レイナルト様は、泣いて縋るメイドを一喝し、床から何かを拾い上げた。


 その指には、鮮やかな青い模様が描かれた陶器の破片が――。

 まさか……家宝の茶器なのでは……!?


『相変わらず甘いな、レイナルト。甘い処罰は、ただ野放しにしているのと変わらない』

「……!くそっ」


 後から追いついてきた執事長が、微かな悲鳴を上げて顔を青くした。


「……そんな」


 呆然とした声は誰のものだったのか。


「代々受け継がれてきた茶器が……!」


 集まってきた使用人たちも、その光景を見て騒然としている。

 誰もが、割れた茶器の価値を知っていた。

 さすがの私でも気づきます。

 今まさに、レイナルト様が話題にしていた客人用のカップが割れたのだと。


「違います!違う……!私じゃない!」


 ノーラが甲高い声で必死に否定するが、誰もが息を詰めてレイナルト様を見つめていた。


「……レイナルト様」


 ふと、指先を彼の方へ伸ばしていたのに気づいた。

 いつの間に……。

 ギュッとその指先を握り込んだ。


 私とレイナルト様にはわかってしまう。

 先ほどの使用人の発言に出てきた猫が「彼」のことだと――。


 窓の外から聞こえる声は、確かにニャン旦那様のものでした。

 けれど、いつもと雰囲気が違います……。


『これで、一掃できるな』


 冷ややかな猫の声が、やけに大きく響いた。

 その言葉に、レイナルト様が苦々しい顔をした。


「……こんな事態になったのだから、それぞれ相応の覚悟をしておくように」

 ノーラも他の上級メイドも、青ざめた顔でぶるぶると震えている。

 その場に崩れ落ちる娘もいた。


「申し訳ありません。今回の件は、ノーラに任せた私の責任です」

 冷静な声が、動揺の冷めない部屋に落とされた。

 それは、レイナルト様と私の背後から聞こえてきた謝罪の言葉だった。

 その声に一瞬だけ周囲がざわつき、張りつめた空気が揺れた。


 ――メイド長だ。

 いつの間に来たのか。

 執事長の表情も、さらに険しいものに変わった。


 ノーラの様子は、もう見ていられないほどだ。

 冷や汗をかき、髪を振り乱し、忙しなく視線を彷徨わせている。

 この場には彼女の味方が一人もいない。


「メイド長。随分と遅いな」


 レイナルト様はそちらに顔を向け、そうメイド長に指摘したが、彼女はずっと頭を上げなかった。


「申し訳ありません。管理棚の確認をしておりました。茶器の盗難がありました。そして、今回、その鍵を任せていた者はノーラです」


 あぁ……。

 勝手に持ち出して、まだ返却していないとなると、確かに盗難扱いされても不思議じゃありません。

 価値が計り知れない高級品、その盗難事件になってしまいました。

 そして、最悪なことに破損まで――。


 ここまで大事になるとは、私も少し見積もりが甘すぎた。

 レイナルト様はどうするのでしょうか……。


「メイド長。それはまず、旦那様にご報告するべきです。鍵の件はあなたの落ち度ですね」


 執事長も硬い声だった。

 きっと、本来は「重大なミス」として始末をつけたかったのでしょう。

 それが、大勢の前で「盗難破損事件」になってしまいました。

 メイド長が頭を上げた。


「この茶器については、徹底的に追求して処罰を下すべきです。彼女たちがここまで愚かだとは……」


 メイド長はノーラたちを冷ややかに一瞥した。


「このヴィセルク伯爵家に、不釣り合いな人間は要りません」


 きっぱりと告げるメイド長の言葉に迷いはなかった。

 執事長がメイド長を叱責した。


「彼女たちだけの責任では、済まないでしょう。使用人を統括するべきあなたが、なぜ……!」

「管理責任は私にあります。降格処分も受け入れます。しかし、上級メイドへの厳しい処罰を求めます。私の手にも負えません」


 もう一度執事長が、詰め寄ろうとした瞬間、ふらりと彼の身体が傾いだ。

 そのまま、壁に手をつく。


「こんな事態になる前になぜ、もっと教育を徹底しなかったのです……!」


 そんな状態で、なおも言葉を続けようとしたとき、ラルフが肩を支えた。


「父上、興奮しすぎですよ……。ここはレイナルト様に任せましょう」


 ラルフは執事長を気遣うように言った後、レイナルト様に申告した。


「旦那様。処分が下れば上級メイドの大半を失います。ここでメイド長まで降格になると、屋敷が回りません」


 ラルフに頷いてから、レイナルト様はこの場を収めた。


「上級メイドは解雇の上、送り返す。早速荷物を用意するように。ノーラは別途責任を追及する。男爵家への通告を待て」


 上級メイドはレイナルト様の言葉に、バッと頭を下げる。

 ノーラの反応は鈍く、のろのろと礼をした。


「なんで……嘘よ……なんで……。割れたのは私のせいじゃないもの……」


 ぶつぶつと呟く言葉には感情がこもっておらず、ノーラはずっと同じことを繰り返していた。


「メイド長の処分は保留とする。だが二度目はない」


 静まり返った部屋に、猫の声だけが響いた。


『掃除完了だ』


 ――ニャン旦那様……。

 レイナルト様……。


 私が視線を向けると、レイナルト様は窓の外を睨んで拳を握っていた。


 

ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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