プロローグ 『あの日の君にもう一度会いたい』
プロローグを差し替えました。
「主よ、この魂に永遠の安息を――」
耳が痛いほどの静寂の中、神父の声だけがずっと聞こえていた。
“あの猫”は昨夜、一人で庭に埋めてやった。
ずっと自分の代わりに、クララに寄り添ってくれていたやつだ。
どうせなら……一緒に棺に入れてやりたかったが……。
思わず視界が滲んだ。
自分が立っているのかすらわからない。
クララの母親の泣き声が耳を離れなかった。
子爵の、俺を射殺しそうな視線も忘れられない。
何故。
俺は最初から間違えた。
何故。
彼女に手を伸ばしてしまった?
何故……。
幸せにできないなら、すぐに手放してあげるべきだった。
しかし、疑問が残る。
何故、クララと猫が同時に死んだ?
これは偶然なのか?
棺を運び出す前に、頼み込んで二人きりにしてもらった。
久しぶりに触れた肌は硬く冷たい。
痩せて落ち窪んでしまった、クララの顔に触れてみる。
彼女の笑顔はもう二度と戻らずに、このまま土に埋められてしまう。
喉から空気が漏れた。
自分が泣いていいはずがない。
誰よりも彼女を救える立場だった。
それでも、嗚咽に似た何かを堰き止められなかった。
しばらく経った頃、背後で誰かの気配がした。
痺れを切らした誰かだろう――。
「すまない……もう少し……」
その瞬間、激しい衝撃が身体を襲った。
肺から空気が漏れ、目の前のクララに赤い雫が降りかかった。
「……がっ!……はっ」
刺された――?
誰に?
振り返ろうとして――止めた。
……いや、このままでいい。
今更、何の意味がある。
こんな男は、刺されても当然だ。
それよりも……クララに血が掛かってしまった。
静かに横たわる彼女には似つかわしくない。
拭ってあげようと彼女に指を伸ばすが、さらに血で汚すだけだった。
――結局、自分はクララを不幸にして終わらせただけだった。
そのまま力尽き、膝から床に崩れ落ちる。
「……全部、お前のせいだ……」
背後からくぐもった声が聞こえた。
誰の声なのかは、もうわからない。
だが――。
何故かその言葉を聞き、誰かから責められることに安堵している自分がいた。
……そうだ。これはすべて自分が招いた結果だ。
意識が朦朧とし、視界が消えかかり、最後は暗闇に落ちた。
暗がりの中で最後に思ったことは――。
『あの日の君にもう一度会いたい』
ただ、それだけだった。




