ゴトフリートの夜祭 6
「姫」
さっきからアルノルドはおだやかさを懸命に装った声をかけていた。
「姫、教えてください。エリノルさまに何があったのですか?」
最初のうち姫は取り乱して問いかけを聞き取らなかったが、クラーエスが人工呼吸と心マッサージを繰り返しているのを見ているうちに、徐々に気持ちを取り戻してきたようだ。
「わ、わからないの。わたしが来たら、エ、エリノルさまが、突然、た、倒れて」
「そうでしたか。それでは姫もさぞ驚かれたでしょう。それで、エリノルさまが倒れてから我々が駆けつけるまで、どのくらい時間がかかりましたか?」
姫は頭を振り、懸命に考えようとした。いろいろなことがめまぐるしく駆けめぐるのに、答えがなかなか見あたらない。姫はぼんやりとなった。
「わ、わからないけど、でも、そんなに時間は、経ってない」
「そんなに、と言いますと? それは一分くらいでしたか? それとも十分くらいでしたか?」
姫は再び取り乱しかけた。
「それがなんなのよ! エリノルさまは、エリノルさまが……」
「大事なことなんです、姫」
肩を揺すられ、姫は必死になって答えた。
「すぐだった。びっくりするくらい、すぐよ!」
「それはよかった」
「え?」
姫はアルノルドを振り返った。
さっきからきつく押さえられていたが、彼はおだやかな笑みを姫に向けていた。
「我々近衛は、このような万が一の場合の訓練も受けています。それだけすぐに我々が駆けつけられたのなら、間に合うかもしれませんよ、姫」
「間に、合う……?」
「はい」
それを聞いたら、アルノルドの顔が暗い中でも笑顔を浮かべているのを見たら、温かな物が喉を塞ぐようにこみ上げてきて、姫の頬を熱い涙が流れ落ちた。
「間に合うよう、クラーエスが、今、がんばっています」
姫はこくりと頷いた。一緒にぽろぽろと涙がこぼれて、とまらなくなった。
エリノルさま、死なないで。
やっと、姫は心からそれを願った。
「立てますか?」
そう言われれば、座り込んだ足の感覚は冷えすぎてもうない。立てるかどうかなど、わからなかった。
「馬車の中でお待ちください。ここは冷えます」
顔を上げると、隣にはヴェステルベリ家の馭者も立っていて、その後ろにはヤットルッドに借りた馬車も来ていた。
けれども姫は首を振った。
「ううん。ここに、いるわ。エリノルさまのそばに、いる」
わたしは見守って差し上げなければ。
「エリノルさまのおそばを離れない」
姫はあふれてくる涙にかすむエリノルの姿を、ただ一心に見つめた。
アルノルドは何も言わなかった。
クラーエスはとにかく、訓練を受けたとおりに人工呼吸と心マッサージを繰り返した。しかし練習ではない、本当の事態はこれがはじめてだ。最初は力の加減を思い出せなかった。肋骨を折ったかもしれないが、呼吸も心臓も停止していて、これ以上の最悪の事態はない。骨折と引き替えに生き返れたなら安い物だ。
逝くな、エリノル。
クラーエスは必死で念じていた。
エイジェルステット家の魔法使いなら、よみがえってみせろ。
姫を悲しませるな、エリノル。




