40.募る違和感
次の日、私はデュークとともにセラフィーナのもとへと向かっていた。
一年の教室ではイレイン王女とザカリーが仲良く話し、少し離れた場所にセラフィーナは座っていた。
「セラフィーナ様、少しお時間よろしいでしょうか?」
「フェリシア様、それにウォルフォード様も。かまいません」
外を眺めていたセラフィーナは振り返り、私たちを見ると小さく目を見張ったが、穏やかな笑みを浮かべた。
イレイン王女たちにも断りを入れ、私たちは使用していない部屋へと移動する。
その最中、じっと観察するが、目が合うとにこっと微笑まれ、話し合いについて気負った様子は見受けられない。
これまで見てきたなかで怪しい動きはなかったが、交流会で初めてベリンダの話題になった際、『フェリシア様も無事に乗り切られ、こうしてお会いすることができてよかったです』と彼女は言った。
その時は気にならず、ベリンダがデュークに横恋慕して大変だったとの労わりの言葉だと、会話の流れ、被害者同士からの労いとして普通に受け止めていた。
ベリンダが私たちに多大な迷惑をかけたのは周知の事実。
大変だったことに対して無事と言いたかったのなら別におかしな言葉ではないが、今から考えると少し引っかかりを覚える。
ベリンダとの間で起きたことは、死をも望まれるような事件とは知らないはず。なのに、無事に乗り切るとは、まるで試練があったのを知っていたかのようではないか。
ここに来る前にベンのもとに赴き話を聞いたが、普段から宝石関連でやり取りを主にしていたのがセラフィーナで、剣術大会の時にベンが会っていたのも彼女。
誘拐事件当日は窓口となるセラフィーナの姿はなく、急を要すると王女に直接話しかけたベンに不自然な点はない。
けれど、ベンとやり取りをしていたセラフィーナなら、そうするように仕向けることができたのではないか。
イレイン王女のお心に添うためとの名分から、普段から一緒にいる彼女なら期日や内容の調整、タイミングも計ることは不可能ではない。
よくよく考えればあの日の放課後も、なぜイレイン王女を探すのに私たち三年のクラスの前を通ったのか。
ここ最近姉様と言われ慕ってもらってはいるが、イレイン王女がそれ以前も以降も私のもとに一人で来たことはない。
先に庭園を回ってからならわかるが、順番が逆じゃないのか。ブレスレットも、まるでこの場所だというように落ちていた。
どれもそれほどおかしくはない。だけど、一つひとつを上げていくと少しずつ違和感が大きくなっていく。
「それでお話とは?」
穏やかな声。落ち着きいつもと変わらぬ彼女を前にすると、勘違いではないかと思えてくる。
「セラフィーナ様が、ホイストン様と主に宝石関連のやり取りをしていたと聞きました」
「そうですね。ホイストン様にはこちらの要望に丁寧に対応していただけており、イレイン様も喜んでおられます」
イレイン王女がセラフィーナに信頼を置いているのは、周知の事実。セラフィーナは常にイレイン王女を立てた話し方をする。
それほど仲が良いと見ることもできるが、セラフィーナの話し方や情報次第で、イレイン王女が受ける印象は随分と変わるのではないか。
そう考えると、見方ががらりと変わる。
「いくつかお聞きしたいことがあります。事件当日、秘密のルートに残された足跡には女性のものがあったようですが、誰のものかわかりますか?」
「あっ、それは私です。襲われましたがすぐに目を覚まし、脅されて自分で歩くように言われたんです」
「証言されなかったのですか?」
「聞かれなかったので。今、言われて思い出しましたが問題があるのでしょうか?」
事件後ばたばたしていたし、何がどれだけ大事なことなのかはわからないので、この反応も特におかしなことはなく、王女のための行動は一貫している。
その延長であの日の放課後、ベンがイレイン王女に話しかけセラフィーナとはぐれ、心配したセラフィーナと私が一緒に王女を探すことになり、その流れで攫われた。
全部、偶然だ。だけど、どれもセラフィーナがいなければ成り立たない。証拠はないので、もし答えを得たとしても現状は何も変わることはない。
だが、確実に秘密のルートを知っている人物がいるのは確か。その人物が、もしかしたら転生者か回帰者なのではないか。
その疑問を持てるのは、私が転生者だから。
何か見落としていないかを思い返した際に、この事件だけではなく前回のこと、ベリンダが恨み節を撒き散らす際に、『アイツら』や『アイツ』と言っていたことを思い出した。
『アイツ』と呼ばれた人物はこの世界にいないのだろうかとの疑問に、ぞわっと鳥肌が立った。
可能性でいうとヨネバミア国側にベリンダのように転生、もしくは回帰した人物がいることはないとは言えない。すでに、私やデュークを含め四人はいるのだ。
あの時のことはあまりにも不快で、終わったことだとしまい込もうとしていた。
だが、ベリンダの転生前の恨み節は強烈で、彼女が去っても鮮明に思い出すことができるほど忘れられないものだった。
もし、セラフィーナが今回のことに関わっていたとして、何がしたかったのか、殺意があるのかないのかもわからない上に、糾弾できる証拠もない。
デュークを見ると、私の意図を理解し静かに頷いてくれた。
もし想像通りなのだとしたら確実な証拠がない限り公になることはなく、ならば答えてくれるだろうかと私は口を開いた。
巻き込まれたことを糾弾したいわけではない。
もしセラフィーナがそうなら、死に役を終わらせる方法、もしくは手がかりを持っているかもしれない。
「教えてください。あなたは転生、もしくは回帰した方でしょうか?」
私の質問にゆっくりと首を傾げ、セラフィーナは余裕たっぷりに微笑んだ。




