24.騎士の兄
先輩騎士の話を聞いた帰りの道中、横を歩いていた兄がずいっと距離を縮め私の顔を覗き込んできた。私も視線を上げると、目が細められる。
「少しはすっきりしたか?」
「はい。ありがとうございます」
一人で考えるよりも気分転換、何より考えていたことをまとめることができた。
目を付けられている可能性もあるが、すでに起こってしまったことに対しては意外とすんなりと腹をくくれている。
漠然とした不安より、そういったことが起こるかもしれない、それが物語のイベントに繋がるかもしれない可能性に希望が見える。
道筋が見えたことにより、どうしたいか、すべきことがはっきりする。
愛情を宿した私と同じ色をしたエメラルドの瞳を見返すと、にかっとカーティスは笑みを浮かべ、ぽんぽんと私の頭を叩いた。
「少しはいい表情になったな。事件は俺たちが捜査するから任せてくれたらいい。先輩も知り合いだからと罪を犯した者を見逃すような人物ではない」
「はい」
むしろ、長年の付き合いがあるからこそ、必ず捕まえるのだとの意気込みを感じ取った。
それにもともと自分一人でなんとかしようと、できると思っての行動ではない。
事件に巻き込まれる運命ならば、死に役にならないよう全力をぶつけるだけだ。
兄だって、デュークだっている。頼れる周囲がたくさんいるのだから、できる限り最善を尽くすのみである。
ただ、そのデュークと関係がぎこちないままだ。
窃盗犯と接触した可能性も含め、それによって受ける衝撃を思うとデュークを悲しませたくない、このままにしてはおけないと気持ちを強くする。
「それで、デュークとは深刻なのか?」
私の考えを見抜いたようなタイミングで聞かれ目を丸くすると、二人を長い間見てきたからわかるとくしゃくしゃと頭を撫でられた。
「いえ、…………どうでしょう。大きな喧嘩をしたわけでもありませんし、ただ、ちょっと譲れない事が互いにあって、それをどうすればいいかわからない状態なのでしょうか」
一度否定しかけ、兄に偽ってもしかたないかと、その大きな手の温もりがくすぐったくて笑いながら答える。
ふぅ~んと聞いていたカーティスは私の頭から手を外し、今度は自分の頭の後ろに両手を回すと話を続けた。
「まあ。同じ血の繋がった家族でもそういうこともあるしな。これまでフェリたちは意見をぶつけるようなことがなかったし、ぶつかるときはとことんぶつかればいい。ぶつからないと相手の考えも、そして意外と自分のことも自分でわかっていないことがあるからな」
「そう、なのでしょうか……」
譲れないことはどこまでも平行線のようで、どうしたら互いに納得できるのかこの件は見えない。だから余計に、早く事件解決をと急いてしまうのかもしれない。
「二人はどちらも遠慮するタイプだからな。まだぶつかりたりないんじゃないか? そのせいで解決すべきラインが見えなくて、互いにどうすればいいのかわらなくなっている」
「そう言われると、そうかもしれません」
ぶつかる前に互いに引いてしまっている状態。だから、これ以上拗れはしないけれど、わだかまりは残ったままじれったい関係が続いている。
私たちをよく知るカーティスだからこそ、すっとその言葉が浸透してくる。
ぶつかり切れていないと言われ納得し、意外と自分のこともわかっていないとの言葉が妙に胸を突く。
「ぶつかるのも信頼があるからこその話だ。そこから、まあ、簡単とはいかないかもしれないが、互いの気持ちを吐き出し理解し、譲り合えるラインを感情とともに調整していく。長く一緒にいたい相手ほどそこは避けないほうがいい。そして自分を押し通しすぎず、かといって我慢しすぎず、というのをうまくやらないとな」
「自分を押し通しすぎず、我慢しすぎず……」
「ああ。口で言うのは簡単だがそこが難しいんだよな。その時の事情や、機嫌や体調とかいろいろ関わってくるし」
頭で腕を組みながら私を見下ろし、ははっと笑うカーティスの瞳はどこまでも柔らかで労わりの色が乗っていた。
オルブライト家の太陽のような存在の兄は、思ったら即実行の熱血タイプなのでそのパワーを持ってこれまで順調に進んでいると思っていたが、兄は兄で苦労をしてきたのかもしれない。
そういったことを見せてこなかった、いや、私が幼すぎて気づけなかった姿と、どんな時でも絶対的な味方である兄の存在に、私は頬を緩めた。
「どんと言いたいこと互いにぶつけたらいい。そこからどうするかはフェリたち次第だが。まあ、互いに想い合って遠慮するフェリたちなら、きっかけさえあれば折り合いも見つけられるはずだ」
「そうですね。まず、話し合ってみたいと思います」
死に役だった私にとって、生きている今が素晴らしい。あの出来事を乗り越えたのだから、これからのこともきっと乗り越えられる。
何より諦めなければと何度も言い聞かせ、諦めきれなかったデューク。気持ちが通じ合っているとわかっているのに、ぎこちないままではいたくない。
私が力強く頷くと、カーティスは飛び切りの朗らかな笑みを浮かべた。
同じプラチナブロンドの髪なのに、太陽の下でカーティスの髪はその性格からかさらにまばゆく感じる。
「オルブライト家は気になっていることを突き詰めないと気が済まない気質だから、一度気が済むまでぶつかってみればいい。フェリたちの間の細かな問題はわからないが、デュークがフェリしか見えてないのはずっとだ。フェリが無茶しない限り、デュークがフェリを危険な目に遭わせるわけがないと信じている。わかっているとは思うが、デュークや俺たち家族、周りを頼ることを忘れないでくれ」
「そうします」
改めて周囲の愛情を噛み締め、デュークと向き合って話し合おうと私は心に決めた。




