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【4/1書籍発売&コミカライズ連載中】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます  作者: 橋本彩里
第二部

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11.情報と協力者


 見慣れた店内。商品の説明をし終えると、イレイン王女がこれまでで一番弾んだ声を上げた。


「ものすごく拘りを感じるものばかりですね」


 期待のこもった眼差しがひたと私を据え、妙に澄んだ声が耳を打つ。

 イレイン王女の感嘆の声に、私とジャクリーンは顔を合わせて頬を緩ませた。自慢の職人たちの作品を褒めてもらえるのは単純に嬉しい。


 その中にはドミニクの作品も数点あり、その内の一つを特別に販売することになった。

 手に入れることのできたイレイン王女は満足そうににこにこと笑みを浮かべ、ぱんっと音を立てて両手を合わせた。


「とても美しかったです。何より、美しさを最大限に引き出す職人の技術が光っていました。見比べるとよりわかりやすいですね。教えてもらっていた通りです」

「そうですね」


 興奮した様子で少し早口で話すイレイン王女の言葉に頷いたセラフィーナが、そこで気遣わしげに私を見た。

 その視線は私の機微をうかがうもので、以前も話していたこともありベリンダのことなのだとわかる。

 気にしないでと笑みを浮かべると、ほっと息をついたセラフィーナが話を続ける。


「ベリンダ嬢が国家資格を持つドミニク氏が作る宝石は有名で格別なのだと熱心に話しておられたので、イレイン様はずっと手に入れたいと話していたんです。発表前の作品を先に見せていただき、ありがとうございます」

「いえ。私たちも、欲している方の手に渡って嬉しいですわ。ね?」

「ええ。そうです」


 ジャクリーンの言葉に私も同意すると、セラフィーナに続くように「ありがとう」と礼を告げたイレイン王女は、アピールするようにちらりとクリストファー殿下に視線をやった。


「本当に美しかったです。できればドミニク氏と展覧会で見た宝石のコラボを手にしてみたいですわ。それと現在王都で起こっている窃盗の件ですが、海に渡るようなことがあれば私たち独自の情報網がありますので、必要でしたら仰ってください」

「我が国の宝石や職人を高く評価いただき嬉しいですね。どこまで市場に回るかは現時点では未定ですが、宝石を愛する殿下の手に届くよう調整いたしましょう。宝石の件も、お申し出に感謝いたします」


 クリストファー殿下が当たり障りなく、それでいて最高の笑顔で応えると、イレイン王女がほわっと頬を赤く染めた。

 ジャクリーンの青みがかったグレーの瞳が、その様子を捉えたのを確認する。


 ――これは、ちょっと、どうなのかな……。


 クリストファー殿下に向けたイレイン王女の視線や表情は気になると同時に、クリストファー殿下の発言も私にとって気になるところ。

 王家は宝石を手元にすべておいておくつもりはないということは、物語のように現実もピンクローザを手放すのかもしれない。

 死に役をまだ完全に回避できていない、ヒロインのイベントが私にシフトチェンジしている可能性がある限り、私は事件に巻き込まれる可能性はある。


 思い出した物語の展開通りに進むようなら、逸話のことも含め事件解決に貢献し、ピンクローザを手に入れるぐらいの意気込み、目標を持ってこれから動くほうが、逃げ回るより私の目的も果たせるのではないか。

 自分が動くべき方針が定まり、私は王女たちを見守るように立っているユリシーズのほうへと移動し話しかけた。


「イレイン殿下は宝石がお好きですね。なかでもピンクローザを熱心に見ておられましたが、得たいと本気で思われているのでしょうか?」


 ユリシーズとはイレイン王女の情報を得るためもあるけれど、同じクラスと話す機会もあり、彼の話しやすい人柄もあって親交を深めていた。

 宝石の流れだしと直球で訊ねると、ユリシーズがぱちっと瞬きし、にこりと微笑み朗らかな声を上げた。


「フェリシアちゃんもピンクローザが気になるの?」

「そうですね。イレイン殿下に逸話を教えていただいたので目がいきます。そういえば、我が国ではあのような逸話を聞いたことがなかったのですが、イレイン殿下はどこでお知りになったのでしょう?」

「ああ、あれねぇ。僕も詳しくはないけれど、古い伝承があるんだ。ちょっと胡散臭く感じるところもあるけど、情報源あっての発言だから話半分くらいがいいと思うよ」


 ピンクローザと名付けられる背景のような話を期待したけれど、嘘はなくとも確証もない情報のようだ。


「そうですか……」

「まあ、願いが叶うなんて、半信半疑でも持っていればいいことがありそうだしいいよね。イレイン様たち女性陣もたまに話題に出しては、今日みたいに楽しそうに話していますよ。それに関しては僕も憧れるな」


 私のほうを見て目を細めたユリシーズの虹彩が、かすかに揺れる。ふっ、と息を吐き出した彼の醸し出す空気に耐え切れず、私は話を続けた。


「男の方もそうなのですか?」

「もちろん。男性から贈られたらロマンチックなんてこと言っていたけど、相手の願いを叶えたい、幸せにしたいと想う相手がいて、それを最高の形で伝えられるなんて素敵ですよね。大事な女性に、こちらの気持ちを永遠に輝く宝石とともに伝えられる。それを身に着けている限り、これからもずっとその時の思いは色褪せない。すごくロマンチックだ」

「贈る側の男性にもそう思ってもらえると、なお幸せだと思います」


 本当にそう思って力強く告げると、ユリシーズが目を見張り、ふにゃっと笑った。


「そのように言ってもらえるとは思わなかったな……」

「どうしてですか?」


 不思議に思って問うと、ユリシーズはぽりっと頬をかき、言いにくそうにいつもより声を小さくした。


「ほら、僕はよく軽いと言われるから。こういう発言すると、気障(きざ)だとか、また女性をたぶらかすためだと苦言が入るんだ」

「そんな! ユリシーズ様はいつも周囲に気を遣われていますし、交流もユリシーズ様がそうやって和ませてくれているから、スムーズに進んでいるのだと思っています。もっと堂々と思うことを言ってもいいです」

「そうかな?」

「今みたいな素敵な考えを知れば、もっとユリシーズ様の魅力が女性に伝わると思いますよ」


 私がそう告げると、ユリシーズがとても眩しいものを見るかのように私を見た。

 それから深く考え込むように私を見つめ、その表情はどこか憂いを抱えているようにも見えて気になったが、続くユリシーズの言葉にそんなことは吹っ飛んだ。


「ちょっと、話がしたいのだけどいいかな?」

「ええ。なんでしょう?」


 そこで少しは離れた位置にいたデュークが、私たちを見てつっと眉間にしわを寄せた。

 私が大丈夫だと首を振ると、ふぅっと息を吐き出しそれ以上何も反応はなかったので、私はユリシーズと向き合った。


「ここ最近、王都で宝石が盗まれることが増えていると聞きました。このお店は大丈夫でしょうか?」

「ええ。警備も強化していますから、今のところは問題ありません。それがどうされたのですか?」

「個人的に追っている窃盗団の仕業の可能性があるので、注意が必要かと思いまして」


 いつもの軽薄な彼の表情とは思えない真剣な顔にどきっと心臓が跳ね、食い入るようにユリシーズを見る。


「窃盗団ですか?」

「はい。実は展覧会が開催されると聞き、彼らが動くのではないかと思っていたところで今回の騒ぎがあったと聞き、彼らがこの国で活動している可能性もあるのではないかと。この店に置かれている商品は、どれも価値が高いものばかりですから」


 まさかの窃盗団についての話に、私は目を見張り一歩ユリシーズに近づいた。


「そんな規模の大きな窃盗団なのですか?」

「あくまで可能性だけど、国境なき窃盗団と僕は呼んでいる。どこまで広がっているのかはわからないが、悪に惹かれる、簡単に稼げる話に乗る者はどこにでもいて、かなり大きいはずだ」


 ユリシーズが言うように、展覧会に合わせてこの国をターゲットにしての動きならば、この時期に王都で起こっている窃盗の多発も頷ける。


「どうしてその話を私に?」

「フェリシアちゃんが話しやすかったから。あと、この店のこと、君の兄が王都で騎士をしていると聞いたからかな。そして心配性な婚約者を視線で止めてまで、フェリシアちゃんも僕に聞きたいことがあるようだったから。違う?」


 どうやら見透かされているようだ。


「そうですね。自国ではわからないこと、ヨネバミア国のことをせっかくの交流会なので多く知りたい、できれば同じクラスのユリシーズ様ともっと話をできたらとは思っています」


 王都で起こっている窃盗とピンクローザの窃盗に繋がる情報を持っていることを知り、ますますユリシーズには聞きたいことがでてきた。


「ははっ。好奇心旺盛だね。デューク殿も心配なんじゃないかな? いいの?」

「デューク様には、このことも後で話しますので問題ありません。いいですよね?」

「もちろん。そのつもりで話したから。この国で何かあった場合、僕だけではどうしようもないからね。ただ、窃盗団のことで何かわかれば教えてほしいと思っている。その代わり、フェリシアちゃんが知りたい情報はわかる範囲で答えるからなんでも聞いて」


 ぱちりと軽やかにウインクされ、私はふっと笑ってしまう。

 真面目な話なのに重くなりすぎないよう、しかもこちらに配慮された提案に心が軽くなる。思わぬところから協力者を得られ、態度は軽いけれどユリシーズならば信頼できると笑みを深くした。



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