9.見え始めた問題
ジャクリーンとケネスと事業を展開した私たちは、工房の近くに空き家ができたのですぐに買い取り、そこを事業の拠点にした。
オープンした店は順調で、その店の二階で私は二人とともに成果を見ながら今後の方針の話し合いをしていた。
宝飾品のラインナップやターゲット層についてこれでいいだろうと結論が出たところで、ジャクリーンはテーブルの上に置かれた新作の宝飾品を眺めながらわずかに眉を寄せた。売り上げの数字のところを指すと、声のトーンを落とす。
「最近、深夜忍び込み宝石を盗む窃盗事件が増えているそうです。幸い、怪我をした方はいないそうですが、かなり物騒なのでこのお店も警備を強化すべきだと思っていました。警備を増やすと費用もかかるので、どこまですべきか考えどころですが」
「確かにしばらくは警戒すべきですね。怪我をされた方がいないのはよかったです。金額的な被害は大きいのでしょうか?」
「ええ。特に価値の高いアロリザス地方の宝石が狙われているようです」
私はそこで唇に手を当て考え込む。
この店は高額の商品も取り扱っており、何より選りすぐりの匠たちが制作した作品が多くあるため、ジャクリーンが言うように警備の強化は必要だろう。
宝石も扱っているためその情報に注目がいくのもあるが、宝石関連で次から次へと出てくる問題。
――ピンクローザの展示といい、これも物語のイベントの一つだろうか。
鼓動が速くなる。私はカップを掴み、気持ちを落ち着かせるために一口飲んだ。
窃盗事件が、展示会での窃盗と関係があるのかはわからない。全く別の案件なのかもしれないが、問題は一つとは限らないので小さなことも可能性を見据えていくべきだ。
その中に重要なことが隠されているかもしれないし、ここからは感覚を研ぎ澄まして事に当たる必要があると、私は目を伏せた。
窃盗団の目的は、やはり金儲けだろう。価値の高い宝石ばかりということは、市場を理解し、盗んだ宝石を取り扱えるルートがあるということだ。
ピンクローザなど希少なものはどうやって売りさばくのかを考えた時、加工し形を変え海外に流通させるなど、その道に精通してなくてもやりようはいろいろ浮かぶ。
海外、となるとどうしてもイレイン王女に目が向く。
憶測すぎて口に出すことはできないが、もしイレイン王女と窃盗団が繋がっていたとしたら?
その可能性が捨てきれない限り、イレイン王女の宝石好きや、すでに王都の宝石店をかなりの数を巡っている事実は軽視できない。
それが事前視察で、先に目ぼしい宝石を見つけていたとすればどうだろうか。
イレイン王女本人にその気はなくとも、王女が動くことでそのような益を得る人物がいる可能性だってある。
ヨネバミアは海に隣接し、貿易も海かを介して行われることが多く、我が国とは違ったノウハウと交流を持っている。
ここで物語の詳細を知っていれば、ことを詳しく知っていたならすぐに解決の糸口を見つけられるのに、私には転生した認識があり何かがあることだけしかわからない。
じわじわと見え始めた問題に一抹の不安を抱えながら、この先を思い私は大きく息を吐いた。
「宝石で思い出しましたが、展示されるピンクローザの逸話は知っておられましたか?」
イレイン王女の話を聞いて逸話関係の本を読み漁ってみるがたどり着けず、ジャクリーンも知らないと言っていた。
宝石を扱うことの多いケネスなら何か別の角度から情報があるのではと聞いてみるが、宝石の選別を行っていたケネスがそこで作業を止め、首を振った。
「面白い話ですよね。宝石の逸話は何度か聞いたことはありますが、ピンクローザの話は初めて聞いたな。もしかしたら国ごとに逸話が違うのかもしれないですよね。国によって呪いや祝福と、伝えられている内容が違う宝石は実際存在しますし」
「背景があるということですね」
「そういうこと。気になるならヨネバミア国の人に聞いてみてはどうだろう? 俺もどの宝石にどんな話があるのか興味はあるな」
イレイン王女本人、もしくは同じクラスの王女の護衛騎士であるユリシーズに聞いてみてもいいかもしれない。
ユリシーズ本人はあまり興味がなさそうだったが、王女が話したこと、動いたことは把握していそうだ。
美しいものはそれだけ人々を魅了する。物語のことがなくても、様々な思惑が絡み、何が起こっても不思議ではない。
自分の気持ち、デュークの様子、そして物語。
あらゆる感情が入り乱れ気持ちの整理ができていないが、疑問は一つずつでも解消していけばそのうち何かが見えてくるはずだ。
残念ながら長期休みとなるので、連休明けにでもさっそく訊ねてみようと頷いた。
『第二部/第一章 忍び寄る影』ここまでです。
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明日からは『第二部/第二章 それぞれの思惑』となります。
引き続き、見守っていただけたら幸いです。




