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【4/1書籍発売&コミカライズ連載中】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます  作者: 橋本彩里
第二部

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6.警戒と欲望


 そこで視線を感じデュークへと顔を向けると、ベリンダの話題で心配そうに私を見つめる双眸とかち合い小さく笑みを浮かべた。

 デュークの様子もおかしいし、依然、死に役に対しての不安はぶら下がったままだ。

 けれど、私は問題ない、ないようにこれからするんだと見つめ合っていると、やや低めの美声が響いた。


「オルブライト嬢は笑うととっても可愛いですね」


 声の主、ユリシーズをデュークと同時に見やると、彼は笑みを深くした。


「ぶしつけで失礼。仲が良い姿に加えあまりにも可愛かったので、つい口から出てしまいました」

「確かにお二人は仲がよいですよね。苦難も乗り越えたからこその尊さもあって、目を引きます」


 イレイン王女がにこっと笑みを浮かべ、ユリシーズの言葉に被せてくる。

 デュークは一瞬顔を歪めたが、何事もなかったかのように盛大な笑みを浮かべた。


「幼い頃からの付き合いですから」

「デューク様?」


 どうしたのかとうかがうと、デュークは椅子を近づけてきた。

 人前で近い距離。切れ長の双眸の表面には、ほんのりと緊張を(まと)っている。なんだかいつもの、これまでのどれとも違うデュークの反応に違和感を覚えた。


 イレイン王女たちと対面してから、デュークの様子が明らかにおかしい。

 眉間にしわを寄せたまに私を見てほっと息をつくこともあれば、複雑な吐息を落とすこともある。その後、私がどうしたのかと視線をやると、穏やかだけどなんとも言えない笑顔を向けるのだ。


 事前にベリンダと関係があると知り王女のことは共通して気になる相手ではあったが、私への気遣いといった意味合いが強かったので、この反応はどう捉えていいものか。

 訊ねても何もないと言うし、むしろ私のことを気遣う言葉が倍になって返ってくるので、様子を見ているところだ。


「ちょっと……」


 デュークの歯切れの悪さに本当にどうしたのかと視線でうかがうと、デュークは明らかに作り笑いをした。


 ――誤魔化しきれていないところがデュークらしいけど……。


 さすがにそろそろ話し合いをすべきかと考えていると、そこでユリシーズがさらに発言した。


「先ほどからたまに視線を合わせ二人の世界が漂っていたので、悪いと思いながらもほんわかした二人に興味を引かれたのですが……。もしかして僕、警戒されてます?」


 あっけらかんと伝えられた言葉に、デュークは嫌そうに顔をしかめた。

 単純にユリシーズに対しては嫉妬による警戒をしていたと認めるような表情に、私は気持ちがくすぐられると同時に、やはりイレイン王女が絡む反応はわからず疑問がくすぶっていく。

 デュークの反応に対し、ユリシーズはおやっと眉を跳ね上げ、どこまでも軽い口調で続ける。


「ははっ。初々しいなあ。可愛らしいというのもそのまま褒め言葉だと受け取っていただければ。他意はないです」


 どこまでも軽やかに告げてくるユリシーズにデュークの顔は曇っていったが、彼に挑むような視線を向け断言した。


「フェリシアは誰にも渡すつもりも、誰にも傷つけさせるつもりもない」


 ぐいっと腰を引き寄せられて、私はぎくしゃくと固まった。


 ――どうした、の……?


 人前にも関わらず挑戦的で余裕のない態度。

 ユリシーズに煽られているのか、嫉妬していたとしてもやはり違和感を覚えるもので、もともとあった緊張のようなものがさらに増した瞳で彼を見据える。


「幼馴染でもあるのでしたよね? そもそも仲の良さも含め素敵な関係だなと、褒めたつもりでしたのでそう警戒しないでください」

「……そうですか。フェリシアとは五歳からの付き合いです。ランプリング殿やホリングワース嬢はイレイン殿下と親しげだけれど付き合いは長いのでしょうか?」


 ゆっくりと瞼を閉じたデュークは、感情を消し淡々と返した。

 まるで口説くかのように男性に大っぴらに褒められることにそわそわし、デュークの様子は気になるものの、微妙な話題が終わり安堵する。

 ほっと息をつき、腰を抱かれたままだが私はユリシーズに視線を戻した。


「ああ。僕たちも子供の頃からの付き合いで、イレイン様は近しい人に(かしこ)まられるのを嫌がるので、公式的な場所以外では割とフランクに接することにしています」

「だから、その距離感なのですね」


 これまでの言動から、イレイン王女が近しい人を大事にする人だというのは伝わってくる。

 先ほどのぷくっと頬を膨らませる姿を思い出して私が頬を緩ませると、ユリシーズもくすりと笑った。


「イレイン様は昔から変わらないですよ。僕なんかはしょっちゅう文句を言われています」

「ユリシーズはあちこちと女性にいい顔をしすぎるからです」


 イレイン王女の指摘に、ユリシーズは肩を竦めた。


「業務円滑のためですよ」

「私もその辺りは疑問です」


 堂々と言ってのけるユリシーズに、今度はセラフィーナが肩を竦めてみせる。

 ひどいなぁと眉尻を下げたユリシーズが、「信じないでくださいね」と私を見た。

 ぐっと腰に回されていたデュークの手に力が込められるが、何がきっかけで物語の本筋に近づくかはわからないと、私は努めてさりげなく話題を振った。


「ふふっ。お三方は仲が良いですね! 先ほどセラフィーナ様にお店を紹介するとお話をしたのですが、具体的にどのような物が好みなのか教えていただきたいです。イレイン殿下はいつも大きなリボンをされていますが、その中心には真珠や宝石が装飾され綺麗ですよね。そういったものもお好きなのでしょうか?」


 ゆっくりとそれぞれに視線を這わせて問うと、ユリシーズが口を開いた。


「イレイン様の興味は美しければなんでもと幅広いですね。シルクも殿下のコレクションの一つです。興味がない者には一緒に見えますが、それぞれ大きさや産地が違うものを何点も持っているんです。気に入ったら収集しないと気が済まない性分なんですよ」

「美しいものがそこにあるのに、手を伸ばさない理由はないわ」


 イレイン王女の言葉にユリシーズが、ほらね、と肩を竦める。


「出会ったときからこれですから。それに僕たちはどれだけ付き合わされたことやら。セラフィーナがいなければ、僕たちは延々と付き合わされることになっていたでしょう。僕たちがどれだけ諭しても無視なのに、セラフィーナの言うことは聞いてくれますから」

「セラフィーナは特別なのよ」

「ちゃんと話せば、イレイン様はわかってくれますから」

「ほら、いつだって男性陣が取り残される」


 イレイン王女は凝り性でコレクターでもあるようだ。そして、三人はどこか気安い空気が流れていると感じていたが、昔から今のような関係が出来上がったようだ。

 ユリシーズの苦言もなんのその、王女は無視して話を続けた。


「そういう意味で、ベリンダ嬢とは話が合ったんですよね。彼女、俗物というか、こちらが知らないような情報もあって新鮮でした」


 俗物……。言い当てた表現に苦笑していると、デュークはイレイン王女の首元あたりを見ながら口を開いた。


「お聞きしたいのですが、イレイン殿下はベリンダ・マッケランとは具体的にどのような交流を?」

「ああ。お二人は彼女といろいろあったと聞いたので、確かに気になりますよね」

「はい。彼女がフェリシアにしたことは、一生許すつもりはないです」


 デュークが断言すると、さっきまでにこやかだったユリシーズは真面目な顔をして頷いた。


「別にこちらは隠すようなことは何もないですよ。マッケラン嬢との話題はそれこそ装飾品やスイーツと、イレイン様が好きな話題が多かったですよね?」

「ええ。そうね。彼女、にこやかな笑顔を常に浮かべておりましたが、物欲は隠せていませんでしたから。わたくしもコレクターとして負けませんが、新しい情報を得ることもあり、その点は有意義でしたね」


 ベリンダは、転生の知識と二度目となるこの世界の情報をフル活用していたのだろう。納得だと頷いていると、ユリシーズが釈明する。


「さっきも話したようにセラフィーナとあちらの第三王子との婚約関係から接点があっただけにすぎないので、彼女との関係は潔白ですよ」

「疑っているわけではありません。ただ、このたびの交流会は、時期的にそちらとの交流が関係しているのかと思ったので」


 デュークと私のほうを見たユリシーズに、首を振り私が説明すると、彼は納得した顔で頷いた。


「ああ、そういうことですか。そういえば、マッケラン嬢はこの国で欲しい宝石があると言っていましたね。それで美しいもの好きのイレイン様は展覧会があると聞きつけ、絶対行きたいのだと非常に興奮していたのは記憶に新しいです」


 ユリシーズの発言に、イレイン王女がこれまでになく声を弾ませた。


「ええ。以前も話しましたが、ピンクローザは拝見したい宝石の一つです!」

「見るだけで済ませられたらいいのですけどね」


 げんなりと告げられたその言葉が、やけに私の耳に残った。



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