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【4/1書籍発売&コミカライズ連載中】死に役はごめんなので好きにさせてもらいます  作者: 橋本彩里
第二部

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5.交友関係


 何度目かの学年合同食事会

 誰が取り仕切るということもなく日によって話題は変わるのだが、この日の話題はこれまでと違い驚く内容だった。

 きっかけは些細な一言からだった。


「婚約者といえば、セラフィーナは大変でしたよね」


 ヨネバミア国から同じクラスに入ってきたユリシーズ・ランプリング公爵令息が放った一言に、イレイン王女はナイフを動かしていた手を止めた。

 ユリシーズの視線は私たち、クリストファー殿下とジャクリーン、デュークと私へと向いているので、そこから連想したのだろう。


 ユリシーズはイレイン王女の護衛騎士の一人で、ダークブロンドの髪を一部アッシュに染めたおしゃれな男性だ。

 出会い頭の挨拶としてジャクリーンと私は手の甲にキスをされ、態度も飄々(ひょうひょう)とし、よく軽口を叩くので騎士にしては軟派な印象だ。


 だが、ムードメーカーとなる彼がいることによって両国が打ち解けるのは早くなったので、今や交流に欠かせない人となっている。

 ユリシーズの一声に一番に反応したのがイレイン王女で、王女はゆっくりと顔を上げると目を眇め、切った肉をフォークでぶすりと刺した。


 じわっ、と肉汁が皿へと溢れ出る。

 さらにぐりっと押さえつけると、イレイン王女はにこっと笑った。


「あのような方にセラフィーナを預けずに済んでよかったです」


 そこからぷすぷすと刺し、まるで肉がその対象者のように鬱憤(うっぷん)をぶつける。


「イレイン様。お行儀が悪いです」

「あら。つい。ごめんなさい」


 セラフィーナに指摘されイレイン王女は軽く謝り手を止めるが、じっと肉を見つめる姿はまだ刺し足らないと告げていた。よほど納得しかねることがあったようだ。

 話の流れからもしかしたらと思うこともあって、私は王女たちの会話に耳を傾ける。


「私の代わりに怒ってくださりありがとうございます。ですが、私は大丈夫です。先方の事情も理解しておりますし、誠意をもって謝っていただきましたので」

「まあ、悪い人ではないのでしょうが、それでも守るべきものを守れない力量に失望しました。そもそもセラフィーナは優しすぎるのよ」


 イレイン王女が厳しい表情でぴしゃりと言い放ったが、セラフィーナはちょっと苦笑し、それからふわっと微笑んだ。

 彼女のイレイン王女を見つめる双眸は、とても穏やかで優しい。


「そうでしょうか? (おとし)められたわけでもなく正当な話し合いでしたし、また一から候補を探さなければなりませんが、しばらくはイレイン様と一緒にいることができるのでそのほうが嬉しいです」


 柔らかく優しい声に諭されて、イレイン王女は「だったらいいのだけど」とぷくっと頬を膨らませた。

 少し頬が赤いのは、自身と一緒にいる時間に喜びを感じていると伝えられたからか。


 普段は澄ましているけれど、セラフィーナのことや興味があることに関して、わりとわかりやすい反応をする。

 イレイン王女は小さく息を吸うと、感情が高ぶっているのかやや早口で(まく)し立てた。


「ですが、何が大事か明確にすべきところは自分の中だけでも決めておかないと、いざ選択に迫られた際に対応できず何もかも失います。政略結婚に愛だのなんだのと理想を押し付けるつもりはありませんが、自分の立場を強固にするためにも婚約者との関係を悪化させるような失態はあり得ない。国も違うため愛着が違うのは理解できますし、身内を大事にするのもいいですが、ただ甘かっただけ、能力が足りなかっただけですからね。そう思いませんか?」


 言いたくて仕方がなかったのだろう熱が伝わり圧倒されていると、最後にイレイン王女が私に視線を向ける。

 宝石のような濃い紫の瞳がまっすぐに私だけを見つめてきて、どきっと鼓動が跳ねた。

 私はゆっくりと目を伏せ、王女を見返した。


「そう、ですね。すべてを優先とは言いませんが、線引きは大事だと思います。それは婚約者だからとかではなく、どの立場でも言えることですよね」


 人との関わりが増えるほど、一つのことだけを融通するのは難しくなる。

 余裕がなくなったとき、本当に自分がどうしたいかをしっかり考えているかどうかで取れる行動と結果は変わってくるだろう。


 私が同意するとイレイン王女はうんうんと頷き、話題の当事者であるセラフィーナは困ったように弱々しい微笑を浮かべた。

 もしかしては確信に変わりつつあり、触れてもいいのかと迷っていると、ユリシーズがさらに踏み込んだ発言をした。


「もう予想はついているかと思いますが、セラフィーナはキプボワーナ国のパーシヴァル殿下と婚約しておりました。この国で起こったことと間接的に繋がっているので、いつまでも触れないのもおかしいと思い、話題に出させていただきました」

「ユリシーズってば、わたくしが直接聞くと話していたのにフライングですよ!」


 イレイン王女はじろりとユリシーズを睨んだが、彼はひょいっと肩を竦め爽やかに笑った。


「イレイン様がなかなか話を切り出さないからですよ。時間が経ちすぎてから触れると逆に変な空気になるので、こういうのはぱぱっと認識共有しとくといいんです。それにイレイン様もすぐに乗っかってきたじゃないですか」


 ユリシーズは、どうやら意図的にこの話題に触れたようだ。確かに、その辺りのことは早めにはっきりさせておくほうが互いにいいかもしれない。


「そうだけど……。事が事だしデリケートなことでしょ。セラフィーナもそうだけどこちらのほうはもっと……」


 イレイン王女はそこで言葉を濁した。

 私の死を望んでいたことなどは国際問題だ。

 そのため切り札としてどう使うかは上が操作しているが、ベリンダがデュークに横恋慕し私に危害を加えようとしたことは周知の事実のため、そのことを指しているのだろう。


 口を引き結び考えを巡らせていると、視線を感じデュークへと顔を向けた。

 濃紺の双眸は心配げに揺れ、私を案じていることがうかがえる。

 私は目元を細めデュークに大丈夫だと伝え、イレイン王女に視線を戻すとゆっくりと微笑んだ。


「お気遣いありがとうございます。確かに当時は大変でしたが、無事解決しその件に関して話は済んでいるので問題ありません。それよりも、パーシヴァル殿下の婚約者がセラフィーナ様で婚約は解消となっていたとは知りませんでした。大変でしたね」


 セラフィーナに視線を向けると、彼女は穏やかな笑みを浮かべた。

 あの事件が思わぬところに影響を及ぼしていると知り、被害に遭った者同士思うところはある。


「ええ。フェリシア様に比べれば小さなことかもしれませんが、全く想像もしなかったことですので聞いた時は動揺しました。ですが、婚約が解消となったことより、パーシヴァル殿下を通じて面識のあったベリンダ嬢が出国禁止となるほどの問題行動を起こした衝撃のほうが強くて。フェリシア様も無事に乗り切られ、こうしてお会いすることができてよかったです」


 労わりの言葉とともに告げられるその表情からは、特に現状について憂いはないように見える。


「詳しく何があったかまではわかりませんが、互いに結果的によかったと思うしかありませんよね。ですが、たとえ今は納得していたとしても、その過程で迷惑を被ったことは事実です。わたくしだっていまだに思い出しては腹が立つのですから、お二人とももっと怒っていいのですよ!」


 セラフィーナの代わりにイレイン王女がぷくうと頬を膨らませ、可愛らしい顔でぷりぷりと怒りだした。

 それに対して、セラフィーナが頬を綻ばせる。


「イレイン様……」

「ほら、怒って」

「ふふっ」


 イレイン王女の無茶な要求とは反対に、セラフィーナが笑顔になっていく。

 一人ではない。そう思えることは精神的にだいぶ違う。

 私も死に役だと思い出しデュークとすれ違っていた時期に、ジャクリーンが自分のことのように怒り心配してくれたおかげで気分的に楽になれた。


「そうですね。相応の罰が下されなければ今ももやもやしていたかもしれませんが、イレイン殿下のように私にも自分のことのように怒ってくださる方たちがいたので、気持ち的には終わったこととしております。彼女とはよく交流をされていたのでしょうか?」


 さり気なく質問を返すと、セラフィーナはイレイン王女のほうへ視線をやり小さく頷いた。


「はい。婚約が成立した際にパーシヴァル殿下から彼女のことを紹介されました。私たちが行くと必ずと言っていいほどベリンダ嬢は顔を出されていましたので、殿下と同じくらい彼女とは話す機会はありました」

「同じくらい?」


 疑問を口にすると、セラフィーナがにこっと笑みを浮かべた。


「パーシヴァル殿下と婚約が成立したのも昨年のことでしたし、物理的に距離があるので形式的にしかお会いしたことがありませんでした。それもあって今回のことは残念に思ってはいても、そこまで気にしておりません」


 交流はしていても、相手を深く知るほどまでの機会はなかったようだ。

 ベリンダはヨネバミア国の人たちの前ではうまくやっていたのだろうと想像し、なんとも言えない溜め息が漏れそうになり慌てて呑み込む。


 先日の宝石の件といい、内容的にはそう警戒するようなものではない。

 けれど、イレイン王女からもたらされる情報や繋がり、本音がなかなか見えないことを考えると、やはり油断はできないなと気を引き締めた。



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