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第92話:夏休みの捏造日記

【うぅ、ううぅぅぅ・・・タッくん・・・】


 あれから一晩が経っても、沙綾は落ち込んだままだった。人の部屋の隅っこで膝を抱えて座ってらっしゃる。


 まさかなぁ・・・人工知能だと言い張れば、というかそれが事実なんだからありのままを言えば事無きを得ていたものを、わざわざ“人間の女の子をお金で買いました”なんて言うとは思わなかった。

 虹元に渡した端末ごと沙綾は私のもとに返還され、返金処理までさせられた。古川が横領してなければ虹元に5万が返っている。大学生活には戻ることは当分できないだろうが。


 全く。余計なことをしてくれたものだ。私としても、いいビジネスになると思ったのに。警察の前で約束させられた以上、大っぴらな宣伝はできない。

 悩み相談を受けた際に解決策の1つとして提案することはできるが、それを欲する客層があんなことをしでかす可能性があることも判明してしまった。今でも信じられない。人生を投げ打ってでも“自分が買ったのは人間だ”という主張を続けるなんて。


 予期せぬことで居候が誕生してしまったので、沙綾が落ち着いたら親に説明するとしよう。なんか画面の中に戻ってくれないし、いつまでも私の部屋で飼い続けるつもりはない。

 警察にすら沙綾の存在が発覚したのだから、リビングのみならず外も自由に出歩いてもらって良いだろう。



 さて、今日は8月31日だ。この日になると、決まってウチに来る奴がいる。


「ヤベぇねーちゃーーーん! いるかーーーーー!?」


 近所の小学生、タカシだ。私は停学を食らったから1週間延長されたが、一般的には夏休みの最終日だ。当然ながら、宿題が終わってない悪ガキがいる。窓を開けると、タカシ含め3人の悪ガキがいた。


「“宿題手伝ってください、お姉様”、でしょ?」


「うるせー! お菓子買ってきたんだからいいだろー?」


 タカシは、悪ガキにはあまりにも似合わない紙袋を“ん!”って感じで私に向けてきた。ロボットアームを使って回収。


「ふん・・・合格ね」


 駅ビルで2千円ぐらいで売ってあるやつだ。小学生が買うには高いが、“厳木鏡子に宿題手伝ってもらうため”と親に説明して買ってもらってるらしい。

 タカシの親には、フリマで言い掛かりを付けられて現ナマによる示談が成立したにもかかわらず、学校に苦情を入れられてあの日の売上げを没収された恨みがあるのだが、息子の宿題サボリは将来に響くとでも思ってるのか何とかしたいようだ。


 ちなみに言い掛かりの内容は、“絶対に戻って来るブーメラン”を投げたタカシの頭にブーメランが直撃したことで、完全に本人の過失だった。しかもケガした訳でもないのに苦情を入れたようで君津が私のもとに来た。あのババァ許さねえ。

 ここで手伝うことによりタカシの将来が良い方向に進むはずもなく、むしろ非正規低収入路線まっしぐらになるので、是非とも手伝わせていただこう。大人になったら助けないがな。


「ちょっと待ってなさい。今行くから」


「はやくしろー」


 タカシが来ることは分かっていたので、着替えは済ませてある。スカスカのリュックだけ背負って準備完了。大抵の道具はスマホ操作かカプセルポイッで召喚できる。


「そんじゃ出掛けて来るから」


【うん・・・】


 さすがにまだ小学生の相手ができる精神状態ではないだろう。沙綾に別れを告げ部屋を出た。


「で、今年は何なの? 算数? 理科?」


「へっ。聞いて驚くなよ? 今年はなんと、3人で分担してコピーし合うことで1/3の労力で大半が終わったんだぜ? な、ケンジ、アツシ」


「おうよ!」


「いつまでも成長しない俺たちだと思うなよ? 昨日3人揃ってかーちゃんたちに捕まってカンヅメにされたからな」


「おいバカそれを言うな!」


「げっ! しまった!」


 成長しない奴らだ。


「それで、残ってるのは何なの?」


「フッフッフ、よくぞ聞いてくれた」


 聞かなきゃ話が始まらんだろ・・・タカシたちは揃ってトートバッグをガサゴソとし始め、全く同じものを取り出した。


「何を隠そう、残ってるのはこれだ!」


「「「じゃーーーん!」」」


 それは、“夏休みの絵日記”だった。これ、カケルくんもやってたなぁ。あの時は鈴乃を連れて虫取りに行ったっけ。


「コイツはただの絵日記じゃないぜ? 見ろよこれを。今日の今日まで全然やってないから全部まっ白だ! 俺たち3人ともな! フハハハハ! どうだ恐ろしいだろう!」


 驚く気にもビビる気にもなれないぜ。とりあえずそれが“ただの絵日記”であることだけは確かだ。人数分配られたものに手を付けてないんだからな。


「これからヤベェねーちゃんには、俺たちの40日分の思い出を作ってもらうからな。覚悟しろよ」


「フハハハハハ。どうだ頭が痛いだろう。たった1日でどこまでのことができるかな? “マッド才媛”とやら」


「窓咲イチの天才と言われたその力、試させてもらおうか!」


「面倒だからパス。いいわよ別に“窓咲イチの天才もこの程度”だと思ってもらって」


「「「待って待って待ってくださいお願いします手伝ってください後生ですから!!」」」


 なんて調子のいい奴らだ。だがその3人シンクロした美しいお辞儀に免じて助けてやろう。だがその前に、


「あれれ? まだ頭(ず)が高いんじゃないの? まさか膝も汚さずに人にモノを頼もうってんじゃないわよね??」


「「「失礼しましたっ! はは~~っ!」」」


 3人は膝・手・額を地面につけて誠意を示した。


「よろしい。そなたらの願い、叶えてしんぜよう」


「「「ありがたき幸せ!!」」」


「1日で40日分の思い出。覚悟が必要なのはそなたらの方ぞ?」


「「「え?」」」


 さあ、地獄のデスマーチの始まりだ。

次回:40倍濃縮の夏

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