第90話:あなたのための美少女
「それじゃあ、準備はいいかしら?」
「ゴクリ・・・」
翌日。虹元に奢ってもらった焼肉のあと、近所の防音スタジオに入った。教室ぐらいの広さで、押入れ内に見える机と椅子と譜面台、そしてダンス練習用とされている壁一面の鏡の他は何もない。
もちろん楽器やダンスの練習をしに来た訳ではなく、ここで虹元氏への美少女をお披露目するのだ。最初ぐらいは音量とかを気にせず喋りたいという希望によりここへ来た。
鏡は気が散るのでカーテンで隠して、イヤホンぐらいのサイズの小さな端末を取り出す。キーホルダーのようにスマホやカバンに取り付ければ、一緒にお出掛けも可能だ。ホログラム美少女と並んで街を歩く勇気があるのなら。
「んじゃ、行くわよ~?」
端末にある唯一のスイッチを押す。たったこれだけで、1人の男子大学生を救済する美少女が現れるのだ。
ピヤ~~~~ン。
音はないがそれっぽい視覚効果と共にホログラムが出現。3秒ほどで彼女は姿を現した。映像としての存在なのだが、単に映し出されているだけでなく、端末から独立して歩き回ることもできる。床と同じ高さで歩くモーションを取るだけで宙に浮いており、物を持ったりすることもできないが。
【こんにちは】
「こ、こんにちは・・・」
呆気に取られた様子で、挨拶にだけは答える虹元。ホログラムとしか言ってなかったから、光の線みたいなやつだと思ってたなコイツ? この私がそんなちゃちいのを用意する訳がないだろう。線の集合なんかではなくしっかりと目の前にいるように見えて、もちろんフルカラーだ。動きに合わせて髪もスカートも揺れるぞ?
私は朝に一度確認したが、でき上がった美少女はオーソドックスなタイプだ。黒のミドルヘアで身長は152cm、全体的に細身で胸はC。オタクの理想にしては一般的な範囲に収まっている。性格はあり得ないほどの聖人だが。
【鏡子ちゃんから聞いてるよ。虹元拓くんだよね】
「あ、はい・・・」
【も~~~。敬語なんて使わなくていいのに。私は春谷沙綾。沙綾って呼んでくれなきゃ怒っちゃうよ】
声についても虹元の好みが反映されているのだが、いわゆるアニメ声ではなく現実に5万といるような声だ。声質は私の技術によって人間のものと変わりなく、もちろん沙綾の口の部分から発せられている。セリフだけは虹元の好みが出力されるが。
「あ、うん・・・それじゃあよろしくね、沙綾」
【うん♪ よろしくね、タッくん♪】
「タッ、くん・・・?」
【あ、もしかしてダメだった・・・?】
縮こまるように両手を顎の前で組み上目遣いをする沙綾。効果はバツグンだ!
「あ、いや全然大丈夫! 突然だったから驚いただけで・・・」
【良かったっ。一歩前進だね♪】
「あ、うん・・・」
虹元は虹元で典型的なオタクだな。明らかに自分に対して友好的な美少女を前にシドロモドロであんまり目も合わせられないでいる。もっとも、沙綾が虹元個人の潜在的に持つ“女性との会話の理想”のツボというツボを突いてくるから止むを得ないかも知れないが。
【えへへ・・・これからタッくんと一緒に過ごせるの、楽しみだな~~】
「ぶほ・・・っ!」
【どうしたのタッくん!?】
「ごめんごめん! 自分の唾でむせちゃって・・・!」
【えぇぇっ!? 大丈夫!? でもそれだけ、タッくんも私のこと気に入ってくれたってことなのかな。嬉しいな~~】
なんてことを、両手を頬に当てながら嬉しそうに言う沙綾。1周回って接待のようにも見えてきたな・・・でも私の作ったプログラムなので、当然ながら本人の感情としても喜んでいる。
「それじゃあ、後は2人でごゆっくり」
【えぇぇっ!? 鏡子ちゃん行っちゃうの!!?】
「そりゃそうでしょ。邪魔にしかならないだろうし」
【待って待って待って! 今2人っきりにされたらショートしちゃうよ!】
「じゃあその時は連絡して」
【そんなぁぁぁ!!】
心配すんなよ、簡単にショートするようなヤワな思考回路にはなってないから。
「だぁいじょうぶよ。きっと“タッくん”が心を落ち着かせてくれるから」
「えぇっ!?」
いやそこは何とかしろよ。お前が会いたいって言った美少女だぞ。
【それじゃあタッくん、まだここの時間大丈夫みたいだからお喋りしよ♪】
「防音・防振とも完璧だからどんなにイチャイチャしても平気よ」
【もうっ、鏡子ちゃん!】
沙綾の抗議を背中に受け止め、私は部屋を後にした。さて、近所の喫茶店でモニタリングといこう。会話のログや、沙綾から見た虹元の表情や体の動きは自動的に記録されるのだが、最初だし私自身も確認しようと思う。そして、
「あ、鏡子きた。どうだった?」
女性の意見も聞いてみようと、鈴乃と白鳥さんの2人も呼んである。
「気に入ってもらえたに決まってるでしょ? 当の依頼者本人が緊張しきってロクに会話できてないほどにね」
「それは大丈夫なの・・・」
「相手の理想を現実のものとする美少女なんだから大丈夫よ。最初はぎこちなくても、虹元氏の理想とする会話ができるように沙綾が自然に持ってってくれるから」
「逆に男の人の方が心配になってきたわね・・・それじゃいつまで経っても現実で彼女とかできないんじゃない?」
「そんなもの必要ないでしょ。彼には沙綾がいるんだから」
「ねえこれ、私や雪美の意見を聞く必要あったの?」
「だって1人でモニタリングするの苦痛じゃん。オタクとホログラム美少女の会話なんて」
「そんなことだろうと思ったわよ!」
「まぁまぁ、鈴乃ちゃん・・・」
鈴乃をなだめようとする白鳥さん。あぁ可愛い。幼馴染だからという理由で黒田なんかのことを好きになってしまうなんてもったいない。あれから4ヶ月経つが、ケンカとかすれ違いもなく交際は順調のようだ。
絶対、美少女はホログラムなんかより、物理的に目の前に存在する方がいいに決まってるのになぁ。夢破れてアニメやゲームに走ったんだろうけど、オタクの考えてることは分からん。
「とにかく見るわよ」
タブレットを開き、2人の会話を覗き見る。
【タッくん大学院生なんだ~。すっご~い】
【そうでもないよ。近年は最低でも院までは出てないとロクな就職先ないし】
私の移動中に、ある程度は会話が進んだらしい。
【でも私は大学院には行かずに就職かな~】
沙綾の設定は大学3年だ。虹元より2歳下となったがこれもプログラムが割り出した結果である。ヤツの好みに“主人公より年下”が多かったのは間違いない。高校が舞台の作品が大半だと思うのだが、そこは虹元の実年齢をベースにアレンジされたのだろう。
「ますます私たちが見てても意味ないんじゃんない? いまいちピンと来ないんだけど」
「大学生同士の会話なんだから参考になる部分もあるでしょ。2人は進学するんだろうから」
「他人事みたいに・・・」
他人事だからな。私は厳木鏡子研究事務所(仮)を続けてご近所さんから“お小遣い”をもらい続けるんだ。法人化も個人事業の届出もしないから税金を脱・・・節約できる分は価格を安くできる。これほど消費者に優しい組織がどこにある?
【大学院って大変じゃなぁい?】
【まぁ、大変と言えば大変だけど・・・】
確か虹元は工学部だったか。さて彼が、日頃どんなストレスを抱えているのか。それは昨日取り込んで全てプログラムの中で演算されたので私も知らないのだが、全てを熟知している沙綾が彼に寄り添ってくれることだろう。
【大変って、どんな?】
さすがに、知らないふりをして聞くようだ。
【え? まぁ、色々あって・・・】
【その“色々”を、聞かせて欲しいな。タッくんが悩んでることがあるなら、聞いてあげたい。・・・ダメ?】
【う・・・】
年下女子からの上目遣い攻撃! タッくんはこれに弱い!
【悩んでるってほどじゃないし、つまんない話だよ・・・?】
【人の悩みなんてそんなもんだよ。でもそれは“他人にとっては”って意味で、私にとっては違うからね。私、タッくんの力になりたい。役に立てるかは分からないけど、せめて、気持ちを楽にしてあげたい。私、そのためにタッくんと出会ったんだよ?】
妙にメタい発言が出たが、仕方ない。しかしタッくんには刺さったようで、暗い毎日に希望が舞い降りてきたような、そんな目を沙綾に向けた。
何気にアニメとかでありそうな台詞ではあるか、“私、思ったの。君の力になるために出会ったんだ、って”みたいなの。
「なんだかこの人がどんな悩み抱えてるのか気になってきたわね・・・」
「でしょ? 大した話でもなさそうだけど」
「聞く前にそんなこと言うのは失礼だよ・・・」
大丈夫。どうせ研究室の教授がいい加減だとか同期にパシられてるとかそんなことだから。
【大学院に上がって4ヶ月経つけど、なんかこう、さ。助け合いみたいなのを求められちゃってさ】
ほらね、よくある話だった。その内容自体は問題だと思うが。
【そっかぁ・・・。そういうのって、断ろうとすると“同じ研究室の仲間なんだから手伝えー”とか言われちゃうんだよね、きっと】
【まさしくそうだよ。その癖こっちが何か頼もうとすると、忙しいとか何とか言って断られるから。ギブアンドテイクが成り立たない人と過ごすのは疲れるよ。どんなに手伝ってもその人の学位にしかならないし】
【ね。私の周りにもいるよ。人に頼るのは平気でするのに恩返しはしない人。それで表向きの成果だけは出ちゃうの】
もちろん沙綾は、普通に女子大生としての生活を送っているという体の記憶が本人に宿り、数日後にはきっちり“その数日間に起こったこと”の記憶が追加される。架空の友達やバイト先なんかもある。
【タッくんつらいよね。大丈夫?】
【大丈夫大丈夫。このくらい】
【むぅっ。無理しちゃダメだよ? 何のために私がいると思ってるの?】
ムッとした様子で頬を膨らませる沙綾。
「なんだか覗き見してるのが申し訳なく思えてきたわね」
「わ、私も・・・」
他人同士のカップルの会話だからな。ドラマじゃあるまいし、好き好んで見るようなものでもない。
「でも虹元氏には、音声・映像の記録は取ることに同意してもらってるから安心して」
「それを第三者に開示することへの同意は?」
「不特定多数が閲覧できる環境には晒さないってことだけはちゃんと約束したわよ。でも鈴乃も白鳥さんも“特定できる少数”よね」
「最っ、低・・・」
鈴乃が気にすることじゃあないさ。それよりウォッチングに戻るぞ。
【せっかくだから、甘えて欲しいな。どこにでもあるような小さな愚痴かも知れないけど、そういうのをお互いにこぼし合って、支え合って、生きていけたらって、私、思うの】
【沙綾・・・】
タッくんの瞳に、光が宿る。
というかいつの間にか名前呼びになったんだな。私が現地からここに移動してる間に決まったか。
【ずっと一緒に過ごすんだから、どんな小さなことでも自分だけで抱えるのはナシだよ。私も辛いときはちゃんと言うから、今日はタッくんが甘える番。ね?】
【う、うん・・・】
【よし♪ それじゃあこっち来て?】
【え・・・?】
【いいからいいから】
【うん・・・】
タッくんが、沙綾のもとにゆっくりと歩く。ある程度近付いたところで、沙綾は両手を広げてタッくんを抱きしめるように動いた。もちろん、実際に触れることはできない。
【あ・・・・・・】
【よし、よし♪】
少しだけかかとを浮かせて、左手はタッくんの背中に回したまま沙綾は右手で頭を撫でた。顔は超至近距離ですぐ横にあって、呆然とするタッくんを余所に優しく瞳を閉じている。
一度だけ、手は残したまま体を反らす形で顔を少し離すと、目が合うなり沙綾はニッコリと微笑みかけた。そしてまた、瞳を閉じて抱きしめる態勢をとる。
【我慢しちゃダ~メ。男の子にだって、泣きたくなる時はあるでしょ? そういうところも、見せて欲しいな。ありのままのタッくんを】
【う、う・・・】
タッくんは、感情を堪えるように強く目を瞑った。普段どれほど散々な目に遭ってるかは知らないが、たぶん泣くほど辛いものではなく、ちょっとしたストレスを溜め続けているだけなのだろう。
しかしここで理解者が現れ、それが美少女でありこの抱擁だ。冴えない男子としては堪えきれないものもあるだろう。彼には、ストレスを吐き出す先が必要だったのだ。そのように私の作ったプログラムは判断し、沙綾はこう動いた。
【本当は触れてあげたいんだけど、ごめんね。こんなことしかできなくて】
【だいじょう、ぶ・・・】
立ったまま俯くタッくんから、ついに涙がこぼれる。泣け、泣くんだ男子よ。男はそうやって前に進んでいくものなんだろう? たぶん。
「私たちは何を見せられているの・・・」
「オタク男子の思い描く理想の交際生活ね」
「あたしには応えられそうにないわ・・・」
「白鳥さんなら余裕でしょ? 黒田くんが落ち込んでる時は支えてあげなくっちゃね」
「えぇっ? そ、それはもちろんそうしたいけど・・・」
顔を赤くして目を逸らす白鳥さん。あぁ可愛い。白鳥さんが温かい抱擁をしてくれるかどうかは黒田次第だが、やっぱり美少女は物理的に触れられるに限る。美少女(物理)が最強。異論があるならば、AIと映像だけの存在を月5万で提供させて頂こうじゃないか。
数分ほどして、タッくんが落ち着いて2人は離れた。
【あはは・・・何だか照れくさいね。そろそろ帰ろっか?】
そういえば防音スタジオだったな。まだ15分ほど時間は残ってるが十分にイチャイチャできただろう。
【うん、そうだね。その、さっきはありがとう。沙綾】
【あれくらいタッくんのためならお安い御用だよ。反対に、私が元気ない時はタッくんにも抱きしめてほしいな、なんて】
照れくさそうに言う沙綾。これで、単なるプログラムがオタク心をくすぐりに行ってるだけなのだから切ないものだ。
【もちろんだよ。俺だって沙綾を支えたい。それこそ、今日の恩返しをしなくちゃいけないし】
【やった♪ 期待してるね】
そこで会話はひと段落。さすがのオタク男子もホログラム美少女を連れて外を歩く勇気はないようで、端末のもとに向かう。
【タッくん、その、最後に1つだけ・・・】
【ん? 何?】
抱きしめてヨシヨシまでしておきながら、何を血迷ったのかモジモジし始める沙綾。
【い、今更なんだけど・・・私たちって、付き合ってる、ってことで、いいんだよね・・・?】
【え・・・・・・】
本当に“え”だよ。確かに今が初対面だったけれども。
【そ、その! 大学で友達に彼氏いるか聞かれちゃうし男の人にアプローチ掛けられることもあるし・・・!】
言い訳がましく理由を述べる沙綾。彼女の身の回りがどんな設定になってるかの詳細は私も知らない部分が多い。もちろんプログラムを調べれば分かるのだが面倒だし、沙綾とは彼女の完成後に仕上がり確認がてら5分ほど話をしただけだ。
さて、自分の弱い部分も受け入れてくれた美少女から2人の関係をはっきりさせようと言われたタッくんだが、
【あっ、そっ、そっ・・・】
超絶に動揺していた。
【わっ、私なに言ってるんだろ・・・!】
沙綾も動揺している!
【でもやっぱり、タッくんから、言って欲しいな・・・】
しかし上目遣い攻撃は欠かさない! しかもウルウルしている! タッくんの性格・記憶・好みの言動全てを把握している沙綾が人間離れした演算速度で導き出した最適解から逃れる術はない!
【えっと、その・・・】
さっきお互いに“支え合いたい”なんて言ったことなんか忘れたかのような空気だな。さぁタッくん、今こそ男を見せる時なんじゃないのか。沙綾が君の言葉を待っているぞ!
【も、もし沙綾さえ迷惑じゃなかったら、その、“付き合ってる”、がいい・・・】
なんて微妙な返答なんだ。しかし沙綾は嬉しかったようで、パァァッと表情が明るくなった。
【やったぁ! 私いまからタッくんのカノジョだって堂々と言えるんだ~~!】
両手を頬に当ててクネクネと体を動かす沙綾。嬉しいという感情を、これ以上なく全身で表現している。一方のタッくんは自分に対する好意をここまで表現されることに慣れてないようで、満更ではなさそうだがキモい、じゃなかったぎこちない笑みを浮かべていた。
【お、俺も、沙綾が彼女だなんて嬉しいよ。夢みたいだ】
【も、もう、タッくんてば~~】
【か、可愛い・・・】
【もう! 褒めても何も出ないんだからね!】
【ごめん、可愛い沙綾が見れるから・・・】
【わーーっ! わーーーっ! これ以上嬉しいこと言うの禁止! 早くスイッチ押して私を仕舞って!】
【もっと見てたいんだけど】
【ダメ! 禁止! 恥ずかしいから禁止! 怒っちゃうよ!】
【わっ、分かった。分かったから・・・!】
【もう・・・】
ぷっく~~~、と頬を膨らませる沙綾。そしてマジ気持ち悪い顔で端末を操作するタッくんも、嬉しそうだってことだけは伝わってくる。美少女ゲームやってる時のオタクってこんな顔してんのかね。
【それじゃあ、また家で】
【うん♪ 呼んでくれなきゃホントに怒っちゃうからね】
可愛い沙綾の姿が見れて満足したタッくんは、端末のスイッチを押して沙綾の姿を消した。ちなみにタッくんと会っていない間は普通の女子大生としての生活を過ごしていることになっており、沙綾の中での経過時間も現実と同じだ。
「ふぅ。当然だけど、満足してもらえたみたいね。これで月5万入るんだから儲けもんよ」
「私たちは何を見せられたんだろう・・・」
「あはは・・・」
鈴乃と白鳥さんはちょっと、いやだいぶ疲れた様子だ。まぁ見たくなかったわな、あんなもん。
しっかしマジで凄いな。大学生ならバイトしてるとはいえ、実家暮らしでもないのに月5万にあっさり承諾するなんて。
これにはスマホゲームの貢献が大きいだろうか。正直あれの登場でゲームのあり方が変わってしまったのだが、美少女に月何万という課金をする人間が一定数誕生したことは間違いなく、金儲けの手段が増えたと言える。ビバ! 美少女!
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その日の夜、タッくんこと虹元拓からビデオメッセージが届いた。ホログラム映像に過ぎない沙綾と2人で幸せそうに並んでいる。
【今日は沙綾と出会わせてくれてありがとう! 研究室ではイライラすることばかりだけど、沙綾がいればやっていける気がしたよ!】
なんか共通の知人の紹介で出会ったみたいになってるし。お前は私からAIホログラム美少女を買っただけだからな? 新しいビジネスの形を教えてくれたことには感謝しているが。
【鏡子ちゃん、私からもありがとう! 今日の出会いを一生大切にするね!】
AIの“一生”って何なんだろうな・・・。
「今後のサービス向上のためにログは撮られ続けるけど、もうわざわざ覗き見たりなんかしないから末永くお幸せにね」
【【うん・・・!】】
2人の顔の、なんと晴れやかなことか。沙綾はプログラムに従って動いてるだけだが、虹元の方が昨日とはまるで別人だ。
彼も別に特別とんでもない悩みがあった訳ではなく、ごくごくありふれたことでストレスを溜めていただけだったから、家に帰れば沙綾がいるという幸せを前には些細なことなのだろう。もしかすると、これから沙綾との生活が充実していくにつれてストレスにすら感じなく可能性もある。
結局のところ、彼の抱えていた問題は“満たされない”の一言で片付くものであり、彼に限らず、この年代の男子なら大抵はたった1人の美少女で解決できてしまうのだ。
本来は相手の悩みも聞いて支え合って・・・ということも必要になるが、沙綾は虹元に合わせて作られたので、沙綾の架空の大学生活での悩みを持って来ることもあるがそれは虹元でも簡単に相談に乗れるものになり、沙綾に感謝されて更に満たされるという好循環が生まれる。
自分で作っておいて未だに信じられないのだが、実際にこうして商売になり客も満足しているという事実があるのだから、美少女というのは本当に凄いと思う。
この需要は絶えないだろう。これからも、言葉にできないモヤモヤを抱えた“満たされない男子”たちに、“その人のための美少女”を提供しようじゃないか。どんな悩みだって美少女がいればイチコロさ。美少女は、全てを解決できるのだから。
次回:全ては解決できない美少女




