鳳凰宮の主
城門が開かれるとそこは風通しの良い林であった。種々の鳥達の声が聴こえ木漏れ日が気持ち良かった。鳥達は一同を見つけると近くの枝まで飛んできた。さらに奥へと進んでいくと大きな朱色の建物があり、建角身命からここで靴を脱ぐように言われた。中に足を踏み入れると数多のビリヤード台が置かれた壮観な風景に一同は瞠目し呆然と立ち尽くすことになった。
建角身命は僅かに微笑んで「ここが神前試合の会場です。現在は台の設置作業中です。まだまだ増えますよ。それでは奥へ参りますよ。」と言うとまた歩みだした。奥の扉を開けると長い廊下があり左右に幾つもの部屋があった。そこには忙し気に仕事をしている武家や貴族の姿が見えた。「政務を司るところでございます。あまりキョロキョロしないでくださいね。この奥が拝謁の間です。鳳様の質問にだけ答えてください。こちらから質問してはなりません。」建角身命は謁見の間での注意事項を述べた。
拝謁の間の前には二名の衛士がおり一同を確認すると「建角身命様ご到着!!」と響き渡る声が発せられ扉が左右に開かれた。玉座も含め華美な装飾はなかったが磨き上げられた柱や床が光沢を発し、質素なつくりながら陳腐ではなく重厚さと気品を漂わせていた。
伽羅の匂いとともに鳳様の前に進み一礼をした建角身命は脇に寄り「茂吉・彩夏・勇人でございます。」と両腕を重ね顔を隠すよう深々と上奏した。「大儀であった建角身命。」鳳様が凛として言った。鳳は茂吉に目をやり「そのほうが伝説の魔王か。こうして見てみると猛々しい魂を持っておるが、人の域を超えておらんな。まぁよい、主から聴いておる。綾様に会いにこの世界に来られたのだな。して会ってどうするつもりだ?」
「会って、会ってまずたくさん話がしとうございます陛下。そして出来ますならあの世で共に暮らしとうございます。」茂吉は心底から言葉を捻り出すと目から自然と涙が溢れてきた。その様子を見た鳳であったが冷淡な言葉で「業深きことよの。」と呟きそして話を続けた「この世界に住まう者にとって綾様は、主と共に心の拠り所、崇拝すべき対象なのだ。その魂もすでに輪廻の外にある。」
「どうあっても綾と会わせて戴くわけにいきませんか・・・」茂吉は落胆し肩を落としたが「では試合に勝って堂々と会う以外ありませんな。」と気持ちを切り替え言った。その時だった一羽の鳥が入ってくると人に姿に変った。鷽鳥の長である。鳳が席から立ちあがると「どうした!主からの火急の命か?」
鷽鳥の長はいつも主である道真の傍にあり秘書のような役割を担っている側近であった。鷽鳥の長は「まもなく鸞鳳様、和凰様が参られます。」と告げた。「なに鸞鳳と和凰が帰ってくるのか?」鳳が言うと一同もざわついた。しばらくすると「鸞鳳様、和凰様ご到着!!」と衛士が叫び扉が開かれた。
「えっ!」彩夏が息をのんだ。「お父さん、お母さん?」紛れもなく彩夏の両親の「鸞人」「和羽」の姿があった。和羽は彩夏に近づくと「高瀬さんから連絡を戴いて、びっくりして追っ駆けてきちゃた。」と舌を出した。そして和羽は茂吉の方へ行き「お父さん、お久しぶりです。」と手を取った。茂吉の頭はパニックになり「あわあわ・・・」としか言えなかった。そして「私から説明をします。いいですね鳳?」と鳳に言うと和羽は説明をはじめた。
「鳳凰はその肉体も魂も不老不死なのです。しかしその子は肉体だけが不老不死なのです。鳳凰は我が子の魂を復活させる為、鳳の魂は人の世に行き人に宿り、人となりて子を産ませ、死してのちこの世界の長になる為にここに帰ってきます。その時、生まれたのが鸞人さんです。そして凰もまた人の世に行き、人との間に子を産み人としての生を全うして、またこの世界に戻り長となるのです。そして生まれたのが私なのです。そして私達夫婦もその生を全うし、いずれ魂はこの世界の肉体に還り数百年の寿命を全うしまた魂の死を迎えます・・・これを永久に繰り返しているのです。」
「すっすると・・・綾・・・綾は」茂吉も理解したが、受け入れられずにいた。「そうですお父さん。お母さんは凰です。」和羽は父茂吉の肩をしずかに抱き寄せた。「しかし綾さんの魂が和魂になってとか、いろいろ話を聞かされましたが?」勇人が質問した。鳳は「それは人として生きて、人に愛され多くの人の情に接し自身が何者であるのかも忘れるほどに、人として生きてしまったのだ・・・」と悲しみに満ちた目で言った。さらに「茂吉よ真実を語らなかった余を許してくれ。そしてこの席に顔を出せぬ凰の気持ちを察してやってくれ・・・茂吉よ。」鳳は茂吉に対し頭を下げた。鳳の側近たちは鳳が頭を下げたことに驚きを隠せなかった。そして鸞鳳・和凰が実在した事実も・・・それは一部の長のみが知る秘密でもあったのだ。
「なんと身勝手な・・・」茂吉は肩を震わせた。「鳳よ。それが真実だとしても、わしは綾と話がしたい。綾の口から綾の本当の気持ちを直接聞きたいんじゃ。」茂吉の悲痛な叫びであったが、瞬時に側近が口をはさむ「鳳様を呼び捨てにするとは!」・・・しかし鳳が手で遮りその発言を許容した「同じ魂を愛した男なのだ。よかろう凰と話がしたければ試合で勝ちあがり、その資格があることを証明してみせよ。」鳳はそう言い残すと鸞鳳・和凰を伴い鳳凰宮の奥へと姿を消してしまった。
「お父さん?お母さん?どこにいくの?」彩夏は心配そうに両親に言った。「大丈夫、心配しないで、あとで会いましょう。」和羽がウインクをした。鸞人もまた「本当にロマンだったろう?」とウインクしてみせた。彩夏はまたすぐに会えると確信した彩夏は「じゃ~またあとでね。」とウインクして手を振った。
鳳凰宮を後にした一行は、ひとまず鷽鳥の長とともに大社に戻る事にした。鴉の間では烏党の長が2台のビリヤード台の設置を指示していた。「この部屋は元来、主に呼ばれた際の私の控えの間なのです。大会までの皆さまの練習用に台を設置させて戴きます。」と建角身命が言い作業を続けた。台の設置作業は嘴細と嘴太がやっていた。恥ずかしそうに「先ほどはどうもぉ~」とペコっと頭を下げた。
「道真様は、道真様はどこまで知っておられた?どうしてわしらをこの世界に招いたのだ?」茂吉が鷽鳥の長に尋ねた。「主は全てを知った上でこの世界への扉を開くことを許されました。」鷽鳥の長と答える。「惨いことをするもんじゃ神は・・・」茂吉は怒りがおさまらず壁を叩いた。
「私に主のお考えは判りません。しかし貴方の魂は純粋で猛々しく、ともすれば荒ぶり周囲を巻き込む禍になると判断し人の世から隔離したのかもしれません。」鷽鳥の長は静かな口調でそう言うと鳥の姿となりまた何処かに飛んで行ってしまった。
茂吉は目を閉じ考え込むとおもむろに「なるほど、そうかもしれん・・・皆こんなことに巻き込むことになって、すまなんだ。」と頭を下げた言った。しかし彩夏は元気に言った「さっきお父さんも言ってたよ。ロマンだよ!おじいちゃん。私楽しいよ。ずっとドキドキしてる。本当だよ。」彩夏の言葉を聞き茂吉の心は落ち着きを取り戻した。
建角身命が「台の設置が終わりました。みなさんご自由に練習をされてください。大会は5日後リブレによる予選が鳳凰宮と鶏の町の雄鶏宮殿で行われます。どちらの予選に出て頂いても構いません。各々の町から代表2名を決めスリークッションにて決勝戦が行われます。お互い頑張りましょう。」と言うと鳥の姿となり嘴細と嘴太を伴い飛んでいった。
しばらくすると迦楼羅が「先ほどは失礼した。練習相手でも務めさせてもらいます。」と菓子折りの手土産を持って訪ねてきた。「みなさん大した腕ですなぁ。もうタマゲました。」と目が宙に踊っていたが「ではわしの相手でもしてもらおうか。」と茂吉が言うと迦楼羅は「うひゃ~それは無理無理もう勘弁してくださいよ~だんな~」と腰を抜かし一同は大爆笑することになった。
その時「たっだいまぁ~」っと両親が元気に帰ってきた。そして彩夏は両親に抱きしめられた。




