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茂吉の謎

 「わしの名前・・・変かの?」茂吉は怪訝な顔をして彩夏に尋ねた。「茂吉・・・本当に茂吉なのか?信じられん。」あきらかに迦楼羅は動揺していた。「まぁいい、やってみれば判ることだ。嘴細!セットしろ!」と嘴細に命じた。


 「彩夏、キューを貸してくれんかの?」茂吉が彩夏に言うと「もともとおじいちゃんのキューだよ。」とすかさず茂吉にキューを手渡した。「ありがとうよ。」とキューを受け取った刹那、茂吉は再び獰猛な肉食獣の威圧感を発した。


 「その威圧感・・・やはり本物なのか・・・」迦楼羅はゴクリと唾をのみ込むとキューを握りしめ固まった。


 「さてバンキングじゃよ、迦楼羅くん。」茂吉が放心している迦楼羅に言うとキューを構えた。「どうしんたんじゃ。はよう構えんか。なんなら初球を譲ろうか。」茂吉が構えを解いて言った。「おじいちゃん!」「茂吉さん!相手を侮ってはいけない!」彩夏と勇人が叫んだ。「なめやがって!兄貴!こんなジジイやっちゃってください!」嘴太が叫んだ。「よし!やってやる。俺を甘く見た報いをくれてやる!」目を血走らせ迦楼羅はキューを構えた。


 迦楼羅の腕前は先の二人とは別格であった。初球を絶妙な力加減で当てると、数キューの内に瞬く間に球を集めてしまった。どんなもんだとばかりに迦楼羅は茂吉を見たが、茂吉の目の威圧感に気圧され目を伏せてしまった。目を合わせ続けれない自身に迦楼羅は怒りを覚え全身をプルプルと震えさせたが、同時に心中では「勝てる気がしない・・・」と諦めにも似た感情が芽生えていた。


 それを感じ茂吉が言った「迦楼羅くん、1キューでもはずしたら終わりだと思ってもらってもええよ。」これまた威圧感たっぷりな口調だった。


 迦楼羅は、恐怖心と闘いながら球を撞き続けた。球を寄せ過ぎて難しい局面もあったが、猛禽が獲物を狩るかのようにキューを急降下させ、マッセで当てしのいだ。嘴細も嘴太もキュー尻でトントンと床を叩き「さすが!兄貴!」と称賛した。その後も迦楼羅は球に当て続け、ついに125点を撞き切ってしまった。「やった!初球撞き切りだ。お疲れさまでした。」と弟分達が駆け寄った。


 「やるもんじゃ。さて台を譲ってくれるかの。わしの裏撞きじゃ。」茂吉がキューを握り構えた。茂吉は静かにキューを撞き出すと、2つの的球に当たった。その後の手球の配置は完璧だった。まとまった球の塊は崩れることがなく、打ち出される的球は全てがその群れの中に返ってくる。店内は音一つなく静けさの中、球の音だけが響いた。「125点じゃ。さぁもうひと試合じゃよ。迦楼羅くん。」茂吉はニカッと笑った。


 その笑いに迦楼羅は震撼し全身に鳥肌がたった。茂吉が続けて言った「次はわしの初球でよいかな?」茂吉の発した言葉に迦楼羅は自身が狩る側ではなく狩られる側なのだと理解させた。そしてそれは間もなく現実のものとなった。茂吉のキュー捌きは失敗する要素をまったく感じさせないものだった。「125点じゃ。今度はお前さんの裏撞きじゃ。はずしなさんなよ。」今度は茂吉が撞き切ったのだ。はずした時点で迦楼羅の負けが決定する。その重圧に迦楼羅は圧し殺される思いだった。いつのまにか迦楼羅の口元は嘴に変わり、背中から漆黒の羽が生えていた。


 その時だった只ならぬ気配を感じ烏党の三人が縮こまった。「迦・楼・羅。」中性的な声が脳裏に刺さった。発せられたのか、脳に直接語られたのかも判らなかった。数羽の烏を引き連れたその者は店の全ての者に対するように一礼をし「我一族の者共の不躾、長として陳謝申し上げる。」と口にした。「建角身命(たけつのみのみこと)様、申し訳ありません。」迦楼羅達は片膝をつき赦しを乞うた。「間もなく開かれる神前試合の練習を致したく・・・」と迦楼羅が言いかけたが、建角身命は一言「去れ。」とだけ発した。嘴細と嘴太は烏となり逃げるように飛んで行った。迦楼羅もまた鴉天狗の姿になり一礼をするとつむじ風のように消えて行った。


 建角身命は茂吉に近づき「私は烏党の長をしております八咫烏でございます。試合を中断させてしまい申し訳ございません。茂吉様。お迎えに上がりました。鳳凰宮にご案内致します。」と会釈した。店を出ようとした一向だが、町人達から向けられる目には怒りや恐怖が滲んでいた。


 茂吉は不愉快そうに「わしらが何かしたかの?」と周囲に聞こえるように質問したが、誰も答えようとはしなかたった。建角身命は「あとで事情はご説明いたしますので、この場は従って下さい。」と明確な回答を避け店を出た。


 店を出ると彩夏は建角身命に話しかけた「他の偉い方々は、~の長と言いますが、鳳様だけなぜ~様なのですか?」 


 すると建角身命は、鳳様について話し出した「我々は現世にあっては死がありました。従って子孫を生まねばなりません。しかし鳳凰はそもそも不老不死なのです、この世に2羽のみ鳳様と凰様だけなのです。子孫を残すと言う概念は最初から無いのです。従って一族などはありませんので鳳凰の長とは言わないのです。すべての鳥の長ではありますが・・・そう言えば・・・ただ一度だけ鳳様と凰様の間に『鸞鳳らんほう和凰かおう』と言う2羽の青い鳳凰が生まれ、その2羽がすべての諸鳥を生んだという言い伝えはあるのですが・・・」


 「なるほどそういう事なんだ。鳳様と凰様かぁどんな方か楽しみです。ところで私の祖母の綾についてもお訊きしても良いですか?」彩夏は建角身命に尋ねてみた。建角身命は立ち止まると彩夏の目をジッと見つめ話をしだした「先ほどの町人達もですがこの町に住むほとんどの町人は綾様が連れてきた人の魂です。鳥族の町人もおりますが、鳥族は基本的に武士・貴族・神官なのです。」


 「人の魂はここでは蔑まれる存在なのですか?」今度は勇人が尋ねると、やはり勇人の目を見つめ「そんなことはありません。我々が人型になるのも主がもともと人であるからです。綾様がこの酉の国に来られた際、人が人であり続けれるよう鳳様の名のもと、この鳳凰の町の礎として町人として働くよう定めたのです。また綾様を敬愛する人族や鳥族は、好んでビリヤードをするようになり、親交が図られました。」


 「そう言えば先ほど神前試合がどうとか言ったましたな?」最後に茂吉が尋ねると、また今度も茂吉の目を見つめ「はい、まもなくビリヤードの神前試合があります。主の御前にて鳥族の長をはじめ、腕に自信のある者は誰でも参加することができます。その優勝者は綾様との対戦資格を得るのです。」


 「なるほどな。そこで優勝せねば綾さは会えぬと言ったところか・・・ところで事情はあとで説明すると言ってた、わしの名前についてじゃが・・・」茂吉が質問を続けると建角身命は、視線をはずし言い難そうに「人の世にあって、綾様を長年にわたり自由を奪いその魂を幽閉した魔王・・・それが茂吉と言うことにこの国ではなっています・・・皆、綾様を連れて行かれると思っているのです。どうかお許しを・・・」


 「あたたたたっ わしが魔王か・・・それが名乗らぬ方が良いと言われた理由だったのかぁ~」額に手を当て困惑しているようにも見えたが、満更でもない顔をしているようにも見えると勇人も彩夏も思った。しばらくすると城門前の橋に辿り着き建角身命は「さてでは城に入ります。ここからは静かに願います。」と言うとゆるりと橋を渡って行った。


 

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