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異世界に神様はいらない  作者: 春野 いつき
第2章 猫耳の少女
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第10話 おにくのうた

 


 思っていた以上に手続きが早く終わったので、勇馬はナナにお願いして少し遠回りしながら帰っていた。

 自分がこれから住むことになった街のことを、出来るだけ知っておきたかったからだ。



「おーっ、なんか田舎っぽい」



 行きに通った大通りではなく、街の外壁沿いの人通りが少ない道を歩いていると建物が疎らになり、代わりに広大な畑が現れた。

 日も傾き始めているので流石に作業している人はいないが、トマトのような赤緑色の実や、白い胡瓜のような形をした野菜がなっている。



 ぐーぐるぐるー

「おにゃか空いたぁぁ……」



 口を半開きにし今にもよだれを垂らしそうなナナは、お腹を鳴らし野菜たちを物欲しそうに見つめいてる。

 その言葉で自分が今日一日何も食べていない事に気が付いた勇馬も、急激にお腹が空いてきた。

 今日の夕飯は勇馬が店で働く事になったお祝いに、ニックが食事に連れていってくれることになっている。



「俺もお腹空いたし、やっぱり急いで帰るか」


「さんせー!じゃあ、にゃあとどっちが早く着けるか競争」


「絶対勝てないし、置いて行かれたら、俺が迷子になるからしません!」


「えーっ、にゃら競争は止めるけど急いで帰るーっ」



 ナナが急がせようと勇馬の手を引っぱる。

 すると前をよく見ていなかったナナが、横道から急に現れた銀色のフードを被った人とぶつかってしまった。



「あっスイマセン。ナナしっかり前見て歩かないからだよ」


「うにゃぁ」



 ぶつかった拍子についたお尻が痛かったのか、さすりながら立ち上がるナナ。



「ほら、ナナちゃんと謝らないとダメだよ」


「ゴメンにゃさぃ」



 猫耳をペタンと前に倒し、頭も下げて謝るナナ。

 しかしそのフードの人物は目を離した隙に、二人の前からいなくなっていた。



「あれっいない。今の人どこ行った?」


「もーっ!にゃあは謝ったのにぃぃ」



 謝罪もなく消えた相手にナナは悔しそうにし、今にも泣きそうだ。ナナさん本当に16歳ですか?――と言動の幼さに疑問を抱きつつ、勇馬はナナを慰める。



「お尻痛くてもう歩けにゃい!」


「えーっと、ほら帰ったらニックさんが、ご飯連れてってくれるって言ってたじゃん」


「じゃあユーマおんぶしてー」



 駄々っ子になって甘えるナナだが、勇馬としては見た目は幼いとは言え、16歳の少女をおぶる事に少なからず抵抗があった。



「ナナはもう子供じゃないだろ?」


「にゃら動かにゃいもん。でも~ユーマは、にゃあの案内がにゃいと帰れにゃいんでしょ?」



 自分で言ったとはいえ痛いところを突かれた勇馬は、梃子(テコ)でも動きそうにないナナを仕方なくおぶる。

 元の世界ではデスクワークばかりで完全に運動不足の勇馬からしても、ナナの身体はその年齢とは思えないほどに軽い。

 おんぶされて満足したのか、ナナは勇馬の背で歌を歌いはじめた。



「はっはっハンバ~グ~♪にくじるじゅわ~っとハンバ~グ♪びっびっビ~フシチュ~♪おにくと~ろとろ♪ビ~フシチュ~♪」


「ははっ、なんだよその歌」


「きょ~のご~はんはにゃ~んだろにゃ~♪お~いし~お~にくがた~べた~いにゃあ♪」



 ナナの頭にはもう先程の銀フードの事はではなく、夕飯のメニューの事しかないらしい。

 勇馬はそんな美味しそうなナナの歌を聴きながら、夕焼けの田舎道を歩き帰途に就いた。



 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 マッスルへ帰宅した勇馬とナナは、仕事を終え待っていたニックに連れられて馴染みの店らしき酒場に来ていた。

 ワイワイガヤガヤと騒がしい店内で注文した料理を待っている間に、ニックが明日からの事について話し出した。



「ユウマには明日から働いてもらうが、今更なんだが経験はあるか?」


「元の世界でコン……いえ、商店みたいなところで働いた事があるので、基本的なことは出来るかと」



 学生時代、勇馬はコンビニでアルバイトをしていた。

 接客、商品管理、店舗清掃などは朝飯前。

 むしろレジ前商品の調理や宅配物の対応、公共料金の払込なんかがない分、異世界の商店なんて楽勝だとさえ思っている。



「そりゃ頼もしいな!なら算術もそこそこ出来るのか?」


「算術って算数……計算の事ですか?」


「そうだ。加算が出来るなら嬉しいんだが」


「えっ?加算ってそんなの普通に出来ますけど?」



 勇馬は当たり前のことだと思い「普通に」と言ったのだが、ニックはその言葉を聞き驚いた表情を見せる。



「ユウマの世界では普通なのか?」


「世界というか、俺が住んでた国ではほとんどの人が出来ますよ。加算どころか、加減乗除全てを10歳くらいまでに教わります」


「10歳だと!?信じられんな……じゃあユウマも当然」


「はい、というか算術は得意な方なので任せてください」



 驚愕するニックに、勇馬は笑顔で返す。

 後で聞いた話によると、この世界には普通の人が通う学校が基本的にはなく、子供が勉強をする場所は休日に教会で催される勉強会しかない。

 そのため簡単な計算も難しいらしく、商売人でも加算、足し算しか出来ないなんてザラとのことだった。

 そんな話をしている内に、酒と料理が運ばれてきた。



「お待たせ!おや珍しい、ニックじゃないか」


「おうダリア、邪魔してるぜ」



 ふくよかな店員が運んできた飲み物で乾杯をし食事に有り付く。

 もちろんナナには酒ではなく葡萄ジュースだが。

 酒はドーブル名産の葡萄で造られたワイン。

 アルコール度数は低いが、葡萄が良いおかげなのか飲みやすく勇馬はかなり気に入った。

 料理はシチューのような煮込みもあれば、見たことのない料理もある。

 味はというと、シンプルな味付けと言えば聞こえは悪くないが、マズくはない程度だった。

 しかしご馳走してもらっている分際なので文句はなく、むしろ腹が減っていたのでそんな料理ですらも美味いと感じ、勇馬は黙々と腹を満たした。


 食事も一息つき勇馬がワインを楽しんでいると、料理をツマミに飲みつづけていたニックからお願いをされた。



「ナナに算術教えてやってくれねえか?」


「!!!えーっとにゃあにはべんきょーなんて必要にゃいかにゃーにゃんて……」



 いやいやするナナを横目に話を聞くと、前に一度対応させた時にお釣りを大幅に多く客に渡してしまい大損したんだ、とニックは遠い目をしながら勇馬に教えてくれた。

 勇馬からすればそんなことお安いご用なので了承すると、その分の指導代も給料に上乗せしてくれることになった。

 もちろんナナはそれを聞き、にゃあにゃあ抗議をしていたが二人は聞こえない振りをして再度、ワインで乾杯した。

次回更新日は7/28 0:00予定です

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