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わたしは此処にいる

 "蜘蛛宇宙人" は恐れなかった。




 "穴" は、

 "蜘蛛宇宙人" の人差し指を咥えたまま、

 動かなかった。




 指は、吸い付く力で囲まれている

 ――力は輪の形だ。




 その奥に、吸い込む力が在る

 ――円柱の形で。




 そして

 ――それぞれ

 同じ力だ。




 痛みはない。




 "蜘蛛宇宙人" は、指を引き抜こうとした。




 手の甲のフェイクファーがうねる

 ――芒の様に見えた。




 そして戻る

 ――熱狂的であった者が

 ――自分が熱狂的であった事を

 ――知る様に。




 ――――――――――――――――――――――――


 しかし――


 0から1に行った者は、0に戻る事は出来ない。


 1を知った者は、0に戻る事は出来ない。


 後は接近する事しか出来ず

 ――最早

 所属し直す事は出来ない。


 ――――――――――――――――――――――――




 指を引き抜こうとすればするほど、

 "穴" の吸い込む力が強まったのがわかった。




 それでも、吸い付く力は一定であった。




 そこで…――

 "蜘蛛宇宙人" は

 指を

 "穴" の中へ

 押し込んでみた。




 すると――"穴" は、さらに指を飲み込んだ。




 "蜘蛛宇宙人" の隣りでは、

 地面に突き刺さった方の――




 「Φ」




 ――が

 コンスタントに

 揺れ続けていた。




 「んむんむム……」




 突然、指に吸い付く力が緩んだ。




 "蜘蛛宇宙人" がチャンスを活用しようとすると

 "穴" は、

 後退しかけた指を捕え直し

 ――さらに前進し

 "蜘蛛宇宙人" の指

 その第二関節まで咥えこんだ。




 しかし――それで終わりではない。




 また締め付けが緩む――今度は指の付け根まで到達した。




 そこで止まった。




 指を食われた "蜘蛛宇宙人" は、どうしようか、考えていた。




 すると突然、傍で<何か>が弾けた。




 動きと音。




 そして――落ちて行った。




 倒れる様だった。




 "蜘蛛宇宙人" が

 ――指に嵌った「Φ」の "穴" がない方の端を地に付け

 ――腋に挟んだライトをその手で握り

 光を向けると、

 地面から立ち、揺れていた方の――




 「Φ」




 ――が

 ――地面の上

 横になっていた。




 棒は静止していた。




 ただ――




 棒の片方の端から、白マテリアを吐いていた。




 「どく………」




 「どく……」




 脈打つ様に、"穴" から白い塊が拡がって行った。




 それを見ていた "蜘蛛宇宙人" は、手の水掻きに圧力を感じた。




 見ると、

 指に嵌った――




 「Φ」




 ――が

 さらに手を飲み込もうと努力していた。




 何度も "穴" が緩み

 ――締め付け

 前進しようとしている。




 ただ中指と人差し指の間で――差し止められていた。




 "蜘蛛宇宙人" は、歯がない、と思った。




 そのまま、手に持っていたライトを

 ――再び

 腋に挟む。




 そして

 ――空いた手で

 手袋の裾を摘んだ。




 表裏を引っくり返しながら――脱いだ。




 脱ぎ終わると

 ずっと着用し続けていた領域を――




 「Φ」




 ――の "くち" に被せた。




 難しくはなかった。




 被さると、人差し指を締め付ける "穴" の力が緩んだ。




 指を引き抜いた。




 難しくはなかった。




 腋に挟んだライトを手に取る。




 マスクされた――




 「Φ」




 ――は、動かなかった。




 "穴" は見えなかった。




 "蜘蛛宇宙人" は――




 「Φ」




 ――棒の真ん中にある瘤

 ――その脇

 を握ったまま、観察していた。




 すると、手袋で覆われた "穴" が、手袋を飲み込み始めた。




 手袋の端(手首の輪)と "穴"(「Φ」の先端)

 その間の距離が減少していく。




 プロセスは漸次的で――可視的。




 途中で、詰まる様子はなかった。




 "穴" が反芻する事はなかった。




 そして――すべてを飲み込んだ。




 "穴" が閉じられた。




 "穴" が

 ――すぐに

 また開いた。




 "蜘蛛宇宙人" は観察を続けた。




 何も起こらなかった。




 少しでも目を逸らすと何かを逃すのではないか、

 と "蜘蛛宇宙人" は "穴" に集中していた。




 変化はなかった。




 ただ――




 「Φ」




 ――の側面

 ――棒の部分

 を握った掌が、




 「むず…」




 「むず……」




 ――しただけだった。




 それは――




 <電車のつり革を何時間も握り続けた時>




 ――の様だった。




 目の前に変化がなければ、

 <気のせい>で済む事だ。




 しかし――それでは事が終わらない。




 "蜘蛛宇宙人" が握りを変えて

 ――掌を一時的に自由にして

 <むずむず>状態

 を解消させようとした時だった。




 "蜘蛛宇宙人" は




 「Φ」




 を持ち直した

 ――ライトの矛先を変えながら。




 そして知った――




 「Φ」




 ――の真ん中に当たる

 <瘤>の部分が

 ――以前の状態から

 変化している事を。




 瘤は

 ――以前まで

 <黒い金属>で出来ていた

 ――棒の他の部分がそうである様に。




 それは

 ――他の素材とは………

 イミッシブルなブラック。




 その表面に

 ――新たに

 白く小さな点が生まれていた

 ――それも

 ――大量に

 ――密集して。




 そして、

 黒と白の斑である物のうち……

 ――白は増え続け

 黒の領域が減り続けた。




 <ほぼ白>になった時、"蜘蛛宇宙人" は――




 それぞれ白い点から、<何か>が出ている




 ――事に気がついた。




 "蜘蛛宇宙人" は当初、<それ>が――




 《液体だ…》




 ――そう思った。




 《何か液体が瘤から滲み出ている……》




 しかし、そうではなかった――

 寧ろ、

 <モヤシの発芽によく似た現象>

 が起こっていた。




 点から出る<それ>が

 それぞれ合体する事はなく

 ――それぞれ勝手に

 ――上に向かい

 伸びていく。




 <それ>等は伸び続け――それぞれ白い線を成す。




 枝分れはない。




 ただ、直線的延長は永遠ではなかった。




 ライトを当て続けた "蜘蛛宇宙人" は直ぐに

 現象のファイナルステージを確認した。




 白い線は

 垂れ下がる程――長すぎず

 自分だけで直立し続ける事が可能な程――短すぎはしない

 そんな状態で留まった。




 その頃にはもう、"蜘蛛宇宙人" は気付いていた――




 《「Φ」の瘤には、白きフェイクファーが生えたのだ》



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