第13話 カンスト
夕暮れまで間もない時間とは言え、ギルドに居る冒険者の数が僅かに数十名というのは余りにも少なかった。
この場所と人員で対処可能な数としては適正に見えるが、ボクの知る限りのギルドの規模には全く見合わない。
なにせ市民登録している者の数だけでも1200万人を超える、帝国すべての埋葬がこの地で行われているのだ。
平均しても一日あたり800件以上の埋葬があるはずだし、2000年間にわたって運営されてきたグレイブヤードは既に100階層にまで達していると聞いている。
ほぼ1日ごとに相変遷が起こるため各層毎の面積は定まっていないが、グレイブヤード一層あたりの広さは概ね2リーグ四方にも及び、それは現在においても絶え間なく拡張され続けているのだ。
前世的な言い回しでは、毎年、東京ドーム60個分の面積が増えていると言い換えても良いだろう。
ではその広大な領域を探索する冒険者の方はといえば、1日の平均が1万人台の前半、そのうちの約1千名が深い階層まで潜っている第四階梯の冒険者たちだ。
帝国の人口構成は、就労年齢に達しない14歳未満が約4割、現役をリタイアした60歳以上が1割程度となっている。
魔力の方から見てみると、市民1200万人のうち第四階梯の魔法クラスを持つ人間が女性を含めた全年齢で約1万人、魔道師と呼ばれるようになる第五階梯ともなると更に少ない1千人ぐらいしか存在していない。
第五階梯以上のクラス持ちはその殆どが軍か神殿に所属しているが、第四階梯のクラス持ちの中で就労可能な5千人の8割近い、約4千人が冒険者登録を行っている。
女性の冒険者はわりに早い段階で、結婚、出産とリタイアする者が少なくなく、実働している第四階梯冒険者は概ね2千人台の半ばを推移している。
この内の半数近い1千人ほどがアントロポス班国の王都エクレシアに居を構えて、ほぼ毎日このフューネラルギルドへ転送陣で飛び、グレイブヤードに潜っているのだ。
勿論これは第四階梯以上の冒険者に限った話しで、魔封じの指輪が実用化されて以降、現役だけで2万人に達する第三階梯の冒険者も、かなりの人数がグレイブヤードの探索に参加するようになっている。
さらに現在では、表層の第一層に限って言えば、短時間なら第一階梯のパーティーですら探索を行うことが可能だから、ギルドへの冒険者の転送は少ない日でも1万人を割り込むことがないのだ。
エクレシア以外からの転送だと転送コストも馬鹿にならないため、グレイブヤードを本格的に探索する冒険者は、フューネラルギルへ日参する第四階梯持ちに限らずエクレシア城内に住む場合が多く、実際に王都エクレシアでの冒険者の居住人口は増える一方だ。
ではその駆け出しからベテランまでを含めて、探索目的でこの地を訪れている1万人もの冒険者がどこに居るのかと言えば、これが全く見当たらない。
もっと日の高い時間であれば、グレイブヤードを探索中の筈なのでギルド管理棟に人が居ないのは当然としても、現在はちょうど探索を終えた冒険者達が王都に帰還する時間帯なのだ。
もちろん、転送陣一基だけで1万人もの冒険者を送れるはずがないとか、この場所にそんな人数をどうやって収容するのかという、それ以前の疑問があるにしても、いま現在目に入る冒険者が数十人とは少なすぎるにも程があるだろう。
「それにしても、幾ら業務終了間際と言ったって人が少なすぎませんか?」
素晴らしく魅力的なエキドナさんを視界の中で愛でながらも、ボクは単純な疑問を口にしていた。
「はい、です。
ここはワタシが、ちょくせつカンリする、ぼうけんしゃサンだけ、です」
自分への質問と思ったのかエキドナさんが辿々しく応えてくれた。
続けてエキドナさんに代わってソピアさんが答えてくれる。
「アルツァさん、こちらにいらっしゃる冒険者の方々は、第五階梯以上の魔道師が加わられているパーティーに限られているんですよ。
他の冒険者さん達はそれぞれの探索に適した施設を利用して頂いているのですが、クラスの高い方達は、深い階層での状況調査をギルドからご依頼することがありますし、非常時の即応戦力としも期待されていますから、常に動向をエキドナさんに把握して頂いているのです」
ソピアさんの説明の後半部分は、ほとんどボクの耳には入っていなかった。
「えっ! 第五階梯って……」
第五階梯と聞いた瞬間、思わずボクはフロアの冒険者さん達を見回していた。
僅か数十人と思っていたが第五階梯クラスが集まっていると聞いては話が別だ。
ですが……う~ん……なんかフツウ。
普通のオジサンと、そのなかに何人かの普通のお姉さんたち……アブナイお仕事帰りらしくちょっと汚れてはいるが、まあそれだけ。
人間兵器を思わせるようなスゴイ雰囲気は全くなく、街でよく見かける第三階梯クラスの冒険者よりもよほど普通のヒトに近い感じがする。
逆にボクたちの方が冒険者さん達からチラチラと見られているんだけど、それってソピアさんが居る所為なのかな?
「第五階梯クラスの人たちって、こう見るからに凄いオーラを発してるようなのを想像してましたけど、皆さんわりと普通な感じの方々ですね」
「……フツウ、です?」
エキドナさんがムチャクチャ可愛い仕草で小首を傾げていた。
「アルツァさん、そんな風に思っていたのですか?
たしかに第四階梯クラスですと結構派手な方も居られますが、私の知る限り、より高いクラスの方ほど普通な印象になって行かれるようですよ。
現にこちらのエキドナさんなんかは第十階梯ですけど、至って普通なゾンビさんにしか見えないでしょう?」
いえ、全く普通ではありません。
ボクのゾンビ認識を覆すほどの超超超壮絶美少女、しかも巨乳ではありませんか。
……って、第十階梯???
「あのソピアさん? その、いまのお話しって……?」
やはりボクの聞き間違えだよね。
「エキドナさんのクラスのことですか?
間違いなく第十階梯のレベル9999ですよ。
その気になれば死霊騎士なんか毎日2万体以上、死成出来てしまいますから。
わたしなど、あの魔法は結構ギリギリのレベルなので苦手なんですよ」
「…………」
「どうしましたアルツァさん?
そんなに死霊騎士が増えたら大変だ、などとご心配ですか?
もうイヤですね、エキドナさんはそんな非常識なことはされませんから、安心してくださいよ」
ソピアさんったら、その辺の世話焼きオバサンが「いやですわ~」なんていってる感じで手を小さく振ってるけど、ボクの心は千々に乱れすぎてどうして良いものやら……。
その横ではエキドナさんが、
「ですないとキライ、です」
なんて、ボソッと言ってるし。
第十階梯? レベル9999? ……っていったい??




