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入学式の新入生代表の挨拶で名を呼ばれたのは、主席入学を果たしている王子様だ。立ち上がりステージに向かって歩いていく。その堂々とした様子に格好良さが溢れている。なんて素敵なのかしら!
離れた場所に座っているから存分に見つめてしまう。嫌われてるから、側にはいかないつもりだけれど、遠くから見るだけならお互い無害なはずだ。たぶん。
それにしても主席入学なんて大変だったと思う。
王子様だから好成績に違いないという、周りからの期待やプレッシャーもあったであろう。
そんな中、どれほど勉強していたのだろう。
その努力を思うと、やはり素敵だなとうっとりしてしまう。
ただ、入学試験は商人の子や役人の子たち平民にはあるけど、貴族にはない。
貴族はクラス分けをするために、入試の問題で学力調査を受けることになる。王子様と同じクラスになるために、私もすごく勉強したわ。魔力制御の指輪をつけて初めて外出したのも、あの日だった。
なので、正しく全体の中の主席が王子様なので、やはりすごいと思うのだ。
今年はヒロインの入学の年だから、攻略対象である勉強できる系イケメンたちも同じ学年。
それに打ち勝っているのだから、本当にすごい。
そして、壇上で挨拶の言葉を述べている王子様は、やっぱりすごく格好いい。
15歳でこんな格好いいとか、将来有望すぎではなかろうか。
だから、ゲームをしたときは王子様ルートを一番に選んだし、一番大好きだった。
ヒロインには優しいんだよね。
なのでゲームをしてるときの私にも、すごく優しくしてくれて、とっても幸せだった。
あの優しさを思い出すと、今までの自分への態度との落差がすごいけど。
きっとこれから少しずつ笑い話へと昇華していきたい。
今はまだ、傷心中です。
入学式を終え発表されたクラスへ行けば、教室の中には王子様にヒロイン、各種イケメンたちと、ヒロインを助けてくれるメガネの女の子がいた。
メガネの女の子はね、本当に優しいのよ。
王子様の婚約者である私がとても苛烈で、王子様に近づくヒロインにメッチャ当たりが強いんだけど、いつもそっと避難させてくれるの。
爵位の関係で、私に物申すことはヒロインもメガネの女の子も出来ないんだけど、辛いときに居場所があるっていいよね。
婚約者である私には・・・なかったわ。
ゲームの中ではいつも王子様にべったりで、友達一人もいなかったものね。その上、魔力が多いので、学院に入る前に交流があった子供など王子様以外にいるわけもなく・・・あ、すごいボッチ、ツラい。
結局、ヒロインへの当たりの強さが原因で、どのルートに行っても、一年後に行われるダンスパーティーで王子様に婚約破棄された気がする。
私が王子様と結ばれる未来だけはないのだ。
(そして絶望した私は・・・)
魔力を暴走させ、自分の身の周りに荒れ狂う暴風を起こしてしまう。魔力制御の指輪は白く光り輝いていて、私は必死で自分の魔力を抑えようとするけれど、自分では制御できなくなっていた。このままでは、命尽きるまで魔力を放出し続けることになる。と、攻略対象の一人が解説していた。
だけどそこで、ヒロインだけが暴風で傷だらけになりながらも必死で私に近寄り、私を抱きしめて助けてくれるのだ。暴走した魔力が痛くても、決して諦めずに。
そして、私は死ぬ寸前で、魔力暴走が止まり一命をとりとめることになる。それがきっかけで、ヒロインに対して今までのことを謝罪するのだ。幸いヒロイン以外怪我をした者はおらず、魔力暴走は事件ではなく事故として処理された。そして、もう二度と魔力暴走が起きないよう、罪人に使用する魔力封じの魔道具を着けることで、私は再び学院に復学することを許されるのだ。
アレがこのゲームの一番の山場なのかもしれない。それ以外は、平和な甘酸っぱい青春の物語だったと思う。ヒロインはその功績の後押しもあって、思いの人と婚約し進級を果たすのだ。
思い出した内容に、軽くめまいを感じつつ、私は息を吐く。
無意識に淡く青い色の宝石が付いた魔力制御の指輪を撫でて、自分の魔力が落ち着いていることを確認した。
あれは1年後の未来。それも、私の努力で何とかなりそうな雰囲気がある。きっと大丈夫。大丈夫よ、私。そう自分に言い聞かせて、気持ちを整える。
席は自由だったので、目立たぬよう一番後ろの窓側に座った。
ヒロインたちは前の席に固まっていて、はじめましての自己紹介イベント的なものが行われている。ふふふ、見ているだけで楽しそう。ゲームでは詳しく描かれていなかったけれど、こういうちょっとした日常も目の前で見ると、いいなと感じた。私はもちろん、誰に話しかけることも、話しかけられることもなく一人ぼっちだが。
実物のヒロインは、ゲームの画面よりずっと可愛い。
髪がふわりと揺れるだけで、キラキラのエフェクトがかかってる。
これはゲームをした身だから知っているのだけれど、あれは、ヒロインから清らかな魔力が微かに漏れ出ているから。清らかな魔力だから、側にいると誰もが心地良いらしい。決して魔力量が多いわけではないので、私の様に周りに被害を出すこともない。素晴らしいヒロイン補正である。
ただあのキラキラエフェクトも、それを視認できるのは、ある程度高い魔力を持った者だけなので、このクラスで見えているのはどのくらいいるだろう?
しかし綺麗だわと、ぼんやりヒロインに見惚れていたら、視界に王子様が入り込んできた。
ヒロインに話しかけて楽しそうに笑っている。
その表情が、懐かしくて泣きそうになった。
そう、私がお茶会で見て、一目ぼれしてしまった笑顔。
でも考えてみれば、あの時だってそれはヒロインに向けられていた。
ヒロインに恋してる王子様に、私は恋をしてしまったのだ。
(最初から、恋する相手を間違えていたんだわ。でも本当に素敵なのよ)
そう、寂しく心の中でつぶやく。
そんな王子様の様子に、見惚れている女子生徒が何人もいるし、私だけではないと信じたい。暴走したのは私だけだが。
窓の外には春に花を咲かせる木々が満開を迎えていて、とても美しい。屋敷の外に、ほとんど出たことがなかったから、外の世界はとても広くて素敵だ。ゲームをいったいいつどこでプレイしていたかは思い出せない。不思議だが、遠い昔ではなく、むしろ先ほどまでプレイしていたような感覚があるのだ。なので、ゲームをしていた時の多幸感も実に鮮明で、まだドキドキしているかのよう。しかし今の私は、あの幸せを味わえる立場ではないこともまた、身に沁みて感じていた。
入学式の日は授業はなく、簡単な自己紹介と学校での過ごし方を聞いて、昼前には学院は終わった。
緊張気味に自己紹介をする者が多かったが、貴族出身の者は比較的落ち着いて見える。
その中には、ヒロインのようにやる気に溢れる元気なタイプがいたり、何故か眠たそうだったり、照れ隠しなのか、ぶっきらぼうタイプなど随分と個性豊かだなメンバーだと感じた。
それもそのはず、ヒロインのためにこのクラスには各種イケメンがそろっているのだから。
平民の者たちは、間近に貴族がいて、恐怖から震えている子もいたから、それがちょっとかわいそうだった。
私はフルネームを言い「これからよろしくお願いいたします」と、そっと礼をするにとどめた。
ゲームの時は、王子様の婚約者であることを自慢していた気がする。
朝までの恋に暴走していた自分だったら、間違いなくやったわ。
危なかった。




