表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/31

準備地図を見せる

朝食を終えた後、リクは帳面をもう一度開いた。

昨日書いた簡易地図は、まだ線が少し曲がっている。

初心者宿、冒険者詰所、薬師の店、セイルの店、南門詰所。

危ない場所は書いていない。

橋の先も、古い石標も、入口らしき場所も書いていない。

外へ出る前に、街の中で準備するための地図だった。


「今日は、売りに行くんじゃなくて、見せに行く。」


リクが言った。


「詰所にですか?」

「うん、勝手に売っていいものじゃないと思うから。」

「はい。」


ハクトは自分の地図を鞄にしまった。

橋の先の記録は持っていく。

けれど、それは準備地図とは別のものだ。

見せる必要がある時だけ出す。

リクの準備地図は、危ない場所へ進むための地図ではない。


リクは帳面の写しを1枚、丁寧に折った。

写しには、仮題が書かれている。


『外へ出る前の準備地図(仮)』


その下に、短い確認項目が並んでいた。


『手当て:布は分けて持つ』

『荷物:動ける量にする』

『戻る時刻:出る前に決める』

『目印:帰る時に見える場所』

『帰ってから:使った道具を確認』


リクはそれを見て、小さく息を吐いた。


「……このままだと、直されそうだけど。」

「直してもらうために行くんですよね。」

「うん、そう思えば大丈夫。」


2人は初心者宿を出た。

朝のリーヴェルは、昨日の昼前よりも人が多い。

市場通りの方から、荷車の音が聞こえる。

冒険者詰所の前には、新入りらしいプレイヤーが何人か立っていた。

外へ出る前に、何を持てばいいか、どこへ行けばいいか。

それを迷っている人もいるのかもしれない。


南門詰所へ向かう途中、ハクトはリクの持つ写しを見た。


「危ない場所の地図ではありません。」

「うん、準備する場所の地図。」

「それなら、ちゃんと伝わると思います。」

「伝わるように直すのが、今日の目的かな!」


南門詰所の前には、ダレスがいた。

門の外へ出る者の木札を確認している。

ハクトたちに気づくと、手元の札を置いた。


「ハクトか。リクもいるな。今日は調査ではないだろう。」

「はい、今日は相談です!」


リクが一歩前に出た。

少し緊張しているように見える。

それでも、声ははっきりしていた。


「冒険者向けに、外へ出る前の準備地図を作れないかと思って、確認に来ました。」

「準備地図?」

「はい。外の危ない場所ではなくて、街の中で準備する場所をまとめたものです。」


リクは写しを差し出した。

ダレスはそれを受け取り、目を細めて読む。

しばらく何も言わなかった。

沈黙が少し長い。

リクの指が、帳面の端を軽く押さえた。


「外の地図は書いていないな?」

「はい、南門外縁や橋の先は書いていません。」

「南門詰所は書いてある。」

「許可確認と報告の場所として書くつもりです。誰でも外へ出られる、という意味ではありません。」


ダレスはその部分を指で叩いた。


「なら、はっきり書け。ただ『南門詰所』だけだと、門へ行けば出られるように見える。」

「はい!」


リクはすぐに帳面へ書き込んだ。


『南門詰所:許可確認・報告』


ダレスは次に、題名を見た。


「外へ出る前の準備地図、か。」

「変ですか?」

「悪くはない。だが、地図という言葉だと、外の地図だと思う者もいる。」

「では、どうすればいいですか?」


ダレスは少し考えた。


「外出前確認地図、くらいならまだわかるはずだ。」

「外出前確認地図……。」


リクは仮題の横に、別の題を書いた。


『外出前確認地図(仮)』


ハクトはその文字を見た。

外へ出る前、より少し硬い。

でも、その方が合う気がした。


ダレスは確認項目へ視線を移した。


「手当て、荷物、戻る時刻、目印、帰ってから確認。内容は悪くない。」

「このまま使えますか?」

「いや、直すところがある。」


ダレスは『目印』の行を指した。


「帰る時に見える場所、はいい。だが、物を置けと言っているように読まれると困る。」

「目印布を置くとは書いていません。」

「書いていなくても、そう読む者はいる。」


リクは少しだけ眉を寄せた。

困っているのではなく、言葉を探している顔だった。


「では、『帰りに見えるものを確認する』はどうでしょうか!」

「その方がいい。」


リクは項目を書き直した。


『目印:帰りに見えるものを確認する』


ハクトはうなずいた。

目印は、置くものだけではない。

木の形、建物の角、看板、石畳の曲がり。

帰る時に見えるものなら、それも目印になる。


ダレスは次に、地図に書かれた店名を見た。


「薬師の店、セイルの店。店名を使うなら、店にも聞け。」

「はい、詰所では決められないですもんね。」

「そうだ、詰所が勝手に店の名を使わせるわけにはいかない。」

「わかりました!」


リクはまた書き込む。


『店名使用:各店に確認』


ダレスは写しを返した。


「それと、詰所確認済みとは書くな。」

「はい!」

「詰所が売るものではない。そこは勘違いされないようにしろ。」

「はい、相談用として使う形にします!」

「直したら、もう一度見せろ。」

「わかりました!」


リクは写しを受け取り、両手で持った。


ダレスはハクトへ目を向けた。


「ハクト。」

「はい。」

「街中の地図を書くなら、外だけ見ていても足りない。」

「街中、ですか?」

「新入りが迷うのは外だけじゃない。薬師の店へ行く道、道具屋へ行く道、詰所へ戻る道。そういう道も見る必要がある。」

「はい。」


ハクトは少しだけ背筋を伸ばした。

街の中は安全地帯だ。

けれど、安全地帯だから迷わないわけではない。

知っていると思っていた道にも、まだ見ていないものがあるのかもしれない。


リクが帳面を閉じた。


「よし、お店の確認に行ってるくね!」

「1人で大丈夫ですか?」

「うん、商人の話だからっ!」


リクは少し笑った。


「ハクトは、街の道を見てきて!」

「街の道を。」

「うん。僕が店に聞いてくる間に、ハクトは案内人として、準備地図に使える道を見てきて。」

「わかりました。」


別々に動く。

そう決めると、少しだけ不安が出た。

これまで南門の外では、ほとんど一緒にいた。

でも、今日は街の中だ。

リクには商人として聞くことがある。

ハクトには案内人として見ることがある。


ダレスが短く言った。


「無理に外へ出るな。」

「はい。」

「報告が必要なことがあれば、戻ってこい。」

「わかりました。」


詰所を出ると、リクは市場通りの方へ目を向けた。


「僕は、まずラナさんのところに行くね。その後、セイルさん。それから小分けセットの方を確認する!」

「小分けセットは、マルタさんのとこですね。」

「うん、材料のことも聞いてくる!」

「わかりました。」


ハクトは冒険者詰所の方を見る。

それから、薬師の店へ向かう道を思い出した。

昨日までなら、目的地だけを考えていたかもしれない。

でも今日は、そこへ行く道そのものを見る必要がある。


「ハクト。」

「はい。」

「お金が入ったら、共同資金に入れるから!」

「僕も、もし案内で受け取ったら共同資金に入れます。」

「うん、次の調査の準備に使おう!」


2人はうなずき合った。

個人で稼ぐためではない。

次に進み、戻ってくるための資金にする。

そう決めると、別々に動くことも同じ目的につながっている気がした。


リクは市場通りへ向かった。

背中の布袋が小さく揺れる。

商人として、店に話を通しに行く背中だった。


ハクトは反対側へ歩き出した。

冒険者詰所へ向かう道、薬師の店へ向かう道、セイルの店へ向かう道、南門詰所へ戻る道。

どれも、もう知っている道のはずだった。


けれど、準備地図にするなら、ただ知っているだけでは足りない。

初心者が迷う角、荷物を持って通りにくい道、戻る時に見える目印、人が増える時間。


街の中にも、まだ白い場所はある。


ハクトは地図を取り出さなかった。

まずは、自分の目で見る。

書くのは、その後でいい。


南門詰所の鐘が、背中で小さく鳴った。

今日の探索は、門の外ではなく、街の中から始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ