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魔王がクラスメイトにウンタラカンタラ(リメイク版)29話目


「おーい、トウマー。起きてるかー?」


事務所の2階。

轟は一室のドアの前で立ち止まると、遠慮のない力強さで何度もノックを繰り返し、大声で中の住人を呼び出した。


「まだ寝てるのか……?」


痺れを切らした轟が無理やり扉を開こうとした瞬間、部屋の中からドタバタと何かが倒れるような物音が聞こえ、ゆっくりとした足音が近づいてきた。


「……起きてたっぽいな」


「なんだよ…こんな朝っぱらから……」


「言うてもう9時になるぞ」


「え、マジ!? っぱ俺、寝る才能あるわー」


扉の向こうから現れたのは、鳥の巣のような金髪を揺らしながら目を擦る男。

……トウマだ。

彼は眠たげな視線を僕に向けた直後、その目付きを鋭く豹変させて一歩身を引いた。


「てめぇ…昨日の……!」


「落ち着けトウマ。何もしやしないさ」


敵意を剥き出しにするトウマを、轟が軽くいなす。

どうやら轟は、意外とこの場を回すのが上手いらしい。

ボスの慧が圧倒的なカリスマで周囲を牽制する象徴なのだとしたら、実質的なリーダーシップを執っているのはこの男なのだろう。


「……で、何しに来たんだよ。ソイツら連れて」


トウマは未だに不服そうな態度で、僕と魁を交互に睨みつけてくる。


「ああ。今度の護衛依頼にこの二人を連れていくことにした。そのために、こいつら用の武器を新調したくてな」


「はぁ!? 本気かよ! 何考えてんだ轟、危険すぎるだろ。何企んでるか分かったもんじゃねぇぞ!?」


慌てふためくトウマは、必死に轟を説得しようと言葉を尽くす。


「どうどう、落ち着けって。提案したのは俺だ。それに優の能力は天使教への強力な抑止力になるし、魁のニュータイプは今回のような長期任務にはうってつけなんだよ」


「だとしても、子供を連れてくなんて……って、天使教!? おい、どういう関係だよ!?」


「あー、詳しい話は後だ。とりあえず何か武器を貸せ。銃とナイフ、あとは何か役立ちそうな小物をな」


混乱するトウマを再び宥め、轟は頼み込むように手を合わせた。

トウマはまだ納得しきっていない様子だったが、これ以上食い下がっても無駄だと察したのか、深いため息を吐いて状況を飲み込んだ。


「……分かったよ。勝手にしろ。適当に選べ」


トウマは乱暴に頭をかきながらドアを押し開け、僕たちを室内へと招き入れた。

廊下からでも予感はしていたが、そこは異常な空間だった。

一歩踏み込めば、ずっしりとした重厚感に圧倒される。

壁一面を埋め尽くしているのは、鈍く黒光りする鉄の塊。

部屋には火薬特有の、どこか鼻を突くような、焦げた匂いが漂っていた。


(これが火薬の匂いか……? 嗅いだことはないが、本能的に武器庫だと理解させられるな)


僕は床に転がっていた空き缶を爪先で適当に退かし、壁に掛かっていた一挺のリボルバーを手に取った。


「意外と重いな……」


ずっしりとした冷たい感触。

僕はその鉄塊を念入りに観察する。


(44マグナム……スミス&ウェッソンか。名前くらいは聞いたことがあるが、想像の二、三倍はデカいな)


暴発させないよう細心の注意を払いながら、僕はその銃を睨め回した。


「ほう。いきなりそれを選ぶあたり、目利きだけは評価してやるぜ。S&W M29……44マグナム弾なら、熊やヘラジカだって一撃だ。間違っても人に向けんじゃねぇぞ? お前さんのドタマなんて、一発で弾け飛ばせるからな」


トウマは寝癖を直しながら、僕の手元を横目で見る。別に評価されたくて選んだわけじゃない、ただ適当に目に入っただけだ。


「オートマチックはないのか?」


「あぁ? んなもん、メカメカしくて趣がねぇだろ。俺は『拳銃はリボルバーに限る』って決めてんだ。それ以外のデカいのは集めまくってるけどな」


……こだわりが強いというか、面倒な男だ。


「優はオートマチックの方がいいのか?」


「当然だ。実戦で使うならリボルバーよりオートマチックの方が利便性が高い。見た目のロマンより、装弾数とリロードの速さの方が重要だ。リボルバーなんて、現代じゃロマン武器にすぎないだろ」


「格好いいのになぁ」


「な」


ロマン派の二人の視線を無視して、僕はマグナムを元の場所に戻すと、魁の方を振り返った。


「魁はどうする? 僕はここにある銃の構造を片っ端から覚えるだけでもいいんだけど、魁に合うやつくらい選んでもいいんじゃないか?」


「儂も特にこれといった要望はないが、強いて言うならライフルがええの。使い慣れとる猟銃は村に置いてきちまったし」


「……だってさ。猟銃みたいなライフル、あるか?」


僕は魁の要望をトウマに伝えた。

するとトウマは、今度は呆れ果てたような溜息を吐いた。


「あのなぁ……対人戦で猟銃って、お前ら。デカいのは大体集めてるけど、オートマチック拳銃なんかは俺の専門外だ。そういう最新のハイテクなやつはサクラに頼め」


「じゃあ、僕はそっちに行くか」


僕は魁をトウマの部屋に残し、サクラの部屋へと向かおうとした。


「えー、カイもデカいの一緒に選んでくれればええのに」


「僕の能力の性質上、片手だけでもパッと空けられるようなハンドガンの方が都合がいいんだ。それに、貸してもらわなくても仕組みさえ理解すれば生成できる。後で合流するから、そこで我慢してろ」


「なるほどなるほど、ならええか。じゃあ選んだら後で見せ合いっこしようなー」


「んな、ポケモン交換みたいなノリで……」


僕は一言残して部屋を後にする。

トウマと何故か仲良さげに話し始めた魁を見て、轟が苦笑いしながら僕の後に付いてきた。


「アサルトライフルには興味ないのか? AKとかM4とか、有名だろ」


「護衛に参加するのは米軍なんだろ? なら彼らの主流はM4や新型のXM7のはずだ。補給の互換性を考えたら、わざわざAKを選ぶ必要はない」


「詳しいな」


「昔、テレビか何かで見たのを覚えていただけだよ。黒いのとベージュ色だった気がする、程度の知識だけどな」


「はえー、大したもんだ」


何故か感心している轟を余所に、僕は足を速める。

……が、肝心のサクラの部屋がどこか分からない。


「こっちだ」


2階の扉の前で迷っている僕を、轟が階段の下を指差して導く。

僕は少し首を傾げながら、轟の後に続いて一階へと下りた。


「一階にサクラの部屋なんてあったか?」


「寝室はないな。洋室はあるにはあるが、客室として使われてる。あるのは風呂、トイレ、リビングにキッチン……そして、ガレージだけだ」


階段を下りきった先。轟が立ち止まったのは、ガレージへと繋がる重厚な扉の前だった。


「……マジで?」


「マジだ。だが、開ける前にノックは欠かさないこと。それがここの暗黙のルールなんだ」


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