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第1章 魔獣被害を解決せよ 8

出航が目前に迫り、慌ただしくする乗組員に迷惑がられながらも、ライルとミレイユは渦潮に関する聞き取り調査を終えた。結論から言えば、渦潮の発生条件や増加に傾向や共通点は見られず、明確となったのは増えているという証言だけだった。


「うーん……何というか、決め手に欠けると言いますか……」

「そうだな……。じゃあ、魔導監察局を頼ってみるか。確か渦潮のデータを何とかして手に入れてるとか言ってたような……」

「本当ですか!」


そう思い出したライルが通信機を取り出した。通信機の仕様は、相手方の魔力を登録することで通信を可能とする代物。

アインの番号を表示させて呼び出した。


『はいはーい! ライル、どしたー?』

「アイン、確か魔導監察局はセオリツ湾の渦潮のデータを集めてたよな?」

『あたしの担当じゃないけど……確かやってたよ』

「じゃあ、渦潮の発生頻度をまとめてくれ。期限は今日中に出来るところまででいい。キリがいいところでデータを送ってくれ」

『ちょっ、無茶言わないでって! あれを管理してる人、面倒なんだから!』

「カフェ《アルタ》のプリャーニク2セット」

『………………3セット!』

「…………………………分かった。よろしく頼んだ」


了承の後、通信の切れ目に聞こえたのは息を巻く声。報酬スイーツの効果は絶大のようだ。


「えーっと……私がお支払いしますので!」

「経費で落とすから気にするな」


意を決したように宣言するミレイユを淡々と受け流した。あくまでも調査の一環なのだから、守護者の業務内と押し通す。


「うーんと……でしたら、今度こそ魔獣被害の調査をします! 漁師の皆さんに聞いて回りましょう!」

「それなら軽食をテイクアウトして車の中で食いながら行こう。その方が手っ取り早い」

「ですね! ライル先輩のオススメを教えていただければ!」


そう提案するとミレイユは目を輝かせてそう言った。守護者の食事にでも興味があるのだろうが、残念ながらライル自身はそれほど詳しくはない。


「車内で食うなら、まずはパン屋 《グラトニ》だな。種類豊富で焼き立てパンが良心的な価格で味わえるが、特に日替わりバーガーが安くてうまい。大体白身魚だけど」

「ふんふん、バーガーは手軽でお腹にも溜まりますもんね!」

「手軽ってことなら、カフェ《アルタ》のたまごサンドもうまい。ふわふわ甘めの厚焼きたまごと固めに焼いた食パンの触感もよくて、コーヒーにも合う」

「ふわふわなのはいいですよねっ」

「大陸南部発祥とかいうケバブサンドもうまい。甘辛なタレと香ばしく焼いた肉をふんだんに使っていて、味もそうだが匂いも良い。屋台だから毎日別のところにいるのがたまに傷だが、それだけに空腹のときに出くわすとたまらない」

「じゅるり……お腹が空いてきました」

「それから最近、セオリツ湾を挟んだ先の極東区域発祥の握り飯がオープンしたんだな。炊き立ての白飯に具を詰めて握っただけだが、それもうまい。特に冷めてもそれはそれでうまいのが、守護者としてはいいな」

「そ、そんなものまで……うぅん、迷っちゃいますが……凄い、詳しいですね! ライル先輩!」


悩ましそうに口元を緩めた表情から一転、ミレイユは両手を合わせて賛辞を口にした。瞬時に半開きの口を固めたライルは、喉まで出かかっていた他の候補を脇に追いやって、そっぽを向く。


「テイクアウトが多いから、自然と知っただけだ。大したことじゃない。何食うのかさっさと決めろ」

「ふふっ……はい! では、たまごサンドが食べたいです。実は卵焼きには一家言あるんですよ」

「はぁ、よかったな」


得意げなミレイユをさらりと受け流して、カフェ《アルタ》に向かって歩き始める。せっかくだからアインへの報酬を用意しておこうと考えながら。



____


 

海都から南部に続く街道を走ること一時間。トルクエニドの漁業を支える漁村の1つがそこにある。ライル達が車内で昼食を済ませた後、漁師の多くは翌日の漁に向けて準備や当日の打ち上げを行っている時間だ。

魔動車から降りると沖から流れてくる潮風が吹き抜けた。ミレイユは風に煽られたポニーテールを抑えながら、高台の駐車場から漁村を一望した。


「昨日も来ましたが、良い眺めですねっ」

「イオタ村。海都の漁業が落ち込んでからは、ここが漁業の中心だからな。少しずつ拡大する計画もあるらしい」

「そ、そうなんですか。なんだか少しもったいないような」


ライルは魔動車に鍵をかけてミレイユに並び立った。昔ながらの漁村の面影を残しながらも、漁港には新しい設備が整いつつある光景だ。

そして高台から望むセオリツ湾は、太陽を乱反射し、水平線の際では大きく渦巻いているのが見える。


(……またか)


その景色を一望するライルの奥底が、呼応するようにざわめき立てる。だが、端から端を見回してもその原因は特定出来ない。棘のような不快感を覚えつつ、ライルはミレイユに呼び掛けた。


「ストラス。武器は携帯しろよ」

「もちろんです!」


小走りで魔動車に戻ったミレイユは後部座席に置いていた薙刀と鞄を肩に担いだ。準備万端とばかりにグーサインを向けてきたのを流して、ライルは目的地に指をさす。


「漁港に漁業組合がある。それなりに情報が拾えるはずだ」

「分かりました! では、行きましょう!」


途中顔見知りと会話を交えながら歩くこと数十分。ライル達は漁業組合の事務所に到着した足のまま、事務所を訪問した。簡易的な受付を済ませたところで、


「おぉい、ライルじゃないか!」


後ろから呼びかけられた。ライルが振り向くと中年の男性が右手を大きく挙げて主張していた。その前の机には紙が散りばめられている。


「あの人は、昨日の……ですよね?」

「ああ、ちょうどいい。あの人はまとめ役なんだ」


ライルとミレイユは男性に歩み寄った。机に広がっているのは複数の海図や船体の図面のようだ。


「昨日は助かった! あの後、オクト種とシャーロ種を捌いて分けたんだ。大味だが割と食える。お前も食ってくか!?」

「結構だ。昼を食べたばかりだから」


豪快な誘いをさらりと断りつつ、顔色を窺う。男性は笑っているが、顔の隈や皺に疲労や心労が浮き出ている。


「あの、皆さんお怪我は大丈夫でしたか?」

「もちろん、ライルとあんたが助けてくれたおかげだ。新人のようだけど、頼もしいじゃないか」

「え、えへへ。それならよかったです」


頼もしいという部分にミレイユは照れくさそうに破顔した後、頬を搔いていた右手を口元に置いて咳払いで取りなした。


「昨日はタイミングを失ってしまったので、改めまして。守護者ギルドに加入したミレイユ・ストラスと言います!」

「俺はイオタの漁師をまとめているジェスト・オルドって言うんだ。よろしくな」

「はいっ。よろしくお願いします!」

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