第4話 現実は甘くない
今回のタイムスリップで未来は変わった。
でも、一番変われたのは自分自身だと思うのだ。以前は受動的な日々を過ごしており、自分から何かを行動することはなかった。だから、何も充実感がなく、全てに諦めを感じていた。
しかし、タイムスリップをすると、両親にも苦悩していた思春期の時代があった事を知った。私はパパとママには、そんな時代はないと勝手に思っていた。
実際の中学時代のパパとママは一生懸命にもがき、沢山の失敗を経験して、不器用ながらも、自分の好きな事に向き合おうとしていた。私はその姿に感動してしまい、無気力な自分を恥ずかしいと思うようになっていた。
だから、私も両親のように自分と向き合うことにした。
「パパ、ママ……。私はこの夏は受験も夢も頑張ってみようと思う。高校はユキちゃんと同じ所に行きたいし、夢は漫画家になってみたい」
すると、ママは優しい笑顔を見せた。
「トキコが思うようにやりなさい。ママは応援しているからね」
パパも優しい笑顔を見せた。
「あとで、俺の部屋に来なよ。そこで、漫画の描き方を教えてあげるよ。前にも言ったけど、かなり厳しい世界だから覚悟しなよ。まずは作品を最後まで描き上げるのが目標だ。これがみんなさ、意外に出来ないんだよ」
こんな感じで、パパとママは優しくも厳しい感じで接してくれたのだ。私はタイムスリップを通して、ダメでも挑戦する事の大切さを学んだ。それが成功するかは分からないけど、最後まで頑張ってみたい。
そして、いつのまにか卒業式の日になっていた。
それまでの日々について語ろうと思う。私は夏休みの時間を受験勉強と漫画作成に全てをつぎ込んだ。毎日、毎日机に向かっていたので、手と腰が痛くなるほどであった。これだけ辛い思いをしたので、心の何処かで自分が救われると信じていた。
しかし、現実は厳しくて辛いものだと知る。まず受験は落ちてしまい、ユキちゃんと同じ高校には行けなかった。受験の内容も半分くらしか分からず、自分でも落ちたと分かっていた。それでも、掲示板に自分の受験番号がなかった時は泣いてしまった。
私はユキちゃんに1日中慰めてもらって、公園近くの駄菓子屋で奢ってもらった。この時の恩は一生忘れないつもりだ。
まあ、これが現実だ。今まで勉強してこなかった人間が、少し勉強の努力をしただけで、3ランク上の高校に受かるわけもなく、滑り止めの高校へ行くことになった。
そして、年末に完成した漫画の持ち込みも酷い評価だった。出版社の編集者はダメ出しばかりで、心が折れそうになったが、また持ってきくれと励ましてくれた。それが本音か社交辞令かは分からない。
だから、パパの目からも見てもらったが、指摘されたポイントは同じであった。これが素人とプロの目線の違いだ。本当は心のどこかで、大型新人デビューになると期待していた。
そう、これも現実だ。漫画家志望者は日々努力している人間が集まり、その中で一握りがプロになれる世界なのだ。そんなに甘い世界ではない事が分かっただけでも良かった。
私は卒業式の帰り道に時空院神社に寄った。頂上から街の景色を眺めていると、タイムスリップ前とは違った世界に見えた。私は賽銭箱になけなしの5円玉を入れて、時空院神社に向かってお祈りした。
もし、タイムスリップがなかったら、私はダメ人間として生涯を閉じたかもしれない。5円玉はそうならない経験をさせてくれたお礼である。私が本気でやりたい夢は漫画家だ。
しかし、5年、10年と頑張っても、なれるか分からない職業だという事は分かっている。絵の上手さ、話しの内容、その時代の価値観に沿っているか? 他にも運の要素も必要である。だけど、漫画を描かなかったら可能性はゼロだ。
今まではそれさえも理解してなかった。それを教えてくれたのは中学時代の両親だ。そう、パパの手紙にあった名言の大切さが身に沁みた。バットは振らなきゃ当たらない。
だから、私はバットを振り続けるのだ。




