第37話 パパ vs 桜井シンジ集団
それから、私は部屋に戻って制服に着替えた。
いよいよ、決戦の日が来た。この日の為になんとか3つの作戦を考えておいたのだ。私はママのバットを手に持って、目覚まし時計と画鋲セットをバッグに入れた。
1つめの作戦はバットを振り回して、敵に恐怖を与えて退却させるのだ。そして、2つ目の作戦は防犯ブザー代わりに、目覚まし時計の音量を最大にして脅かしてやるのだ。3つ目はマキビシ代わりに画鋲を地面にばらまいて、逃げる時間を稼ぐ作戦である。
私の頭脳で色々な作戦を考えたが、この3つしか思いつかなかった。SNSとか普及していれば、人を集めてなんとかなったのかもしれない。90年代ってなんて不便な時代だったのだろう。みんな不満とかなかったのかな?
それはさておき、時刻は4時半過ぎであり、そろそろ出発した方が良さそうだ。確かパパとママは6時頃に待ち合わせだ。桜井シンジ集団はそれより前に来るはずだから、更に待ち伏せをして優位に立たないとダメだ。私は家から出ると、神社に向かって歩き出した。
時空院神社の入り口前には1000段の階段があった。ひえー、また体力を使うハメになるけど仕方ない。私は途中で何度も休みながら、なんとか神社の社まで辿り着くと、時刻は5時半を過ぎていた。
とりあえず、神社の後ろに隠れておくとするか。しばらくすると、桜井シンジ集団があわれたので、私は見つからないように監視することにした。敵はシンジ、長髪の男、坊主頭の男の3人だけだ。
すぐに長髪男と坊主男が会話をはじめた。
「確か、待ち合わせは6時頃だったよな?」
「ああ、まだ時空院とリコは来ていないみたいだな。シンジどうする?」
シンジは煙草に火をつけた。
「まあ、ボコボコにしてやるとするか……。勘違いした青春バカどもに、現実を見せてやろうぜ。そうだな、その辺で待ち伏せをしようぜ」
ヤバい、こっちには来るなよ、来るなよ……。
しかし、その心配はいらず、3人は神社の横にある茂みの方へ消えて行った。あぶねー、こっちに来たらどうしようかと思ったよ。更に10分後にパパが来たのであった。
パパが賽銭箱前の石段に座ると、桜井シンジ集団がゾロゾロと出てきた。
シンジは右腕を上げて、見下すように挨拶をしてきた。
「よっ、色男の時空院くん。君らの恋の邪魔をしに来たぜ。さて、どうするよ?」
パパは立ち上がり決めセリフを言った。
「俺がリコを守る」
ちょっと、恥ずかしいセリフだけどカッコいいよ。
しかし、3人は声を出して笑いだした。
「アハハハ、お前に何が出来るの? それがカッコいいと思っているの? キモすぎー」
「俺がリコを守る? ヒャハハハ、ドラマの主人公かよ。キモすぎー」
「顔がムカつくんだよ、キモイんだよ」
みんな、キモイ、キモイ言いすぎだよ。確かに趣味はキモいけど、それ以外は良いパパだよ。
そして、最後にシンジが地面に唾を吐く。
「それにしても、本当にムカつく顔してやがるな。俺はリコをもう1回口説くから、お前らは向こうで時空院をボコボコにしておけ。コイツは待ち合わせ場所に来なかった。そういう事にしておく」
すると、坊主男はパパに近づき、腹に目掛けてパンチを放った。パパは抵抗も出来ずに、地面に片膝をついて動きが止まる。えっ? 一発でダウン? よっ、弱い、弱すぎるぜ……パパ。これは舐められても仕方ない。
そして、長髪男と坊主男はパパを引きずりながら、茂みの奥へと消えて行った。ヤバい、とりあえずパパを助けないと……。
私はパパの後をバレないように追ったが、どんどん神社から遠ざかっていく。クソ、どこまでいくのか?
それから、茂みの中を300メートルほど歩いただろうか、一番奥が空き地のように広がっていた。
そこで、長髪男がいきなりパパの腹に蹴りをいれた。パパは両膝をついて、腹に手をあてて痛がっているようだった。
長髪男はニヤニヤを笑い出す。
「はい、ザコ一匹退治。ヒャハハハ」
坊主男も長髪男に楽しそうに声をかける。
「おいおい、俺にも殴らせろよ。受験勉強のストレス解消したいからよ」
その時、パパがフラフラになりながらも、なんとか立ち上がった。ママに告白をしたい執念だ。しかし、坊主男はパパに向かって走り出し、ラリアットを食らわしたのであった。
パパの小さな体がバイクに轢かれたように吹っ飛ぶと、坊主男はガッツポーズを決めた。
「すげー、コイツ軽いぞ。プロレス技の実験体には最高だわ」
「よし、次は俺の番だな。俺はドロップキックを試したいぜ」
くそ、2人とも喧嘩なれしている。
こうなったら、私が助けるしかないけど、もちろん喧嘩なんかした事もない。ましてや、男子に勝てるはずもない。ならばバット作戦で威嚇するしかない。
私はゲームで鍛えた観察力を使ってみた。長髪男は背が高いが、体は細い感じのチャラ男だ。もう1人の坊主男は体格が良くて、サッカー部というより柔道部みたいだ。
おそらく、坊主男の方が強いだろう。こんなのに勝てるのか? しかし、パパが気絶してしまったら、ママに告白が出来なくなるので、もう迷っている時間はないのだ。
私は覚悟を決めて、バットを握りしめて茂みから飛び出した。




