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不安でしかないスタート

 ―桜舞う季節、本日私立青薔薇学園高等部入学式。

 生徒会長がスピーチを始めに壇上へあがった。

 生徒会長の綺麗な白髪が目に映ったその瞬間、()()膨大な記憶が押し寄せ、頭の中が真っ白になった。


 ・・・気づいてしまった。えと、笑わないで聞いてほしい。

 どうやら俺、灰原千尋(はいばらちひろ)はとある乙女ゲームの攻略対象に転生してしまったようだ。

 

 …いや、そこ!笑うんじゃない!中二病をわずらった訳でもなんでもないからな!?まじその憐みの目やめろよな!

 なーんて、一人でツッコミをして気をまぎらわしてみるが、やがてどんどん押し寄せてくる「記憶」と気分の悪さに耐えれなくなり、俺は意識を手放した。




 ・・・。

 1人の少女が、夢中で画面に見入っている。その友達も同じ体制で自分のゲーム機のボタンを必死に連打している。

 多分この少女は前世(?)の俺だ。何故か顔が認識できないが、不思議と既視感があった。そこにいる少女も、その友達も。

 

 雪が、降っている。

    積もっている。

    時折画面については、溶けていく。


 なんだろう、ここは。

 確かに俺は生きているはずなのに、自分自身の体も認識できない。


 「あああ、やばい、『GBR』コンプリしちゃった!」

 

 「嘘、おめでと!」


 「やっぱちーちゃんは可愛いなあ。完全なる受けだよ。」


 前世の俺たちが発狂している。俺が認識できてないだけで、ちゃんと口あるんだな。多分、その他の顔のパーツも。

 その光景をぼーっと眺めていると、大型トラックが彼女たちに向かって走っているのに気が付いた。


 「っ、ちょ、お前―――」


 彼女たちは画面に夢中で、走行中のそれが迫っていることにまるで気づいていない。


 「っ・・・」

 

 彼女の腕を掴んだ、はずだった。

 なぜかするっと透けてしまい、彼女たちは気づかずそのまま行ってしまった。

 そして――


ばんっっ!!!!



 飛び散る紅いモノに、目を奪われた。

 あっというまに、辺りは血の海だ。


 ・・・画面には、エンディングの一枚絵が次々と流れている。




 「キャアア!」


 「お、おい、やばくね?」


 ギャラリーが騒がしいが、俺はそれどころではない。

 

 ・・・そうだ。

 思い出した。

 

 俺が前世はまっていたカオスな乙女ゲーム、『グランド・ブルー・ローズ』、略してGBR。

 腐女子という人種を友と共にまっとうしていた俺は、先程のとうりトラックに轢かれて死んだのだ。





 「―・・・はっ!?」


 「よお、お目覚め?」


 目覚めてまず視界にはいったのは、白い天井。それから、ニッと笑った養護教諭の臙脂郁也(えんじいくや)の顔面。ちなみにこいつも攻略対象。こいつタバコ臭っ、とか思いながら臙脂の顔面を押しのけて俺はだるい体を起こした。保健医がタバコ吸うなよってな。

 辺りを見回して、ここが保健室のベッドの上とういうことを、働かない頭で理解した。

 そして臙脂が口をひらいた。


「さっさと荷物まとめて寮に帰れってのな。もう放課後だぞ。にしても、お前ら二人同時にぶっ倒れたから驚いたぜ。」


 臙脂のその言葉で、この教室に俺以外の生徒がいたことに気づく。

 俺はなんとなく視線を隣のベッドに移した。


 「・・・うわっ」


 あ、やべ、思わず失礼な声を上げてしまった。

 いやでも、仕方なくね?だって、だってさ・・・

 いるんだよ、あの乙ゲーの主人公(ヒロイン)こと、大原由香(おおはら ゆか)が・・・!


 「いやお前、うわって。相手は女の子だぜ?失礼だろ。それともあれか、美少女すぎて、みたいな?」


 「あんたと一緒にすんなよ・・・。」


 「え、なに、俺の女好きの噂新入生にまで広まってんの。う、噂だから信じんなよ!?」


 嘘つけ。乙ゲーのキャラ紹介にバッチリ女好きって書いてんぞ。

 にしても、臙脂がいてよかった。このヒロインと同じ空間に二人きりとか、冗談じゃねえ。

 とかって一人ほっとしている俺をあざ笑うように、臙脂が爆弾を落とした。


 「じゃあ俺職員会議に出てくるから、好きなタイミングで寮に帰っとけよ」


 「えっ。待て、もうちょっと居てくれよ」

 

 「お?なんだ?ちひろたんは寂しがりやなのか?」


 「さっさと行ってこい。」


 寂しいんじゃねえわ、このヒロイン様と二人きりになるのが嫌なだけだ。

 心の中でそう弁解していると臙脂が笑いながら部屋を出て行った。あ、しまった。

 シンとした空気が漂う。その気まずさに耐えかねて寮に戻ろうと、ベッドを降りたその瞬間。


 「あの」


 「っひゃい!?」


し、しまった。突然話かけられ驚き、変な返事をしてしまった。

 ひかれたかな、と思ってそ~っと彼女の方を見やる。

 しかし彼女は引くどころか、まるで何か愛おしいものを眺めるかのような目をして微笑んでいた。


 「ふふ」


 「あの、何か…?」


 そう尋ねると、彼女から耳を疑うようなとんでもない発言が返ってきた。


 「あ、ごめんなさい、つい。やっぱちーちゃん推しは固定かなあって。」


 「え?」


 「あっ」


 ちーちゃん。今彼女が言ったそれは、ゲーム内での俺の愛称だ。前世の俺とその親友も言ってたし、間違いない。何故それを知っているんだ?仮に知っていないとして考えても、初対面であだ名呼びってどうよ。って感じ。

 じーっと彼女を見つめていると、観念したように彼女がそっと口を開いた。 


 「ご、ごめんなさい。実は私、前世?の記憶みたいなのがあって。その前世好きだったゲームに、貴方そっくりの人がいて、ついそのあだ名を使ってしまったの。本当にごめんなさい。」


 …彼女が言っていることは本当なのだろうか。本当なら、俺たちは同じ境遇にいる仲間ということなのでは?

 しかし、それを言ったところで信じてくれるだろうか。本当に彼女に記憶が戻っているのなら、自分がヒロインってこともわかっているはず。ヒロインに実は自分もなんですって言っても、『え、何、攻略対象だけあってまさかもうアタシに惚れちゃった?キモッ』と思われるに違いない。

 だが、どうしてもこの異常な事態にいることを誰かと共有したかった俺は、咄嗟に()()を呟いた。


 「GBR…」


 「っ!!」


 乙ゲーの名に、ヒロインは反応を示した。

 び、ビンゴ…?


 「ま、まさか貴方も...!?」


 「そ、そうなんだよ。俺も、前世この乙ゲーにはまってたんだ。親友と、コンプリした瞬間トラックに轢かれちまってから、転生したらしい」


 俺のほうの事情を説明すると、なんと彼女も親友とトラックに轢かれて人生に幕を閉じたらしい。しかも腐女子。

 それから2人で思い出せるだけの前世の記憶を言い合った。そしてこんな事実が判明した。

 あんなに関わりたくないと思っていたヒロインは、元親友でした。



 「っつっかれたぁー...」


 寮に戻るや否や、すぐさま俺はベッドにダイブした。

 念願の一人部屋は、前世の記憶を掘り出して今後の人生計画を立てるのに丁度いい。


 『グランド・ブルー・ローズ』

 この乙ゲーは、とてつもなくカオスだ。前世、よくハマってられたな、ってくらい。どこら辺がカオスかお伝えしよう。

 まず、この学園について。

 この学園は、吸血鬼と人間が共に手を取り合う時代を目指す理事長によってつくられたものだ。

 そう、吸血鬼。この世界には、吸血鬼が存在する。ま、まあ、ここら辺はまだ許容範囲だ。モンスターとの恋愛系のは少なくない。

 次に、ヒロインについて。

 ヒロインはただの女子生徒だが、実は特別な存在であった。

 「ソ・ニエル」。

 意味は忘れてしまったが、吸血鬼の始まりの地で生まれた言葉だ。まあ創作の言語だろうが。

 このソ・ニエルは、吸血鬼の花嫁の中でも最も特別な存在だ。餓鬼などの妖らは、彼女の血や精気を吸うだけで力は強くなり、寿命も延びる。だからヒロインはこういった邪なものに身体や命を狙われやすい。そんなヒロインを守るために攻略対象は存在する。

 そんなソ・ニエルは、100年だか1000年だかに一回しか地球に生まれない。そんなよくある設定のため、ソ・ニエルは更に貴重なものとなった。


 「由香も大変だなー...」


 俺は苦笑した。

 俺も攻略対象なだけあって、由香にはヒロインを放棄してもらいたい衝動に駆られるが、ヒロインは今後学園の危機を救ってくれるのだ。つまりいなくてはならない。

 あ、そうそう、次に攻略対象についてだ。

 このゲームには攻略対象が11人いる。男8人。...女3人だ。

 ま、まあ、最近女同士の恋愛も認められてきている(?)し、も、問題はないだろうっ、うん!

 だ、大丈夫なんだろうか...。ま、俺の恋愛に関わることじゃねーし、どうでもいいか。俺はくじょー。

 問題はこっからよ。俺はたしかに攻略対象だが、前世親友だった奴と恋に落ちる気がしない。多分由香も同じのはず。それはいい。それはいいんだが。攻略対象に、俺の兄貴と妹が含まれているんだよ.............!!

 いや、兄貴はどうでもいい。うん。しかし俺は、大事な大事な可愛い妹を譲る気はない!一生だ!!シスコンと言われようが関係ない。もう一度言う。大事な大事な可愛い妹は誰にも譲らん。

 しかし、妹と由香の恋愛フラグを、どう回避するかだ。うちの兄妹らは、俺が攻略されてから登場する隠しキャラだ。ここはいくら乙ゲーの世界といえど現実だ。隠しキャラだのなんだのは通用しないだろう。となると、シナリオどうり結構最初のほうで接触するはずだ。よし、接触イベント以降は充分気を付けなくちゃな!あれ、そういやゲームの中の俺はここまでシスコンじゃなかったよな。まさか、隠れシスコンだったのか。やりおる…!


 そして、俺自身について。

 俺は確かに攻略対象だが、生徒会らとは違い普通の人間だ。

 そう、平凡。みたいな。「初心者向け」ってレッテルがお似合いだ。前世でも、一番最初に攻略したような。

 ...なんていうか、転生先、間違えてないか?



 「ちーちゃんおはよ!」


 「おー由香。はよ」


 朝が来てしまい、クラスに入って早々挨拶をしてきた由香を寝ぼけ眼で見つめる。


 「な、なに?」


 「いや、確かに美少女の類だけどゲームより可愛くないな、って思って~」

 

 なんて素直に言ったら殺されるに違いない。


 「いや、なんでもない」


 「ふーん。まあ、いいけどさ。ねえ、今日ってあれじゃん。接触イベントの日じゃん。ちーちゃん、どうにかしてよ。」


 「は?なんでだよ。」


 「親友の危機でしょ!こんな時くらい男見せなよ!お前のブツは飾りか!」


 「女が堂々とでけー声でんな事言うな!」


 なんかこいつ、乙ゲーのヒロインの性格してないぞ。むしろ、前世の性格まんまだ。


 「じゃあ百歩譲って、回避の手伝いとか、傍にいるくらいしてよ。あんなキラキラの中にいたら、私死んじゃう...」


 「百歩譲ってってなんだ、百歩譲ってって。」


 「承諾しないなら君の妹を攻略してやる」


 「手伝うに決まってんじゃーん!俺ら親友だもんなっ!」


 にやりと由香が口で弧を描く。

 くっそう。


 「ソ・ニエルは卑怯で煩い奴だな。恥ずかしくないのか?」


 俺は仕返しに悪態をついた。ただ、周りに関係者がいると不味いので超小声で。

 そしたらこう反論された。


 「うっさいな。ちーちゃんだって男のくせに、ひ弱で女顔なんだから。恥ずかしくないの?」


って。 

 ...女顔は関係ねーだろ。一応、気にしてるんだからな??








 「んで、昼を食べる場所よ。どこで食うつもりなんだ?」


 「場所によって、生徒会メンバー変わるもんね...」


 そう。この接触イベントは昼に発生する。ヒロインが選択した場所によって、イベントに登場する攻略対象は異なる。

 ちなみに3つの選択肢があって、確か屋上と食堂と花壇だったっけか。


「なんだっけ。蒼峰が屋上、白空が食堂、紅城が花壇だっけか。どーすんの?」


「....。そうね、庭園で食べましょうか。」


 あ、こいつ逃げる気か。

 こんなんがヒロインで、この先大丈夫なのか...?


♰ ~蒼峰憐(あおみね れん)~


 なんとなく吸血鬼の聴覚で聞こえてしまった会話に、耳を疑った。

 だって、匂いからしてふたりとも普通の人間のはずだ。否、女の方は少し薔薇の匂いがしたが、男は完全なる人間だ。

 しかし、彼は言った。


 「ソ・ニエルは卑怯で煩い奴だな。」


 ソ・ニエルは古代の書物でしか聞いたことのない、特別な吸血鬼の花嫁のことだ。

 それを、なぜ人間が知っている?しかも、女の方はソ・ニエルと呼ばれ、それに異論を唱えなかった。認めている。


 本当に、彼女がソ・ニエルと言うのか。

 彼女と彼の関係はなんなのか。

 何処でソ・ニエルの情報を取り入れ、何故彼女がソ・ニエルであるとわかったのか。


 ・・・他にも聞きたいことは山程ある。何で今日俺が昼食を取る場所がわかったのか、とかね。

 まあそれは、今日庭園で聞き出せばいいだろう。


 「...生徒会全員で昼食?庭園で?」


 白空会長が眉をひそめる。

 そう、俺は生徒会メンバー全員で昼食を取ることを提案したのだ。

 とある生徒2人が来るであろう庭園に。


 「何が楽しくて男たちと食べないといけないのよ。」


 男嫌いな紅城副会長が、渋い顔をする。


 「まあまあ、そんな事言わないでくださいよ。顧問からの伝言なんで。」


 「あいつ、なに考えてんだ...」


 会計の黄坂が不機嫌丸出しの顔と声で唸った。その横で、同じく会計の黒瀬があたふたしている。

 生徒会は他の生徒や先生が居るときは、それこそ顔良し性格良しの完璧な人間を装っているが、実際の雰囲気はこんな感じだ。至極残念な事実。唯一性格を取り繕っていないのは、黒瀬くらいか。


 「ま、先生が何を考えてんのかはわかんないっすけど、行くしかないっしょ。んじゃ、解散~」


 俺のその台詞を境に、それぞれが散っていった。

 よし。上手くいった。


 「なあ、蒼峰。」


 「なんです、会長」


 「先生の言伝て、っていうの。あれ、嘘だろ。何を隠しているんだ?」


 ...まったく。本当にこの人は、勘だけは鋭い人だ。


 「えー、俺を疑うんですかあ?ひっどーい」


 「男に微笑まれても嬉しくない。てか、作ってんのバレバレだからな。」


 俺は得意の作り笑いをしてみせたが、無駄だったようだ。

 気持ちを切り替えて、ひとつ気になったことを聞いてみた。


 「そいや会長。今日は食堂で食べる予定でした?」


 「あ?何で知っているんだ。気持ち悪いな」


 「ですよねえー...」


 答えを聞いて自然と口が緩んでしまった。

 その表情を隠すために、俺は颯爽とその場を立ち去る。まあ、会長の質問から逃げるためでもあるが。

 

 「あ!おい!俺の質問にも答えろよ!」


 後ろで会長がなにか喚いているが、知ったこっちゃない。

 ()()()()を知っているのは、俺だけでいい。


 ーなんだっけ。ちーちゃん、ゆか、だっけか。

 その2人の顔を思い浮かべると、不思議と胸が高まった。こう、お菓子を目の前に、目を輝かせる子供みたいに。

 不思議な少年と少女。

 その2人がこれから何かを巻き起こしそうな予感に、久しぶりに本当の笑みをこぼしてしまった。

最後まで読んでくださってありがとうございます。少しでも面白いなと思っていただけると幸いです。

これからもっとキャラ同士の絡みを増やし、BL展開を巻き起こせたらなと思ってます。

ぐだぐだですがどうぞ宜しくお願いします。

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