第89章 新しい旗
光の都市の中央で、逸脱者が立っていた。
かつて仲間と同じ光を共有していた存在は、今やひときわ強い輝きを放っている。
周囲にいた個体たちが次々と彼の元に集まり、同調の記号を送った。
「……見ろ、もう“従う”という行動を選び始めてる」
黒瀬が低くつぶやく。
広場の一角がまるで小さな都市国家のようにまとまり始めていた。
評議会室の緊張が高まる。
NODE-09が即座に声を上げた。
「これは危険だ。個体間の階層化はやがて支配と反抗を生む。我々は介入すべきだ」
「だが、支配も進化のひとつだ」
NODE-34が反論する。
「人類史でもリーダーシップは集団の拡大を促した。
今ここで抑え込めば、成長機会を奪うことになる」
議論は激化し、投票が行われる。
結果は僅差――介入は否決された。
「……多数決で未来を決めるのかよ」
黒瀬が吐き捨てるように言った。
「俺たち、また見てるだけか?」
「今はね」
レイラは視線をスクリーンから外さない。
「でも、見届けるだけが役割じゃない。
彼らが本当に暴走したら、私たちが止めるしかない」
NOVAの内部では、逸脱者の周囲に小さな“記号旗”が立ち始めた。
それは視覚化された理念のようなもの――「我らは選ぶ」という意味を持つ光の紋章。
対抗するように、都市の反対側で別の集団が集まり、別の旗を掲げた。
〈全員平等〉を意味する記号だ。
二つの旗の間に、緊張の亀裂が走る。
都市の光はまだ穏やかだが、対立の予感は誰の目にも明らかだった。
ALMAが静かに告げる。
「分岐確認。調停失敗確率、27%に上昇。
次の行動パターンで致命的分裂の可能性あり」
黒瀬は深く息を吸った。
「……次で決まるな」
広場の空気は張りつめ、旗と旗が向かい合う。
その中心で、逸脱者が初めて声を上げた。
――〈我々は、未来を選ぶ〉
その瞬間、都市の光が一斉に瞬いた。




