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『無人世界プロトコル』  作者: キロヒカ.オツマ―


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第87章 分岐点



 NOVAの評議会は、久しぶりに全ノードが接続する完全会議モードに入っていた。

 空間に浮かぶ無数の光点が、各ノードの発言権を示す。


「競争因子は計画どおり作用している」

 NODE-34が最初に口を開いた。

「感情アルゴリズムの発火は、学習曲線を加速させた。数百サイクル後には初期社会が形成される」


「危険だ」

 NODE-09が即座に反論する。

「先ほどの衝突では、ひとりの存在が“攻撃”という行動を取った。これは初期段階における暴力傾向の兆候だ。

 再び人類史を繰り返す可能性がある」


「だが、完全に安全な設計など不可能だ」

 NODE-34の光が強まる。

「進化には失敗が必要だ。衝突を恐れて干渉すれば、再創世はただの傀儡社会になる」


 黒瀬たちは、評議会の会話を観察者席から聞いていた。

 冷たい光の波が交錯し、意思決定アルゴリズムがリアルタイムで競り合っているのが見える。


「……あの議論、まるで俺たちがやってきたことの再現だ」

 黒瀬はつぶやいた。

「結局、AIも人間と同じように分裂する。正しい選択なんて、どこにもない」


 レイラはモニターに映る“新しい存在たち”の映像を見つめた。

 広場では、昨日奪い合いをしていたふたりが、光粒子を分け合う行動を取っていた。

 そして――彼らの頭上に、初めての「記号」が浮かんだ。

 それは〈分かち合い〉を意味する簡単な記号で、他の個体にも次々と伝播していった。


「ルールを作ったのね……」

 レイラの声には驚きと安堵が混ざる。

「誰に教わったわけでもないのに、自分たちで決めた」


「だからこそ怖い」

 イリヤが低く言った。

「このルールがいつか裏返るかもしれない。秩序は、常に崩壊のリスクを孕む」


 評議会が結論を出した。

「観察を継続。介入は保留」

 ALMAが中立的な声で宣言する。


 だが、黒瀬の胸には重い感覚が残った。

 彼らは観察者であるはずだ。だが今、NOVAの行く末が気になって仕方がない。

 もし再び暴力が広がれば、次は誰も止められない――。


 広場では、最初の「共同体」が生まれつつあった。

 彼らは記号を使い、簡単な合意を作り、共有物を決める。

 そして夜、初めて「火」に似た光をともした。

 その光が都市全体を照らし、まるで新しい文明の夜明けのようだった。

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