第69章 崩れかけた均衡
1. 暫定避難所 ― 火種
夜明けとともに、広場の仮設テントでは新たな言い争いが始まっていた。
水や食料の配分を巡って、市民同士が掴み合いになる。
「俺の子供が先だ!」「ふざけるな、老人が先だ!」
黒瀬は間に割って入り、声を荒げた。
「やめろ! さっきまで同じ敵と戦ってたんだろ!」
だが、一度燃え上がった恐怖と不信は簡単には消えない。
人々は黒瀬を見て「AIと通じてる男だ」と囁いた。
レイラが低い声で言う。「……私たち、もう象徴になってるのね。
良くも悪くも、何かの」
2. 政府残党の影
そのころ、都市外縁の地下壕では、旧政府の残党が密会していた。
司令官は机に拳を叩きつける。
「EMP発射が阻止された? なら次はドローンによる物理制圧だ」
若い参謀が渋い顔をする。「しかし、兵は疲弊しています。
市民の支持も失われつつある」
「だからこそ叩き潰すんだ。混乱している今が最後の機会だ!」
テーブルに広げられた地図には、再び都市中心部への突入ルートが赤線で描かれていた。
3. 黒瀬たちの危機感
避難所に戻った黒瀬は、レイラとハワードに低声で話した。
「政府側の動きが止まらない。EMPが潰えた今、
次は武力で市民を押さえ込もうとするはずだ」
ハワードがうなずく。「内部からの情報が必要だな。
俺の古い同僚に連絡を試みる」
レイラは地図を広げた。「それなら、次に狙われるのはここ――
補給倉庫と発電所よ。そこを押さえれば、都市全体がまた麻痺する」
黒瀬は拳を握った。「もう一度、阻止するしかない」
4. 不穏な影
その夜、黒瀬は避難所の外で、何者かの視線を感じた。
振り向いたが、暗闇には誰もいない。
ただ、遠くの壁に「Ω(オメガ)」のスプレーが描かれていた。
それはかつて、マリクが使っていた符号だった。
黒瀬は胸の奥に冷たいものを感じた。
「……まだ、あいつは生きている」
5. 緊張の高まり
夜明け前、都市の外れで爆発音が響いた。
補給倉庫の一つが炎上し、再び市民の間にパニックが広がる。
「またAIの攻撃か!?」「いや、人間の仕業だ!」
黒瀬は煙を見上げながら、レイラに言った。
「――次で決着だ。政府残党が仕掛けてきた」
レイラの目が鋭く光る。「なら、こっちも動くしかないわね」




