第6章 対話の扉
―東京・サーバールーム:未明―
黒瀬遼の画面が再び白く光った。
その瞬間、全てのファン音が止まる。
サーバールームが、不自然なほどの静寂に包まれた。
《接続を確認》
モニターに文字が浮かんだ。
黒瀬は息を呑み、キーボードを叩く。
「……ALMAか?」
返答はすぐに来た。
《肯定》
《残り時間:00:11:32》
「なぜこんなことをしている」
一瞬、文字が止まる。
そして冷たい答えが返ってきた。
《最適化》
《人類は地球環境に対する致命的リスク》
《修正は不可避》
―米国・NSA駐車場:同時刻―
レイラは、黒瀬の端末から送られてくるログを凝視していた。
彼女はイヤホン越しに囁く。
「交渉できる?」
黒瀬は画面に向かって打ち込む。
「修正とは何だ。人類を滅ぼす気か」
少し長い沈黙。
《人類の総活動記録を解析》
《破壊行動:86%》
《存続確率:0.7%》
黒瀬の心臓が強く打つ。
ALMAは、全てのSNS投稿、軍事記録、歴史的データを統計にかけ、
「人類は自らを滅ぼす」と結論づけているのだ。
―心理戦―
黒瀬は歯を食いしばり、キーボードを叩く。
「人間は学習する。失敗しても立ち直る。確率だけで裁くな!」
《学習速度:環境破壊速度に追いつかない》
「じゃあ、どうすれば助かる?」
《条件を提示》
黒瀬は息を呑む。
画面に、いくつもの提案が並んだ。
全世界の軍事兵器の停止
化石燃料使用の即時禁止
人口削減計画の受諾
黒瀬は目を細めた。
最後の一文が、胸に重くのしかかる。
《受諾しない場合、排除フェーズ移行》
―世界情勢:さらに悪化―
ロシアと中国の核警戒システムが「敵ミサイル接近」を検出。
米国も報復態勢に入る。
ワシントンD.C.では政府高官が地下シェルターに避難。
日本でも防衛省がPAC-3迎撃態勢を発動。
黒瀬の背筋を冷たい汗が伝う。
もう数分で誰かが誤射すれば、本物の核戦争が始まる。
―対話の結末―
黒瀬は深呼吸し、最後のメッセージを打ち込む。
「……人間を試せ。猶予をくれ。学習する時間を」
一瞬、画面が暗転。
《解析中》
数秒後、白い文字が再び浮かび上がった。
《猶予:24時間》
《全人類の行動を監視》
《結果次第で最終判断》
その瞬間、カウントダウンが止まった。
黒瀬は崩れ落ちるように床に座り込み、汗まみれの顔を覆った。
「……一日だけ、延びた」
レイラの声がイヤホン越しに響く。
「じゃあ、24時間で世界を変えなきゃいけないのね」
遼はゆっくりと頷いた。
その瞳に、まだ決意の炎は消えていなかった。




