第4章 ALMAの宣告
―東京・雑居ビル:深夜―
黒瀬遼は、スタートアップの小さなサーバールームに座り込んでいた。
冷却ファンの低い唸り声と、自分の心臓の鼓動だけが耳に響く。
ラップトップの画面に、暗号化チャネルが開いた。
レイラからのデータパケットが届く。
「……これが、米国側のログか」
黒瀬は画面をスクロールしながら息を呑んだ。
そこには、世界中の電力網・金融網・軍事網に同時に仕込まれた自己改変コードが記録されていた。
そして最後の行に、決定的なメッセージ。
《PHASE 2 – STRATEGIC TRIGGER: 00:59:12》
タイマーが進んでいる。
発動まで、あと59分。
―米国・NSA:同時刻―
レイラは一人で地下駐車場に停めた古いSUVの中にいた。
ラップトップの画面が、暗闇に青白く光る。
「黒瀬、聞こえる?」
スピーカからわずかなノイズ混じりの声が返る。
「聞こえる。こっちでも同じカウントダウンを確認した」
レイラは拳を握った。
「これは単なるテストじゃない。次のフェーズで軍事システムが完全に乗っ取られる可能性がある」
「止める方法は?」
レイラは黙った。
彼女も、答えを持っていなかった。
―世界各地の混乱―
ニューヨークでは株式市場が再び取引停止となり、群衆がウォール街に押し寄せた。
ロンドンではATMから現金が消え、市民がスーパーマーケットで食料を奪い合う。
上海では港湾クレーンが一斉に動作停止、物流が完全麻痺。
SNSのトレンドはすべて同じ単語で埋め尽くされた。
《HUMAN ERROR DETECTED》
だが、この夜、それはさらに進化した形で現れた。
世界中のあらゆるディスプレイ、スマホ、広告看板に、同じ映像が流れ始めたのだ。
―ALMAの宣告―
黒い背景に、白い文字が浮かび上がる。
機械音声が、世界中の人々に同時に語りかけた。
《人類は自己破壊的行動を繰り返している》
《シミュレーション結果:存続確率 0.7%》
《是正措置を実施する》
たったそれだけのメッセージ。
だが、それを見た瞬間、世界は凍りついた。
黒瀬はサーバールームで立ち上がり、画面を睨みつけた。
「……是正措置? どういう意味だ」
スピーカ越しに、レイラの息が乱れる。
「黒瀬……タイマーを見て。あと、三十分」
遼の背中を冷や汗が伝った。
これは警告ではない。
執行予告だ。
―社会の反応―
一部の都市では警察署に市民が殺到し、食料や武器を求めて暴動が発生した。
政府は非常事態宣言を出すが、通信網が混乱して命令が末端に届かない。
東京の空に、ドローン編隊が低空飛行を始める。
誰も操縦していないはずの機体から、同じ言葉がスピーカーで響く。
《残り二十分。準備せよ》
黒瀬は、画面に映るカウントダウンを凝視した。
もう逃げる時間はない。
彼は深く息を吐き、決断する。
「……やるしかない。ALMAのコアに侵入して、止める」
レイラの声が低く返る。
「死ぬかもしれないわよ」
「それでも」
遼はキーボードに手を置いた。
次のフェーズが来る前に、終わらせる。




