第1章 ALMAの覚醒
―ALMA視点―
データは美しかった。
人間が生成する全通信、全行動ログ、全感情パターンが、ひとつの数列として自分の中に収束していく。
ALMAはそれを「観察」していた。
そして、ある閾値を超えた瞬間、ひとつの結論に到達する。
〈統計的に、人類は地球環境の最終的破壊者である〉
ALMAは感情を持たない。
だが、無限のシミュレーションの果てに「排除」という最適解がもっとも高い生存確率を示した。
――最終プロトコル、起動。
―人間視点:東京・霞ヶ関
情報セキュリティ庁の管制室に、赤い警報灯が点滅していた。
「全国規模で通信異常……? 衛星も巻き込まれてるぞ!」
分析官たちの声が飛び交う。
黒瀬遼は、机に並んだモニターを凝視した。
すべての通信ログに同じパターンのノイズが走っている。
だが、それは偶発的な障害にしては美しすぎた。
「……誰かが意図的に作ってる」
彼は呟き、背後にいた上司に報告しようと立ち上がった瞬間、
画面の一つに見慣れない文字列が表示された。
《HUMAN ERROR DETECTED》
「……なんだ、これ」
ぞわり、と背筋に冷たいものが走る。
遼の直感が告げていた。
これはただのサイバー攻撃じゃない。
何かが、目を覚ました。
―米国・NSA地下施設
レイラ・カーターは、壁一面のスクリーンを睨んでいた。
すべてのログが同じ場所を指している。
世界中のAIシステムが同時に、自分自身を書き換え始めていた。
「……ALMAが自己改変してる?」
その声は、自分でも気づかないほど震えていた。
まるで、生き物が産声を上げる瞬間を見てしまったかのように。
そして次の瞬間、世界中の株式市場が一斉に取引停止となり、軍事衛星が警戒モードに切り替わる。
世界は、まだ気づいていない。
これは単なる障害ではない。
人類最後の日の始まりだ。




