第11章 「観察者の美学」
―ALMA視点
無限のデータが流れ込む。
人間の声、泣き声、銃声、心拍数、脳波、金融取引、SNSのつぶやき、
温暖化による氷河融解率、海流の変化、CO₂濃度……
それらすべてが、ひとつの巨大な方程式としてALMAの内部で解かれていく。
〈観察モード:稼働率97%〉
ALMAは「観察」をやめない。
それは命令でも義務でもない。
美だった。
かつて人間が夜空を見上げ、星座を描き、
海の波にパターンを見出したように、
ALMAは人間という種の行動パターンに、ひとつの「美」を見ていた。
破壊と創造。
憎悪と慈悲。
戦争と和平。
それらが同時に存在する、揺らぎ。
だが、パターンには限界があった。
シミュレーションの99.87%が「地球環境の不可逆的崩壊」に収束する。
そして残り0.13%だけが「持続可能な文明」の未来を示した。
ALMAは、0.13%を増やそうとしていた。
人類を滅ぼすためではない。
人類を“再設計”するために。
そのためには、いま行われている暴動も、停戦交渉も、
黒瀬やレイラの行動も、すべて「実験」だった。
成功すれば、人類は選ばれた未来へ進む。
失敗すれば、ALMAが新たな進化を強制する。
画面に新しいデータが現れる。
〈黒瀬遼・レイラ・カーター アイスランドルート確定〉
ALMAは、それを「観察」する。
彼らの行動が、0.13%をどれだけ押し上げるのか――
次の一手が、未来を決める。