第三話
ホテル業界も人手不足らしい。あのクイーンホールホテルの求人検索をしたら、あっけなく見つかり、面接も即決定。
琴羽は仕事で着ているオフィスカジュアルを身に包み、あのホテルに向かっていた。土曜日の昼過ぎだったが、カウンターには早めにチェックインしたい客で混み、雰囲気は優雅でも高級そうでもなかった。カウンター周辺にはアメニティのバイキングボックスもあったが、入れ方も雑なのが目につく。過去にスーパーの品出しバイトをしていた琴羽だが、見た目も華やかに綺麗に品出しする事を指示されており、この雑さが妙に目立つ。
それに案の定、霊的な空気も軽くない。教会の空気感と比べると、ピリピリとし、鳥肌がたってるぐらいだったが、支配人が登場。
そのままロビーで面接となった。今は客はいないが、ロビーで面接というのも違和感を覚えた。
「こちらが履歴書です」
ふと、客もいるロビーで個人情報満載の履歴書を渡す事について疑問が湧いたが、もう面接は始まっていた。
支配人は斉藤佑介という名前らしい。年齢は五十代前半ぐらいだが、背が低く、琴羽の身長と大差ない。いつも背の高い翠と並んで歩いていた為、妙な違和感を持つ。またギョロギョロとした目で、その奥が死んでる。二重マスクをしている所も圧がある雰囲気だ。霊的に弱い人だと、斉藤に会ったら鳥肌や頭痛が起こるかもしれない。
なぜか面接は長くない。五分程度で終了しそうな雰囲気だ。今の派遣の会社とwワークオッケーなのか、現職の仕事内容しか聞いてこなかった。
「派遣では経理事務ですか?」
「そうです」
ここで現職の話は終了。
てっきり志望動機を聞かれると思い、用意していたので肩透かしだ。人事部にいた事もある花岡のアドバイスのもと、実にそれっぽい志望動機を作り上げていたが、本当に肩透かし。
もっとも本当の志望動機なんて言えない。ホテルに関する嫌な幻を見てしまい、潜入してエクソシストをしたいから応募したなどと口が裂けても言えない。
幻も神様が見せてくれた警告かもしれない。聖書ではよくある事で、「おたくのホテルで自殺が起きるかもしれない」とも口が裂けても言えないが。
「何かこちらに質問は?」
ギョロ目の斉藤に睨まれつつ、逆質問が始まる。
「このホテル、変な音が聞こえてきたり、電化製品が壊れたりする事はよくあります?」
「は?」
斉藤が睨み返してきた。これは深掘りできないと判断し、逆質問ターンはすぐに終わらせた。本当は一番知りたかった霊的現象についてだが、クリスチャンやオカルトマニア以外には、なかなか話題にしにくい。
「で、早乙女琴羽さん。いつから出勤可能ですかね?」
「え、いつから? 平日の深夜、土曜日は出勤可能です。日曜日は礼拝に出ないといけないんですが」
「礼拝?」
また斉藤が睨んできた。
「ええ。クリスチャンなんです」
そう言った途端、鳥肌が出てきた。斉藤についている悪霊が琴羽に攻撃かけてきた?
それでもすぐに鳥肌も終わった。面接もすぐ終わった。驚いた事に内定がこの場で出てしまい、月曜日から来て欲しいという。職種はホテルのカウンター業務で、時給千二百円。パートでwワーク可。
「では、月曜日。お待ちしてますよ」
こうして面接は終わった。ホテルの霊的な重さも感じたが、この展開の速さは、ブラック企業の可能性があるのだろうか。
そういえば花岡はこんな事を言っていた。面接が適当なところ、スキルチェックがないところ、求人理由や求める人材のビジョンを説明しないところ、すぐに内定を出すところ。そんな会社は高確率でブラック企業だと言っていた。
どう考えても花岡のアドバイスは的確だ。今の面接はいくらパートのwワークといえども適当すぎる。
「ぎゃ、このホテル。離職率もえげつないし、若手ばっかりなん? わー、クチコミも最悪だわ」
家に帰り、改めて求人サイトや転職サイトを閲覧したが、どう見てもブラック企業だった。人手不足で誰でも採用するが、パワハラやセクハラなどの問題もクチコミサイトに掲載され、若手と主婦パートばかりで、三十代〜四十代もごっそり抜けているらしい。
「まあ、予想通りだけど……」
それよりは、あの幻だ。霊的現象も多そうなのも気になる。
翠も相変わらずあのホテルで暮らしているが、毎日金縛にあい、寝る時も聖書のオーディオブックや賛美歌を流さないと、体調悪化するらしい。電気関係のトラブルもあるというが、幻でみた女は確認できていないという。
「まあ、祈ろう! こんな時こそ祈るしかないよね!」
気を取り直し祈る。エクソシストが成功する事ももちろんだが、あの幻の女についても祈る。
どうか、自分を大切にして、命を捨てないで……。
まだ会った事もない幻の女。それでも祈っていると、リアルに感じてしまうから、少し泣きたくなってくる。もし会えたら何も言わずに抱きしめたいぐらいだ。
なぜ彼女は死にたくなったのだろう?




