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とある牧師の娘と御曹司のオカルト事件簿〜牧師の娘、御曹司とエクソシストはじめました〜  作者: 地野千塩
第二部 呪い人形のエクソシスト事件

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第五話

 佐伯の結婚式から数日後、あっという間にクリスマスイブとなった。


 ホワイトクリスマスとはならず、今年は暖冬でポカポカと暖かい。その上、今年は日曜日がクリスマスイブとなり、いつもの礼拝にプラスして、クリスマスの紙芝居や長めの讃美歌演奏などを行う予定だった。夕方からは例年通りにキャンドルサービスなどを含めたイブ礼拝もある。


 ちなみにメディアは佐伯の結婚式を大きく報道し、ネット上では話題になっているらしい。すず花や美穂からの連絡などは一切なく、翠は不満そうではあったが。


 今日はクリスマスイブだ。琴羽は佐伯達の事は一切忘れ、クリスマス礼拝に集中。


 礼拝堂では父のナレーターとともに、イエス・キリストが生まれた瞬間の紙芝居が行われ、前方にいる子供には意外と受けていた。今の子供は紙芝居など滅多に接する機会はなく、かえって新鮮らしい。父のヘタウマなナレーターも妙な味わいもある。


 その次は説教だ。こちらは神学的な内容も含むので、子供達だけでなく、教会員の老人達も退屈そうではあった。今日の説教テーマは「神様の愛」。イエス・キリストの生涯をたどりながら、神様の愛とは何か語られていた。


「え?」


 琴羽はそんな説教を聞きながら、隣にいる翠を見ると、彼はボロボロと泣いていて驚く。


「ちょっと、何泣いてるの?」


 琴羽は小声で話しかけ、ポケットティッシュを渡す。


「いやぁ。神様の愛に感動した。人間の愛なんて条件つきじゃん。それなのに神様は……」

「いやいや」


 琴羽が呆れるぐらい翠は号泣。礼拝が終わってもそんな感じだった。もう礼拝堂には父も他の教会員も一階へ行き、クリスマスパーティーの準備も初めていたが。


「俺はこんなイケメンで金持ちの御曹司じゃん?」

「自分でイケメンっていう?」


 琴羽は呆れながらも、翠にボックスティッシュを渡す。


「正直、俺の顔とお金目当てで近づいてくる女にはショックというか、ウンザリしていたけれど」


 ここで翠は大きくきな音をたてて鼻を啜ってうた。


「そう」


 顔を赤くし、こんな事を正直に語る翠は、いつもより子供っぽい。自分の事をイケメンなどと言う翠には呆れてくるが、その気持ちだけは理解できる。


「うん。だから無償の愛なんて無いのかって思ったけど、あった! ここにあった。神様の愛だよ!」


 今度は笑う翠。笑ったり泣いたり忙しい男だが、琴羽は苦笑。今日はクリスマスだ。翠の子供っぽさも今日は流せそうだ。


「特に『友の為に自分の命を捨てる事。これ以上の愛はない』という御言葉は刺さる」


 翠は聖書をめくり、そのヨハネの福音書15章13節を指差す。


「自分の命まで捨てて救ってくれる存在なんています!? あぁ、俺は感動した!」

「いやいや、翠、あなた熱いね。平成時代の総理大臣みたいよ?」


 鼻の穴を膨らませ、さらに感動している様子の翠。さすがにこの熱苦しさに琴羽も胸焼けしてきたところ。


「俺もイエス様みたいになりたい。友達の為に命懸けに行くぞー!」

「う、翠、あなた、本当に熱いわ」

「よし! 琴羽さんの為にも命懸けるから!」

「そんな機会は、多分ないよ!」

「俺は頑張る!」


 冷静にツッコミ入れるのも疲れてきた。この翠の調子に押され、二人で讃美歌を歌い、祈りも捧げていた時だった。


 チャイムが鳴った。忙しそうな父はでないので、琴羽が代わりに門の方へ向かう。


「どちら様ですかー?」


 門の前には、親子連れがいた。アラフォーぐらいの女性と幼稚園ぐらいの子ども。


「もしかしてすず花さんと、美穂ちゃん?」


 忘れていたが、顔を見てすぐに思い出した。佐伯の姉すず花と、その娘の美穂だ。


「こんにちは。この教会で合ってます?」


 すず花は以前渡したチラシを持っていた。美穂は教会の玄関に飾られたクリスマスツリーに興味がある様子だが、なぜかすず花はそれを冷たく一瞥。


「少し聞きたい事が。あなた、琴羽さんはエクソシストしているっていう噂も聴きましたし」


 ここですず花は咳払い。


「弟、雄太のことです。本当に参っています。悪霊祓いできますかね?」


 またすず花は泣きそうな目を見せた。


「もちろんです」


 ここで断れる人はいないだろう。もちろん、うイエス・キリストのようの命を捨ててまで人を救うような無償の愛は、琴羽の中にはない。現状はそうなりたい、近づきたいと祈るだけで精一杯だったりする。人間には罪もあるから、完全に神様のようになれない事は、琴羽もよく知っていた。


 それでも、今は困っているすず花を放置はできない。


「立ち話はなんなんです、二階の礼拝堂の方まで行きましょう。詳しく話してください」


 琴羽は笑顔で頷いていた。

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