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『コミケ?』
『なんだ、お前は行かなかったのか?』
玄心と一緒に警察に出向するようになってから一ヶ月程たった頃。
その日の二人は休みで、玄心は朝から出かけていた。
武人は事務所に顔を出して、康人に玄心はどこに行ったのか聞いたところ、そのような答えがかえってきた。
『いや、俺はコミケとか興味ないし。』
『中々面白いらしいぞ。例のオタク三人組と大場達も行ってるらしい。』
『あいつらホントに仲良くしてんだな。』
かつて忍者教室に乗り込んできた時の大場を思い出して、武人は苦笑いした。
その頃、コミケ会場では……
『こ、これが噂のコミケでござるか。』
目の前に広がる大きな会場と人混みを目にした玄心はあっけにとられていた
『私も、以前から興味はあったのだが、さすがに年齢的に遠慮していた所、こんなに同世代の人がいるとは……』
そういった兵藤は、『もっと早く来れば良かった。』と、悔しがった。
『みんな、好きなものは、素直に好きって言えばいいんですよ。』
田之浦がそう言うと、大場が、
『お前は好きって言い過ぎて、茜ちゃんに引かれてるけどな。』
と、からかった。
『僕は茜ちゃんのファンですから、好きって言うのは当たり前じゃないですか。別に彼女に出来るとかは思ってないですし、彼女にふさわしいのは勘介君だって分かってますから。』
そう言った田之浦の肩を、オタク三人組の残りの二人、田中と佐々木は両側からポンポンと叩いた。
その二人の同情するような視線に気付いた田之浦は、肩に置かれた手を払いのけながら、『なんだその目は』と言った。
すると、一緒に来ていた女子部員の一人が、
『あんたなんか、茜さんが相手にするわけないじゃないの。』
と、言って田之浦を罵った。
『何だと~?』
田之浦が怒って振り向くと、その女子部員は下を向いて恥ずかしそうにしながら、
『ぜ、贅沢言わないで、あ、あたしに、しときなさいよ……』
と言った後に、上目遣いで田之浦を見た。
その瞬間、田之浦は、雷に打たれたように全身に電気が走った。
生まれて初めて両想いになった瞬間だった。
彼女は、山田恭子。
田之浦が大場と対戦したとき、両手をグルグル回して突進した田之浦を見て、『恥ずかしい!』と罵った子である。
その後、大場に勝利した田之浦が右手を突き上げた時、キラキラした瞳で大場を見ていたのも彼女だ。
いわゆるツンデレの彼女は、田之浦にとって理想の女性だった。
無言で見つめ合う二人に、大場は『熱いなー!』と言ってからかった。
パッと視線を外した二人を見ながら、オタク三人組の一人佐々木は、
『先ほど田之浦殿が言っていたのは誠でござるか?』
と言った。
それを聞いた田之浦は、さっき自分が『好きなものは好きと言えばいい』と言った事を思い出した。
そして、恭子の方を向くと、多少照れながらも、
『さっきまで気が付かなかったけど、……僕は君が好きみたいだ……』
と言った。
『何よ、みたいって。ハッキリしなさいよ。』
『好きです!』
勢いでそう宣言したあと、
『……理想過ぎて気付かなかった。』
田之浦がそう言うと、恭子は『バカ……』と言って、顔を赤くした。
周りで湧き起こった拍手にハッとして見渡すと、田之浦達を囲うように人垣が出来ていた。
『おめでとう!』と声をかけてくる人までいて、田之浦と恭子は顔を真っ赤にして照れていた。
『いいなー、恭子。私も田之浦君いいなと思ってたのに。』
田之浦達と仲良くしている女子部員の内の一人、山下和子ががそんなことを言い出した。
『そうだったの?和子は背が高い人が好きなはずなのに。』
そう言ったのは中野ゆかり。
するど、
『拙者、背だけは高いのでお眼鏡に叶うかもしれませんな。』
と、オタク三人組の一人である佐々木が冗談ぽく話に割り込んできた。
佐々木はあくまで冗談のつもりだったが、和子は一瞬黙ると顔を赤らめながら、
『か、考えてあげてもいいわよ。』
と言った。
その和子の表情を見た佐々木は、急に心臓がドキドキしだしたのを感じながら、
『ま、マジ?』
と、いつものござる言葉を忘れて聞き返した。
そんなやり取りを見ていた大場は、
『なんだよ。いつの間にみんなそんな感じになってたんだよ。じゃあ、残りの二人もくっついちゃうか?』
と、オタク三人組の残りの一人田中と、女子部員のゆかりに笑いながら言った。
『まー、そんなピッタリ行くわけないか。』
そう言ったあと、当の田中とゆかりが顔を合わせて何やらアイコンタクトを取っているのを見た大場は『え?……』と二人の顔を交互に見た。
『実は……』
と、話し始める田中。
……『えーっ!!』
田中の話によると、田中とゆかりは元々高校時代からのオタク仲間だったが、お互いに忍者教室に入ってから、痩せて魅力的になった事で異性として意識しだし、先月から付き合い始めていたというのだ。
『なんだ。言ってくれりゃいいのに……』
と、みんなに突っ込まれていた。
改めて二人を見ると、同じく『キラリ天使』のTシャツを着ていた。
『そーいうことかよ。』
と言った大場も『キラリ天使』のTシャツを着ていたが、このコミケ会場で同じTシャツを着ている人はかなり多かった。
当然のように、玄心と兵藤も、デザインは違うが、『キラリ天使』のTシャツを着ていた。
彼らは『キラリスト』と呼ばれ、『キラリズム』を理解する仲間同士の連帯感は強かった。
『じゃあ、キラリんに会いに行きましょう。』
そう言った兵藤が先頭にたって、キラリ天使のブースに向かって歩きだした。
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