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76 ポレイニア王国

 少し北上した後は国境線に沿うように馬車の集団は進んで行く。2週間、というのは移動時間は含まない。各国に滞在が1週間ずつの予定で、そのように話も通してある。


 フェイトナム帝国からの盾となるべきバラトニア王国との友好的な国交は北の国々も望むところだったようで、その上、バラトニア王国はフェイトナム帝国に勝った、という実績がある。


 それがいかに機を読み、奇をてらい、奇襲をかけたのだとしても、勝ったものは勝ったのである。そのうえ、勝ったからといって無茶を言った訳ではない。独立したこと、そして、国民の数に見合っただけの医療の体制を整える要望が主たるものだ。


 そういった点から、バラトニア王国はフェイトナム帝国からの盾として北の国々からは概ね良く見られている。


 そこに新婚旅行でお邪魔したい、とバラトニア王国から言われたのだから、ポレイニア王国もウェグレイン王国も諸手をあげて歓迎した。


 という話をしながら、長閑な田園風景を後目に、私たちはポレイニア王国へ向かい、今国境を潜って王都に向っていた。


 ポレイニア王国に入ってからは、空気が違う感じがした。北にある国だから寒いかと思ったが、そんなことはない。今、バラトニア王国は少し暑いくらいの気候だが、少し涼しい、という位だ。


 変わったのは景色である。田園風景だったバラトニア王国に比べて、ポレイニア王国は広葉樹がふんだんに植えられた道になっている。海とは面さない内陸にある国だからか、広葉樹の隙間からは草原と集落が隙間隙間に見えていた。


 草原には大きな牛が何頭も放されていて、酪農の盛んな国なのかと肌で感じる。針葉樹の方が生育も早く加工も安易で、なんなら寒い地方では針葉樹の方が自生しやすいのに、と思っていたが、最初に泊まる主要な街についてみて分かった。


 高級な宿屋に部屋を取っていたが、家具の質感がまるで違う。バラトニア王国はまっすぐに育ちやすい針葉樹を使った建材や家具が多くみられ、他にも木炭や薪にする事が多いが、飴色に磨いてニスを塗ってあっても、少し軽い手触りだ。塗料を塗ってあってもそれは同じで、高いテーブルなどは広葉樹が使われていたりする。


 ポレイニア王国では、広葉樹が市民の間にも浸透している。部屋の中の家具全てが広葉樹の樹木を使った物であり、手触りは硬いがしっかりとした造りで、なんとも言えない豪奢さがある。


「すごいですね、ところ変われば品変わるとも言いますが、こんなに高い木材ばかりでできた部屋というのも」


「それを支えるための建築技術もだね。バラトニア王国とは建築技術の差がある。こちらの国の技術にも興味が……、ふふ」


 急に言葉を止めて自分で笑ったアグリア様に、私が家具を撫でていた手を止めて振り返ると、可笑しそうに口許に手を当てて肩を揺らしている。


「どうしよう、クレア。私に、君の好奇心がすっかり移ってしまったようだ。楽しいけれど、これは忙しいね」


「まぁ、アグリア様。好奇心は大事ですよ」


「うん、それは分かるんだけど……前なら、こんなに気にして観察なんてしなかったろうにな、と思うと楽しくて」


「わ、笑いすぎです! もう! でも、本当に素晴らしいですね。建築技術……あぁ、あの梁なんてきっと天然の樹齢のいった広葉樹ですよ。真っ直ぐではなく太くてうねりながらも、しっかり天井を支えています」


 言った傍から私が部屋中を見渡して指差したところを、アグリア様も隣に並んで見上げて観察する。


 こうして一緒に新しい発見をし、他国の技術に関心を持つ。


 今迄は自分一人で完結していた好奇心を語り合える相手がいるということに、私はひそかに幸福を感じていた。

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