57 新婚旅行計画、始動、の前の話し合い
「……と、言う訳で、世界地図を持っていたガーシュに相談してみて、こういうお土産が喜ばれるんじゃないかなと……あと、護衛は影のネイジアが一部になってくれるという事でした」
「なるほどねぇ……。護衛の件は分かった。あくまで怪しまれない程度の数は連れていくけれど、大分予算は削れると思う。宝飾品の買い付けも、時間が掛からなくていい案だね。自国の宝飾品もいいだろうけれど、シナプスの虎の子の芸術品ともなればどの国でも喜ばれるだろうし」
いつもの夜のお茶の時間、昼の内にまとめた計画の書類を見せるとアグリア様も納得して頷いてくれた。
「よかった。……アグリア様も隣国には詳しいとは思ったんですが、今は旅行に行く前の日常業務もお忙しいでしょう? 私は好きに総務部に顔を出して仕事をしているだけですし……、アグリア様との旅行、あの、とても楽しみなので……」
「うん、嬉しいよクレア。でも、倉庫に顔を出すのはどうかと思うな?」
にっこり笑って釘を刺されてしまった。やっぱり、報告があがってしまっていたか、と私はがっかりと肩を落とす。
「はしゃぎすぎました……」
「君が好奇心旺盛なのは分かっていた積りだけど……、私の執務室には押しかけてこないのに、ガーシュの所には押しかけるのはちょっと妬けてしまうなぁ」
「妬く……?」
そういえば、アグリア様にはガーシュが血の上での兄だという話はしていなかった。私もその意識があったからついうっかり気軽になってしまっていたが、これは話すとややこしい事になる。
まず、ガーシュはネイジア国の民として生きてきて、誇りを持って仕事に当たっている。
私という王太子妃の兄である、と私の口から告げて分かった場合、バラトニア王国はそれを認可し、公表するしないに関わらず、それなりの立場というものをガーシュに与えなければいけない。立場上、どうしても、だ。
ガーシュはそれを望まない。それに、影のネイジアの部族長である。目立ってしまっては元も子も無い。
隠れ蓑としてネイジア国ではなくバラトニアの貴族として……王家に連なる血となれば公爵になるだろうか……生きる事になった場合、ガーシュの元に影のネイジアが集う事になる。
ただでさえ独立したばかりで、他国との距離感に敏感な時期でもあるし、つい先日極冬に攻め込まれるかもという緊張があったばかりだ。バラトニア王国としても、国民や貴族からの不信感が募る。
「あの、アグリア様」
「うん、なんだい?」
私は両手でアグリア様の手を握ると、真剣な顔を向けて、夕陽色の瞳をまっすぐ見詰めて、精いっぱい真摯な声で訴えた。
「私は一生、アグリア様以外の殿方に……社交活動があるのでダンスなどはしますけれど……唇一つ許すつもりはございませんので」
「…………はぁー……天然って怖い」
「天然? 何ですか?」
空いている片手で額を押えてがっくりと肩を落としたアグリア様は、苦笑してその言葉をごまかすと、私の頬にそっと触れた。
あぁ、この掌の熱は、私の思考も溶かしていく熱だ。
ゆっくりと目を伏せた私は、そのまま掌に頬包まれ、近付いてくる唇をただ甘受した。




