55 うっかりした
昨夜の話を元に、今日は旅行に行くとしたら隣国2つ、と言われていたので、バラトニア王国から北側に向って隣接している3つの国について調べてみることにした。
あまり長く間を空けてもいられない。新婚旅行、だから許される部分があるので、遅くともあと2週間以内に出発したい。
とはいえ、責正爵と、結婚契約書だけでも結構な予算を使っている。今後、試験や学び舎を作ることになれば、もっとお金がかかる。その分、浸透した後の実入りは大きいし、人頭名簿の管理もずっと楽になる。長い目で見れば得なのだから、賠償金などで潤っている今お金をつぎ込むのは間違っていない。
だからこそ、私用……とはいえ王太子と王太子妃の新婚旅行だけれど……で、予算を使いすぎるのは考え物だ。
この国で余っていて、訪問する国で珍重される物を手土産にできないかを考える。護衛は削れないし、恥ずかしい格好もできない。削れるとしたら、訪問する時のお土産だが、喜ばれない物を持っていくのは国家間の亀裂に繋がる。
「と、いうわけで、ネイジアの知恵を貸して欲しいの」
「クレア様……確かに俺は仕事が終わったらサボるけど、今は仕事中。後でいつもの所に行くから、少し待っててくれ」
ネイジアの国民は王宮の倉庫などで下働きをしている。女性は洗濯や洗い物、男性は力仕事が多いようだ。
なので、倉庫に顔を出したら大多数の下男たちにぎょっとされたが、ガーシュと知り合いな様子にガーシュ自身が苦笑いしていた。
私はうっかり顔を出して騒がせてしまったことを詫びると、この後のガーシュの質問攻めとその回答に費やされる時間を想って、目でごめんなさい、と謝って倉庫を後にした。
王宮の中だからと私は少し気楽に動きすぎかもしれない。なんだかんだ文官たちの仕事場にはいつも顔を出して一緒に仕事をしているし、調べものなんかもさせてもらっている。が、さすがに倉庫に現れる王族というのは私くらいだろう。
案の定、部屋に戻ったらグェンナとメリッサに大層怒られた。ネイジアとの実情を知っている人が少ないという事も、もっと頭に入れておかないといけない。私の好奇心は、こういう時に正しい振る舞いというのを忘れてしまうようだ。
「ごめんなさい、もう行かないわ。今日はちゃんと部屋でおとなしくしている事にするから、お願い、アグリア様には黙っていて……?」
手を組んで、眉を下げて、瞳を潤ませて嘆願すると、グェンナとメリッサが呆れた顔をした。
この国に到着してからずっと私のお世話をしてくれている二人である。当然、これが演技なこともバレバレであり、かつ、私が変な小技を覚えた事にがっかりと肩を落とした。
「そんな真似しなくても黙っておきます。でも、本当にもう行っちゃいけませんからね?」
「それから、私たちじゃなく下男から上に噂が登る分にはカバーできませんので」
「そんなぁ!」
これでは、アグリア様にも怒られるのは必至である。むしろ、呆れられてしまうだろうか。
ガーシュと私の本当の関係……兄妹、ということ……は、隠しごとではないけれど、なんとなく秘密にしておきたい気もする。それはガーシュが根っからのネイジア国民であり、影のネイジアの族長だからかもしれない。彼の誇りを傷つけるような気がするので、私は諦めて怒られる方を選んだ。
もちろん、浮気は疑われていない。アグリア様はそこの所は寛容なのだけれど、やはり時々「目移りしていない?」とか「浮気はダメだよ」とか言うのが不思議だ。
私と言えばこの通りの淑女教育の敗北である。そんな物好きはそう居ないし、今の所、この国で恋愛としてのアピールを受けたのはアグリア様からだけだ。
ジュリアス殿下からの敬愛、バルク卿は面白がっているだけだし、他に深い関わりがあるといえばガーシュだが、向こうは自分が血縁だと知っている。
私は手土産の情報を手に入れるまで、ひとまず反省して、この国の売りで余っているもの、をリストアップしてみることにした。




