其の三十八 着物
「やはり引き返した原因は大殿様のご病気であったか」
「うむ。再発したようじゃな」
「はあ・・この調子ではまた当分の間は戦に出れぬなあ・・」
「実はな、それに関連したある噂がささやかれておってな」
「噂?」
「どうやら大殿様は家督を譲るおつもりらしい」
「家督を?それほどに悪いのか?」
「それはわからぬ。ただ、内部ではそのような噂が立っておるようでな」
「ふうむ・・何やらこれから大きく事態が動きそうじゃなあ」
「わしらの立場ではどうする事もできんがな」
「確かに」
「それよりもお主、娘の方は元気にしておるか?」
「うむ。よく泣くしよく寝る。それにそろそろ立って歩く事もできよう」
「それは良い事じゃ」
「お主の方はどうなのじゃ?」
「まだじゃな。まあ、こればかりはどうにもならんよ」
「そうか・・いや、実は一つ困った事があってな」
「何じゃ?」
「嫁が是非ともお主の子に着物を着せたいと申してな」
「は?」
「着付けをやっておると無性に他人を着飾りたくなってしまうそうでな。特に男子の着付けをやりたいらしく、お前にその旨伝えよと・・」
「何故わしの子なのじゃ?着付けに行っておるご婦人の子でもよいではないか」
「わしの知り合いじゃから頼みやすい、と・・」
「・・断る。まだ子もおらぬうちからそのような約束はできぬ」
「た、頼むううう!わしの食事代がまた減らされてしまううう!」
「ええい、離せ!断ると言うておろうがああああ!」




