其の三十五 産まれる
「産まれた!産まれたぞおおお!」
「おお!良かったのお!」
「いやあ、良かった。昨日は興奮して夜も寝れなんだわ」
「男子であったか?」
「いや、女子であった。目元も口元も全てが可愛かったわい」
「男子でなかったのはやはり残念じゃったか?」
「わしは本家筋とはいえ三男坊に過ぎんからの。家は兄上が継いでおるゆえ跡目を気にせんでもよい。確かに女子と聞いてそのような考えが頭を過ったが、我が子の顔を見たらそれも霧散してしまったわ」
「そうか。ならば良い」
「戦に出る前に我が子の顔を見る事ができたのも良かった。これで何の憂いもなく戦に臨める」
「ああ、その事なのじゃが・・」
「何じゃ?」
「どうやら我らの出番は相当後になりそうでな」
「どういう事じゃ?」
「此度の戦、どうやら長期戦を想定した二段構えで行くことになったらしい」
「二段構え?」
「つまり、ある程度奥まで侵略して後、先方隊を休ませ後方隊を招集する。その後方隊がわしらになるという事じゃ」
「その奥までとは具体的にどこまでの事を指しておるのじゃ?」
「わからぬ」
「ううむ・・それは困るのお。そうなれば大殿様の軍勢に恐れを成した敵が次々と降伏して、手柄を挙げる機会が無くなってしまうぞ」
「前にも言うたが無くなるという事はまず無い。じゃがその機会は間違いなく減少しておるじゃろうな」
「ならば先方隊に潜り込んで・・」
「その間のこちらでのお役目はどうなる?上役の目は騙せんぞ」
「ううむ・・そうじゃ、お主がわしの分のお役目をこなせば良いではないか!」
「断る」
「取り合えず着ている物も似せねばならんな。後で持ってくるぞ」
「断ると言うておろうがああああ!」




