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幼馴染と怪我

HRで体育祭の出るもの決まったはいいものの、3時限目が始まる前のことだった。


「お前……馬鹿だろ……」


「…………」


結愛が足を滑らせて転んでしまった。その一部始終見ていた俺。どこをどうしたらタイミングよくそんなことが起こるんだよ。


「ば、馬鹿って酷い!」


抗議してくるけど、馬鹿だろ。滑って転んで足捻るって。全く本当に料理以外は世話がやける……。そう思って俺はしゃがんで背中を向ける。


「ほら、乗れよ」


「え?」


「保健室行くぞ」


足を捻ったんじゃ階段を降りるのも苦労するだろうし、時間がかかる。そんなことしていたら俺が体育に遅れる。けど、怪我してる奴を放っておけるほど非情な人間なつもりもない。それに相手が結愛だしな。


「い、いいよ!大したことないし歩け」


「……ないんだな」


立ち上がろうとしてそこまで喋ると再びしゃがみ込む。全く無理しやがって……。


「無茶するなって、ほれ、早く乗れ」


「だ、だって……迷惑……かけたくないし」


迷惑かけたくないって……今さらな話だな……。小さい頃からどんだけ迷惑かけてきたと思ってんだよ……。俺といて、困ってる時くらい素直にすりゃいいのに。


「だからってここにずっといるわけにもいかないだろ、授業始まったら誰も通らないんだし」


そこまで言うと結愛は観念したように、俺の背中に乗った。俺は結愛をおぶる。……こいつ、平均よりは軽めなんだよな。普通に軽い。


「お、重くない?」


「別に」


重いも軽いも一応言わないでおく。重い……と嘘をつくわけにもいかないし、軽い……と堂々というのも恥ずかしい。本当我ながら情けないというかダサいというか……。別に重くない、くらい言えればいいのに。


「ねぇ……」


結愛が静かに俺に話しかけて来た。おぶっているから声がいつもより近い。その様子に少しドキドキしつつも俺はできる限り冷静に返した。


「なに?」


「もしも、私が面倒かかんなかったらさ……好きな人とか作ってた?」


なんでそんな話になるんだよ。そもそも俺が好きなのは結愛だっつの。結愛としてはそれに微塵も気づいてないけど、なんで面倒かかんなかったら好きな人作るって発想になるんだよ。


「……なんでそんなこと言うわけ?」


「だって今は私の世話見なきゃいけないからそんな暇ない、みたいなこと言ってたし」


そんなんただの言い訳でしかない。つか俺が言いたかった言葉は……そんなんじゃないし……。


「もしかしてさ、私のこと……」


そう言われてさすがにドキッとする……。もしかしてバレたとかないよな?


「手がかかる子供みたいに思ってる?」


……そうだよなこいつはこいう奴だった。人が人に向ける好意には鋭いくせに、人から自分に向けられる好意には非常に鈍感。びっくりするくらいに。そいつがこんな気にかける程度で、自分のこと好きなんて発想出てくるわけがないよな。緊張した俺が馬鹿だった。

だけどこいつはなんでこうも毎回違った答えを導き出すんだよ。


「別に……そんなこと思ってない」


結愛は本当に俺のことを分かってない……。俺の気も知らないでそんな変な回答導き出して……。


「あれは……お前が側にいるからそんなん考えたことないし……そういうことで……」


そういう意味だってことをただ伝えたかった……だけだったけど……。俺はついこの言葉を口にした。もしかしたら1ミリでもいいから、意識してほしかったのかもしれない。


「それにお前だって、恋愛とか考えたことなくても……お前の見てる奴は、存在すると思うし……わ、割と……近くの奴……とか」


最後の方はかなり小さな声になってしまったが、この距離なら聴こえたはず。結愛の息がのむような声が聴こえる。ドキドキと心臓の音がうるさいし、顔が熱くなる。


「あははっ、なにそれ励ましてくれてる?」


……まっっったく……1ミリも伝わってねぇ……!!

こっちがどんだけ恥ずかしいと思ってんだよこいつは!!ここまでこいつが鈍感だったとは!!俺からしてみれば告白にも近い言葉だったってのに!!こいつ面と向かって「恋愛対象として結愛が好きだ」って言わないと、気づかないくらい鈍感なわけ!?俺こいつに告白する勇気いつか持てる気がしないんだけど……。ここまで鈍感だとなると。


「うるさいバカタレ!耳元で大声出すな!」 


「いきなり怒鳴らないでよ!」


誰のせいだと思ってやがる!!こんだけ鈍感だとイライラしてくるっつの!さすがに!!これ以上余計な言葉が出ないように俺は保健室に足を速めて、保健室に結愛を送り届けた後に、体育館に向かう。


「蓮、遅かったな」


凛斗が話しかけて来て、宮と久遠もこっちを向く。だけど恥ずかしさやら、落胆やらで今は笑顔を作る気力もない。


「あぁ……」


「蓮、何かあった?」


久遠が俺を心配するように声をかけてくる。そりゃそうだよな、体育行く前にトイレ行ってくるって言った奴が、かなり時間をかけて帰ってきたと思ったら、沈んだ声で話すもんだから。


「……本当に大丈夫か?顔……真っ赤だぞ?」


「えっ……」


宮に言われて気がついた。俺は思ったより恥ずかしかったんだと……。


「ふーん」


「なるほど……」


「蓮、昼休み詳しく話を聞くから逃げるなよ?」


宮、久遠、凛斗の順番で話されて俺は何かが終わった気がした。俺は逃げ道を塞がれた気……というか逃げ道を塞がれた。最悪だ。別に話したくないとかではなく……いや、話したくないな。今出せるだけの勇気を出したってのに、関係進みも後戻りもしなかったんだから……。

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