第40話、蟹甲船
「ピピッ、ピピッ」
”水無月”のパッシブレーダーの反応があった。
時間は早朝である。
メグミは、翼の上に張ったテントから出て、周りを見回した。
辺り一面、白い朝霧の覆われ、視界は良くない。
「ルルル~ル~、ルルルル~♪」
無線から低い男性の声のハミングが聞こえてくる。
「海軍唱歌だ」
朝霧の中からヌッと言う感じに、双胴艦が現れた。
白地に黒で、”平家蟹の甲羅と、その下にクロスにした蟹の腕を模した旗”が、掲げられている。
「蟹漁獲用しょう甲双胴空母、ブラックオパール号だ!!」
噛んだ!!
◆
”蟹漁獲用装甲双胴空母、ブラックオパール号”
日本海軍に所属する、蟹を取るために作られた、特殊海兵部隊”パイレーツ”の母船である。
船体を左右に二つ並べた双胴型。
その間に飛行甲板と、”人型装甲潜水球”の格納庫がある。
この世界の蟹は強い。
軽自動車並みの大きさに、戦車砲弾も跳ね返す硬い甲羅。
あらゆるものを正に”ちょん切る”はさみ。
さらに人間が、蟹の獲物として、丁度よい大きさというのもいただけない。
何故危険を冒してまで、蟹を取るかと言うと、
まず、身が美味しい。
さらに、蟹の甲羅やキチン質は加工すると土や金属の代替品になるのだ。
その為に、命知らずのあらくれ者たちが集められ、特殊部隊が作られた。
因みに”パイレーツ”は隊員たちが自ら名付けた。(ブラックオパールも)
有名だが非公式のものである。
◆
「ルルル~ル~、ルルルル~♪」
バックで歌い続けている。
「そこの”水無月”。いま海底に”タイラントガザミ”の群れが来てる」
「真っ二つのされたくなかったら、ブラックオパールの乗りな」
若い女性の声が乗艦を促した。
”タイラントガザミ”は泳ぎが得意で水面まで上がってくる。
メグミが美味しくいただかれてしまう可能性は高い。
「是非、乗させてください。 お願いしますっ」
大慌てで、”水無月”を双胴空母の飛行甲板に着艦させた。
島型艦橋の中にある、ブリッジ中央に絨毯を引いて、大きめのソファーが置かれていた。
ソファーには、片目に眼帯をした20代半ばの女性が、しなだれるように座っている。
改造されて元の形が分からない海軍の軍服を着ていた。
背後には、例の旗が貼られている。
「カイラギ中佐、連れてきました」
「キャプテンと呼びなっ」
「アイアイ、キャプテン」
乗組員も、思い思いに軍服を改造している。
「乗せていただきありがとうございます」
「気象部所属、メグミ・タチバナ中尉であります」
少し緊張した面持ちで敬礼をする。
「コトコ・カイラギだ、しばらく立て込む」
「ま、ゆっくりしていってくれ」
立ち上がって海賊帽を直す。
「はい、ありがとうございます」
メグミは、後ろに下がった。
「野郎ども、狩りの時間だっ!!」
「しっかり稼ぎなっ!!」
”タイラントガザミ”の狩りが始まる。




