第38話、恋人
「いい所があるんだ」
風呂上がりのメグミにナンバが声をかけた。
いま、”呑竜”は海上に浮上して待機中である。
「うん……」
誤解は解けたとはいえ、まだ元気が出ないメグミである。
ナンバは、艦底の横にある”展望室”にメグミを誘った。
「ここだよ」
壁のスイッチを押すと、外部装甲が下に下がり、ガラス越しに海が見えるようになっている。
海面が少し上に見えた。
ビッグウミホタルが、淡い光を出している。
二人は、前にあるベンチに横に並んで座った。
「……ナンバ君……」
「?」
「……私のこと好き?……」
「好きだよ」
ナンバは即答した。
”論文”で最初に惹かれ、直接会って一目ぼれした。
こんな可愛い女性が彼女だなんて、自分は果報者だと強く思っている。
「……もう一度、言って……」
ナンバは、メグミの正面に回り、ひざまずいた。
メグミの両手を握る。
「好きだよ、メグミさん」
ふんわりと笑う。
「ありがとう。私もナンバ君が好き……」
ナンバが幸せそうに笑みを深めた。
「どうしたの?」
「フランソワーズ大尉と……」
勝手に嫉妬して、浮気を疑った。
(ごめんなさい)
「オリガミ大尉か~」
「彼女の筋肉愛はすごいでしょ~」
「”呑竜”の男性クルー全員が、”厚み”がないって言われてるよ」
「うん、うんっ」
メグミが安心したように笑った。
その後、ベンチに横に並んで座り、ガラスの向こうの海中を見た。
ビッグウミボタルの淡い光に照らされて、30センチくらいのイワシの群れが、柱の様に群れになって回っている。
幻想的な光景を二人は手を繋いで見ている。
どちらからと言わず、いつの間にか指を絡めあっていた。
(この手を離したくない)
(この手を離したくない~)
二人は同じことを考えていた。
メグミはそっとナンバの肩に頬を寄せて、ほんの少し体重を預けた。




