第1話③(第1話~完~) 甘と苦
~日坂田中学校 音楽室~
ガンッと鈍い音が音楽室に鳴り響き、甲高い叫び声がこだまする。攻撃が外れた、そして”奴”が叫びながら火の粉を撒き散らして部屋の中を駆け回っている。素早い、熱い、そしてうるさい。あの速さだと鎌だと限界がある。いくら軽い素材で出来てるとはいえ、自分より大きいものを扱うのは難しい。だからといって素手では戦えない。被害拡大を防ぐためにもこの火を何とかしなければ…。火に有効なのは水、水、水…。よし、決めた。戦いながらで申し訳ないが説明しよう。僕らのような人間とは違う者たちは”技”(ぎ)というものが使える。技に関してはそれぞれに特徴があり、火、水、草のような属性、近距離、中距離、遠距離のように用途等様々なことで分別される。技は元々あるのではなく自分で創る。そのため全く同じ技は存在しない(1部例外もあるが)。技の完成度は創った者の想像力で左右される。「反乱水刃撃。」周りの火が消えた。この技は一定範囲に水で出来た刃を四方八方に乱射する、という技だ。1対1の場合はあまり実用的ではないがこれはあくまで被害拡大防止のためだ。気のせいか奴の動きが鈍くなった気がする。火を原動力にしているのか?だからあれほど火を撒き散らしていたのか。奴は焦ったようにもう一度火を撒き散らし始めた。間違いなく動きが速くなった。「反乱水刃撃ッ」消したと思えば気がついたらまた火がついてる、なら…「反乱水刃撃」、「反乱水刃撃ぃ」、「反乱水刃撃!」距離を縮めるまでだ。「…捕らえたっ」今度は逃がさない、鎌を振り上げ、振り下ろした。見事に当たった、その瞬間奴は涙を流し始めた。僕の顔を見つめ何か訴えているようだった。霊は元々人間が多い、それもこの世に何か未練があるから霊になる。「…お前、何が望みだ」そして奴は消え入りそうな声で「ごめんなさい」と言った。「そうか、頑張ったな。」奴の動きが止まった。「天上永眠撃」そのあと奴は泣きやみ、にっこりと笑いながら成仏した。
~基地(自宅)~
基地に帰ったあと、色々と”奴”について調べた。成仏した霊はリストに名前が載る。如月苦奈。それが奴の名だ。あの如月甘奈の母親で、病気で若くして亡くなっている。父親は海外転勤でほとんど家に帰らず、甘奈は孤独な生活を送っている。あの最後の言葉は自分の娘に対する謝罪だったのかもしれない。甘と苦。それが人間というものなのだろうか。
~日坂田中学校 売店~
4限目が終わって売店によって、いつものように昼食を買って隅のベンチに座った。そして、「睦月くん、隣、いいかな」「うん、いいよ」如月が隣に座る。なんだかんだで初日から如月とは昼食を共にしていし、しかもあれ以来如月について色々なことを考えてしまう。「どうしたの?睦月くん」「え、あ、なに」「さっきからずっと私の顔見てるけど…」「あ、あぁ、なんでもないよっ」如月苦奈の目線になると寂しくないのかだとか生活は大丈夫なのかとか色々なことを考える。少しの間があった。「如月さん」「ん、何?」またもや少しの間があった。「これからもお昼、一緒にしていい?」そしてまた少しの間があってから「うん」と言ってにっこりと笑った。キーンコーンカーンコーン。「予鈴だ、私先いくね。」と言って如月は立ち上がった。奴の後ろ姿を眺めながら、僕の悪い癖だ、人間とは極力関わらないようにしているのに…。まぁ、いい、こういうのも悪くない。そんなことを考えながら僕も立ち上がった。




