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流れの武器屋  作者: はぎま
魔物の大移動
92/163

クラス8

 西の地点。


 そこでは、既に死闘が繰り広げられていた。


 騎士団100名、魔法士団100名と少ないが、王国が持つ最大戦力とも言える精鋭部隊。

 騎士団長ジーラス・ヒート、魔法士団長アイリス・フォートが指揮を取り、魔物に挑んでいる。



「はぁ、はぁ、くそ…応援はまだか…」


「…騎士団長、私が抑えるから攻撃を続けて下さい。中央地点はクラス7が四体…応援は考えない様に」


「そう、だったな。アイリス、まだ魔力は持つか?」


「人の心配よりも自分を気にして下さい。あなたが倒れると士気が下がります。…アイシクルレイン」


 ガガガガ!_


 魔法士団長アイリスは広範囲に氷の雨を降らせ、魔物の行動を抑制していく。周囲に居る兵士に当たらない様に制御しながら。

 騎士団長ジーラスはアイリスの援護を受けて魔物に駆ける。


「バーニングスラッシュ!」


 ブンッ!_


 炎の剣技は躱され、魔物が反撃を繰り出す。

 しかし、氷の雨がジーラスと魔物の間に入り、ジーラスか攻撃を受ける事は無かった。


 ジーラスは立て直す為に距離をとり、魔物を見据え自らも魔力を練る。


「バーニングバースト!」


 ボンッ!_


 爆発による範囲攻撃。しかし魔物に当たる事は無く、躱された。


「また、当たらない…どうすりゃ良いんだ」


 攻防を繰り返すが、魔物に攻撃が当たらない。

 騎士が前衛で防御しながら、魔法士が攻撃魔法を繰り出すも全て躱される。

 まだ一回も攻撃を当てていないという情けない事態だが、情けないという言葉は適切では無い。



≪転移核獣・ディスク、クラス8、強さーーー≫


 体長五メートルを超える、ツルツルとした紫色のゴーレムの様な人型。手には紫色の円盤を持ち、この円盤で攻撃を仕掛けて来る。

 転移魔法を使うクラス8の魔物。

 攻撃は全て転移で躱され、死角から転移して攻撃を仕掛けて来る。

 遊ぶ様に一人ずつ仕留めて行く様は、子供の様で…



『ヨワイ、ヨワイ、ヨワイ』

「はぁ、はぁ、また一人やられた…もしかして弱い奴から攻撃してるのか?」

「恐らく、遊んでいる。もし王都に来たら子供や老人から狙う…それは避けなきゃいけない。騎士団長、この後は頼みます」


 アイリスが魔杖・ギアチャイオを掲げる。氷の魔力が周囲に充満。転移核獣・ディスクが辺りを見渡す。


 ギアチャイオは氷の魔力を増幅する杖だが、使い勝手が悪い。

 魔力消費が激しく、強力な魔法を使う際は反動で動けなくなる。


「_捕らえた、アイスコフィン」


 パキパキパキ_


 氷が棺の様にディスクを包む。アイスコフィンは対象を拘束し、凍らせる魔法。アイリスの場合、規模が違った。


 数十メートルを越える氷の山。その中心にディスクが見える程に透明度があり、凝縮した氷。


 ピキパキピキ_


「総員!総攻撃の準備だ!」

「はい!」「了解しました!」


 全員が魔力を溜めて攻撃準備に入る。

 その間、ディスクを捕らえているアイリスは大魔法を発動していた。


「絶対なる鎖…絶対なる檻の中で…悠久に続く安らかなる訃音を…汝の中で響かせよ…」


 氷の山が浮き上がり、見上げる程の上空まで上がる。中で動けないディスクは、転移を発動しようとしているがアイリスが氷の魔力で無理矢理抑え込んでいる。

 氷の魔女アイリス・フォートが持つ最強魔法。


「…墜ちろ。ギアチャイオ(大氷河の)マグナム(弾丸)


 上空に上がった氷の山が凝縮。高密度の氷の塊が地上に墜ちていった。


 ゴオオォォォ!_


 高速で墜落。轟音と共に氷が砕け散り、ディスクにダメージを与えていく。


「よし!総攻撃だ!」

「アイスバースト!」

「ゲイルクラッシュ!」

「アースグレイブ!」


 ドドドド!_


 墜落と同時に、魔力を溜めていた魔法士団が追撃。


 勝利を掴む為に、全力で攻撃を仕掛けた。



「…くっ…」

「アイリス団長!大丈夫ですか!」

「だい…じょうぶ…反動で…動けない…だけだから」


 その場に座り込み、大魔法の反動を受けるアイリス。好機は作る事に成功したが、まだ油断は出来ない。

 震える身体で戦況を見守った。



『ヨワイ、ニンゲン』


「_ぐぁ!」

「_ぎゃあ!」

「どうした!_うがっ!」


 急に、攻撃を加えていた者が次々と倒れていく。一瞬ディスクの姿が見え、兵士を凪ぎ払ってまた転移して攻撃してくる。


「_きゃぁ!」

「いかん!固まるな!距離を取れ!」


 ジーラスの声も虚しく、倒れていく兵士。僅かな時間でほんの数人まで数を減らしてしまった。

 倒れた兵士は、まだ息はある様子だが、放って置いたら死んでしまう。


「_がぁ!」

「_うぎゃ!」


「くっ…これは、不味いな」


 もう、意識があるのはジーラスと、座り込んでいるアイリスのみとなってしまった。


「「……」」


 少しの沈黙。何処から来るか解らない。アイリスはフラフラと立ち上がるが、抵抗出来ずにやられる未来しか思い浮かばない。


『ヨワイ』

「_っ!バーニングスラッシュ!」


 ディスクが転移で現れ、ジーラスは炎の剣を振るう。

 ガキンッ!_

 ディスクの持つ円盤に弾かれ、魔炎剣は飛ばされた。

『ヨワイ』

 バキッ!_「_ぐはぁ!」

 円盤の攻撃にジーラスが倒れ伏す。


 残るは、アイリス一人となった。


「私も…ここまでか…悔しいな」


 ディスクがゆっくりと向かってくる。アイリスは真っ直ぐディスクを見据え、少しの諦めと共に身体の力を抜いた。


 そして、ディスクがフッと消える。


 ドゴンッ!_



「………なんだ?」



 ディスクが消え、衝撃音が響いたがアイリスは攻撃を受けて居ない。

 疑問に思ったアイリスが辺りを見渡した時、隣に居る人影に気付いた。


「お前は…」

「怪我は無いか?」

「私は大丈夫だ。だが皆が…」


 隣に立つ深紅の鎧を纏った男。顔は兜に隠れているのでよく解らない。だが、味方なのだろうというのは何となく解った。


 遠くに倒れているディスクが目に入る。起き上がり、警戒する様に深紅の男を見ている。隙を伺う様に佇んでいた。


 深紅の男は魔物を気にせずジーラスに手を当て、回復を施している。そして、アイリスに向き合い真っ直ぐ見詰めた。



「…悔しいって顔してるな」


「…ああ、悔しい。魔物一匹倒せないのに何が王国軍だ…」


「でも、クラス8は仕方無いだろ」


「強さは問題じゃない。どんな敵であろうと負けてはいけない…私は、私達は民を背負っている。守らなければいけない」


 なのに、負けた。


 悔しそうに瞳を揺らし深紅の男…トトに訴える。アイリスは本気で民を思い、守ろうとしている。勝ち目の薄いクラス8に命を掛けて立ち向かった。

 トトは負けを悟ってなお、腐らずに国を思う心は凄いと思っていた。



「…なぁ、まだ負けてないぞ。闘おう」


「…見れば明らかだろう。私はもう、舞台から下りている」


「俺が力を貸す。だから諦めんな」


「諦めでは無い。託すのだ。それに…お前の力など借りなくても良い」


 託すと言いながらも、悔しそうにしている。自分の弱さを憎む様に拳を握り、震えている。


(俺が魔物を倒しても国は救われる。でも、アイリスさんは救われるのか?余所者に救われた国を見て…)



「アイリスさん。俺に、背中を押させてくれ…友達としてさ」


「…何を…友?」


「そう、友達。…悔しくて、辛くて、怖くて泣きそうなのに頑張って立っている友達を、助けたいって思うのは当然だろ?」


 トトが深紅の兜を外す。似合わない鎧を装備しながら顔を出すのは少し恥ずかしいが、友達の為なので我慢。

 収納から真っ白い杖…白雪召杖を強化したものを取り出し、手を差し伸べる。


≪白雪召杖・クロウカシス、ランクーー、白雪姫ーーー、魔力攻撃ーーー、ーーー、カミル召喚≫



「…トト…なのか」


「さぁ、アイリス・フォート。力が欲しいか?

 欲しいなら、この手を取れ。俺が背中を押してやる」


「…ふふっ。本当に…最高だなトトは。ああ、力が欲しい」


 何の疑いも持っていないアイリスがトトの手を取る。

 アイリスの銀色の髪がなびき、トトを見詰める顔がほんの少しだけ、笑顔になっていた。


「あっ、笑った…うわー可愛い過ぎでしょー……強制武装・白雪姫」



 トトの緊張感の無い声が響き、白い光が立ち昇った。





 ______





 中央地点。



「はぁ、はぁ、疲れた…倒せた…」


「後は、西の魔物…」

「ありがとうな。紅のリンダ」

「…私を知っているの?」

「帝国じゃあ有名だからな。宜しく」

「…宜しく」


 倒れ伏している大きな魔物。古代悪魔を眺めるニグレット、トリス、ミランダ、リンダ、ホークアイ、ゴドム達冒険者。


「……」

「トリス?どうした?」


 勝利を喜ぶ冒険者達。その中で、浮かない顔をしているトリス。ウサギが原因だろうと思うが、どうやら違う様子。

 ボーッと空を見上げていた。やがて、ハッと気付く様に歩き出す。


「……そんな…だめだめだめだめ」

「トリスちゃん?」


「……行かなきゃ行かなきゃ行かなきゃ!」

「トリス!」


 走り出したトリスをニグレットが止める。止めるが暴れ、ニグレットから逃れたトリスは再び西へ走り出す。


「トリス!どうした?_っ!トリス…封印が」

「行かなきゃ行かなきゃ!トトさんがトトさんが!」


 トトと聞いて、ニグレット、ミランダはトリスと共に西へと走り出す。出遅れたリンダがホークアイに尋ねた。


「こっ、これはどういう事?」

「解らないけど、何かが起きるのは確かだね。見てよ、トリスちゃんの職業」

「_は?」


 トリスが着けている隠蔽効果のあるイヤリングの効果を弾き、封印されていた職業が浮き出てきていた。



「トリス、トトがどうしたんだ?」

「早く行かないと…トトさんが消えちゃう!」


 一同は全力で西へ向かった。


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