魔物の大移動。第三波。
北、北西、西、南西、南の5地点の内、北、南の地点は魔物の大移動が収まった。
北西、南西も騎士団、魔法士団、冒険者や傭兵の奮闘により、次第に収まっていく。
残るは西。それから、新たに黒い渦が集まる王都に近い中央地点の二ヶ所。
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西の地点。
魔物の勢いに押され、後退していく精鋭部隊。
半数以上と撃破したが、他の地点よりも魔物が多く、次々と死傷者を出していた。
「もう持ちません!障壁を展開して撤退しましょう!」
「くっ、仕方ない!魔法部隊!隙を見てウォール系の魔法だ!」
「はっ、はい!」
ファイアーウォールやアースウォールなど、壁を作る魔法を展開していくが、付け焼き刃の対応では直ぐに破られる。
作っては破られ、作っては破られ、状況が平行線を辿る。
「隊長は逃げて下さい!俺が抑えます!」
「駄目だ!俺が残る!」
「_っ!来た!応援だ!」
ゴオォォォ!_
魔物達が炎に包まれ、灰になっていく。
精鋭部隊が炎の出所を辿ると、騎士団長ジーラス・ヒートが応援に駆け付けていた。
「よく持ちこたえた!もう安心しろ!出でよ!ブレイジングサン!」
ジーラス・ヒートが魔炎剣を掲げ、力を解放。
白く燃え上がる小さな太陽が出現。障壁を壊していた魔物を次々と灰にしていく。
「「「うぉぉぉ!」」」「流石団長!」「助かった…」
精鋭部隊の歓声が響く。生き延びた安心感、勝利への期待が込められた声が響く。
「はぁ、はぁ、なんとか、間に合ったな…」
「団長!ありがとうございます!」
「まだ、喜ぶのは早いぞ」
なんとか魔物は殲滅。だが黒い渦は残っている。
まだ、これで第二波だ。
更に西の遠目に見える黒い渦が、どんどん合体していく。
「おいおい、嘘だろ…」
「デカ過ぎじゃないか…第三波どころじゃないぞ…」
「総員!負傷者を回復!戦えない者は撤退!」
ジーラスの指示で、負傷者や戦えない者は急いで撤退していく。ここに居ても足手まとい。
この場は、戦いたい者が残る事になった。
それほどまでに、次の魔物は危険だった。
「…う…わ…」
「あれは、駄目だ…」
「クラス…7?…いや違う」
黒い渦は合体を終え、黒い渦自体が形を成していった。
魔物を排出せずに、凝縮する様に小さくなっていく。
遠くからでも解る、圧倒的な存在感。圧倒的な力。
遅れて到着したアイリス・フォートも、遠目に見える魔物を確認。圧倒的な魔力を感じ、瞳が揺れる。
「…はぁ。魔王級…クラス8か…魔武器を持っていない事を祈ろう…」
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大きな黒い渦が向かった中央地点へ行く、ニグレット、トリス、ミランダ。
ウサギを記憶から抹消したトリスが、何か違和感を感じていた。
「ねぇ、ニグお姉ちゃん」
「どうした?調子悪いのか?」
「ううん。私、レベルが上がったみたいなんだけど…なんか変なんだ…」
「あぁ、あれだけ倒したらな…急にレベルが上がったから疲れがあるのかもな(確か…トリスは封印状態だったよな…)」
トリスは職業が封印されている。同時に記憶も封印されているのだが、それに変化があった様子。
≪クシャトリス・ヴァイラ・オーレン、ーーー、ーー、封印≫
鑑定には、強さもみれなくなっている以外は変わらない。強くなった事は確かだが、違和感は感じている。
(レベルが上がって、封印が解ける?それとも、違う何か?)
考えても解らない物は解らない。ミランダと共に少し気に掛ける様にして、中央地点へ向かう。
中央地点には、大きな黒い渦がうねりを上げて回っていた。
渦の向こう側から向かってくる者達が見える。格好から、恐らくギルドマスター率いる冒険者達と推測。
「さて、何が出るかねぇ…」
「これで最後だと思うけど、強いのは勘弁かなぁ」
「みんな、頑張ってね。私は、戦うのが怖い…」
「トリス、あと一回だから頑張って」
「トリスちゃん、あと一回だから」
「……」
黒い渦から魔物が出てきた。
魔物の数が違う。少ない。
たったの四体。
だが、その四体が異常だった。
≪ヴァンパイア・ロード、クラス7、強さ24444≫
黒い衣に身を包む男性の姿をした魔物。
≪ギガント・ドラゴン、クラス7、強さ26607≫
通常とは比較にならない巨大なドラゴン。
≪エ・スカルゴー、クラス7、強さ20014≫
カタツムリ。
≪悪魔22式・ロストデーモン、クラス7、強さ29470≫
古代悪魔と呼ばれる試練の魔物。
「あー…ちょっとまずいかも…」
「一人一体?無理無理…」
「…戦うのが怖い…」
ギルドマスター率いる冒険者達も、離れた場所から様子を見ているが、動揺している様子が解る。
このまま突っ込んで行っても返り討ちに合うのは、誰もが解っているが、行動を起こさなければ王都が潰れる。
そうこうしている内に、魔物が動き出した。
『ゴミ共が沢山居ますねぇ…私はあのお城に行きましょう。皆さんはゴミ掃除をお願いします』
ヴァンパイア・ロードが黒い霧となって、王都の方角へ飛んで行った。
「あっ、一体が王都の方角に行ったな…」
「…行っちゃいましたね…どうしましょう」
「んー?到着したみたいだから大丈夫だよ?あれ?なんで解るんだろ…」
「到着?…そうか、ならこっちに集中しよう」
______
王都。
魔物の大移動が発生したと報せがあり、ほとんどの人は家に籠るか避難所にいた。
そんな王都の北区の丘に降り立ったトト、リンダ、ホークアイ。
「あっ、リンダさん。この収納ブレスレットに必要な物入っているんで…
あれ?こんな人居なかったっけ?」
「トハシ、ありがとう。ここが王都…自然が多くて良いわね」
「二人とも、呑気に喋ってる場合じゃないよ。予測より早めに大移動が起きたかもしれない」
帝国は王都の東側。王都に真っ直ぐ向かったら、西側で起きている大移動は解らない。
とりあえず丘の上から王都の外を眺めてみた。
「大移動ってどこで起きているんだ?」
「どこだっけ?私は大移動の場所が特定される前に帝国へ行ったからなぁ…」
「ん?あれじゃない?黒い点みたいの見えるよ?」
リンダが西側を指差し、トトが遠くを見る能力イーグルアイを発動。
「あっ、あそこですね。リンダさん流石ですよ」
「ふふっ、こういうの見付けるの得意なの」
「イチャイチャしてないでさぁ、規模を教えてよ」
数は少ないので、目を凝らして鑑定を掛けてみる。うっすらと見えた。
「…あ?…クラス7が四体」
「「…は?」」
あり得ない。魔物大移動と言えど、大きな規模でクラス6。クラス7が出るなど、大昔の記述にしか無い。
今すぐ行かなければ。そう思うのは当然だが…
「ホーク、リンダさん。先に行って貰えますか?一体こちらに来るんで、始末してから行きます」
「…分かったわ。早く来てよね」
「了解。あっ、リンダちゃんに武装は?」
「あぁ、そうだな。リンダさん、雷光剣持って下さい…」
「ん?こう?」
「そうそう……強制武装、赤雷の騎士」
バチッ!_
放電する音が響き、リンダが赤みを帯びた軽鎧を装着。
ほー…とリンダが驚く。
「…凄いわね…トハシの能力…」
「似合ってますよリンダさん。俺とお揃いですね」
トトが深紅の斧を取り出し、武装する。
深紅のフルプレートメイルを身に纏った。以前にも増して刺々しいデザイン。強い力に、また強くなったのか…とホークアイの表情が引きつった。
「とはしぃ…格好良い…お揃いだねぇ…」
「はいはいイチャイチャしていないで行くよリンダちゃん」
手を振り、ホークアイとリンダは西へ駆けて行く。光の武装と雷の武装、その速さは凄まじく、直ぐに到着しそうだ。
「…さて、黒い霧は…城に向かってる?」
真っ直ぐ城に向かっていく黒い霧。
素早く移動。城の前、進路上に立ってみた。
『…おやおや、死にたいゴミが居るようですねぇ』
「ん?なんか前にも会った?」
丁度やって来たヴァンパイア・ロード。その顔には人間を見下す表情が浮かび、虫けらを見る様な瞳を向けていた。
トトは気にせず、創造剣を腰に差し、爆斧・煉獄竜を構える。
「まぁ良いか。やられてくれ」