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キク -幼少編ー  作者: 麻本
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「やれやれ。ちょいと雰囲気的にやばそうじゃの。キク。この場からは

離れて他を見に行こう」

空はそう言って、キクを連れてこの場から離れました。

そして、空とキクの旅が再び始まったのです。

「さて。また棒切れを使って行き先を決めるか。キクや。また、棒切れを探してやくれぬか?」

「はい」

キクはそう返事をすると、すぐ一直線にある方向へ向かうと、直ぐに木の棒を持って戻ってきました。

キクが持ってきた木を空が見るとそれは真っ直ぐで良い木の棒でした。

「おや?これは何処から?」

空に質問されたキクは黙ってある方向を指差します。

空が見たそれは、人間が木を燃料にするために置いた、木材置き場でした。

「もしや最初から探しておったのか?」

「はい」

「キクは賢いやつじゃのう」

空はキクから木の棒を受け取りました。そして

「神様の言う通り。それっ!」

と言って、空高く放り投げました。

木の棒が地面に落ちて弾み、やがて止まる。そして、ある方向に向きました。

「よし。今度は此方の方向じゃな」

そして二人は、棒の指す方角へと歩き始めました。

しばらく歩いていると、キクが空に話しかけてきました。

「空さま。質問があるんですが」

「何じゃ?言うてみい?」

空は足を止めました。

「この旅はいつまで続くのですか?」

「永遠・・・かな」

「永遠ですか」

「わらわはもはや、人間のいうもののけなんじゃ。霊体である以上死ぬ事はないのじゃからの」

「死ぬことが無いからですか?」

「そうだよ。キク?お主もこれから先、楽しい事、辛い事。様々な事を沢山知ることになるじゃろうて。

そして沢山のものを観て、知って、それを糧に過ごして行けばよい。

人間のことは勿論、これから会うであろうもののけの事もじゃ」

「はい」

「よし。では再び歩こう。先は長いぞ?」

 それからしばらくして。林道の脇に畑が見え始めました。

そこで空がキクに問いかけます。

「キク。わらわの視線の先は、何を見てると思う?」

「畑・・・ですか?」

「何だ。知っておったか。これから先、ずっと先の未来にこの、なんの変哲もない畑がどうなるのか。それを覚えておくのじゃ。

なんの変哲もないこの畑も、何百年も先に再びこの畑の側を通った時にこの畑が。

そして、この周りがどうなっているのか。それを見極めようと思ってな?」

「何百年も先って。流石に忘れてしまうんじゃないですか?」

「まあな。忘れてしまうかも知れないし、そうじゃないかも知れない。ただ、思い出す為の目印として、丁度畑の隅にある大きな石に刻印しとこうと思ってな?」

「石ですか?何処にあるんです?」

「あそこじゃ。あそこ」

空が畑の奥を指差します。

そしてキクがその指先のほうを見るとそこには、大人1人では、絶対に持ち運べそうもない、大きく尖った石がありました。

「あの石ですか?」

「そうじゃよ?じゃあ、刻印してしまうか。それっ!」

空が手を振りかざすと、その大きな石に、空の文字が刻まれました。

「わあ!凄いです!空さま!」

「たいした事じゃないよ」

「ねぇ、空さま。あたいもやっていいですか?」

「んん?刻印したいのか?でも、キクはやめときな」

「えー?何でー?」

「二文字もあると返って目立つ。こういうのは、さりげなくしたほうがいいんじゃよ」

「そうですか・・・」

少し残念そうなキクであった。

それを見ていた空は言いました。

「キクよそう残念がるな。もう少し先を歩けば同じような石があるやも知れぬ。それを見つけたら、

その時にやればよい」

「はーい!」

「うん。急に元気になった。じゃあ、歩こうか」

「はーい!」

空とキクは再び歩き始めました。

そして、大した距離も歩かない内に先頭に立っていたキクが何かを見つけて空に言いました。

「ねっねっ空さま。あそこに石が沢山ありますよ!」

興奮気味のキクが、空の服の袖を引っ張ります。

そして、キクが見つけたのであろうその先に視線をやると、それは墓石だったのです。

「墓石・・・いかん。あれに刻印してはならんのじゃ」

「ええっ?」

「いかんものはいかんのじゃ」

「所詮、人間が作ったものですよ?やっても分からないんじゃあないですか?」

「そんな事はない。墓守はすぐに変化に気づくぞ。だからいかんのじゃ」

「じゃあ、何処に刻印すればいいですか?」

「ちょっとまて。キクよ。わぬしは何故にここに拘る?」

「少しでも、空さまの側にあったほうがいいからです」

「側にねえ」

ここで空は考えました。墓石に落書きするのは持っての外。しかし、キクの願いは叶えてやりたいと思ったのです。

それで、空は辺りを見渡しました。すると、墓の裏が小さな崖で、硬い岩盤で出来ていたのでした。

 空は崖の近くに寄り、確かめました。そして

「キクや。この辺りになら刻印してもよいぞ」

そう言いながら、岩盤の下のほうを指差しました。

「ええー?こんな所にですかー?」

キクは不満げに言いました。

「何を不満をもらしておる?贅沢いうな。ここなら人間には分かりにくいじゃろ?

それに、岩盤に彫ってしまえばそれこそ何百年と保つじゃろうて。それでも不満か?」

と、空の「何百年も保つ」と言う、説得によってキクの不満は晴れました。

「その辺りに彫ります」

キクは、手を大きく振りかぶると岩盤目掛けてものを投げる動作をしました。

すると岩盤の下のほうに「きく」という文字が浮かびあがりました。

「やった!これで空さまのお側に居られる!」

キクは飛び跳ねてはしゃいだのでした。


つづく


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