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アラ古希の雑感  作者: 印具米


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整体初体験③(脱北編)

 整体に通い始めて2週間、このまま保険診療を受け続けていてよいのか不安になってくる。治療代は一回あたり950円ほど。北里柴三郎でお釣りがくる。初期の治療で腰痛は劇的に改善されたが、それ以降は治療しても特に変化を感じない。そのためこのころになると、何のために治療を受けているのかわからなくなってくる。ただマッサージとして心地よいので通っている。何より保険が利いているのが嬉しい。しかし腰痛が改善した以上、保険診療はできないだろう。そんな不安を抱き始めた頃、師が言ってきた。

「〇〇さん、インナーマッスルってご存知ですか?」

嫌な予感がする。

「ここを強化しないと腰痛再発の危険があります。インナーマッスルは自分で鍛えることができません。特別な治療が必要です」

 えっ、そうなの? インナーマッスルなんて腹筋を鍛えれば良いと思っていた。

「インナーマッスル、鍛えましょう」

 新たなメニューを提案された。どうもお腹に電気を流すようである。これは間違いなく自由診療だ。一回あたり5000円くらいとられるだろう。

 やんわりと断った。しかし、師は粘る。

「やった方がいいですよ。再発怖いですからね」

 確かに再発は怖い。しかしお金が減るのも怖い。そもそもインナーマッスルを電気で鍛えることなどできるのだろうか?

 これまで世話になった恩義がある。しかしインナーマッスルに関しては勇気を振り絞って遠慮した。


 そしてその後も腰への治療が続く。しかしこのところの施術は、自分にとって治療というより完全にマッサージである。1ヶ月半が過ぎ、さすがに保険診療はまずいだろうという気になってくる。保険組合との間でトラブルが起きるかもしれない。ひょっとするとこれまでの保険診療に関して、遡って自分に直接、差額請求がくることになるのかもしれないなどという不安も芽生えてきた。 このままズルズル続けていてはならない。関係を断ち切ろうと決意した。

 しかし、意を決したものの、なかなかそれを師に言い出せない。腰痛を改善させてくれた恩義があるし、施術中の会話で親密な関係ができてしまった。会計時になるとまた次回の予約をしてしまう自分。情けない。こんなことが何度か続く。

 「今日こそは別れを告げる」と強く決意したその日、治療院に行くといつもの師は休みであった。これ幸いと告げた。

「今回で終わりにします」。

 若干の引き留めはあったものの意外とすんなり受け入れてくれた。肩の荷が下りた。ホッとした。もう保険診療の罪悪感から解放される。高額な自由診療に引き込まれる不安から逃れることができる。清々しい気持ちになった。

 ついに38度線を越えた。

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