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令嬢達の品定め




狩猟会といいましても、女性にとっては屋外のお茶会と変わらないのですよね。



パラソルの下に用意されたテーブルと椅子。

その上には紅茶と茶菓子が用意されている。

周りを取り囲むのは名家のご令嬢ばかり。



「して、シャリア様はお屋敷で何をされていらして?」



始まったようですね品定めが。

あいにく負けるつもりはありませんが。

なにせ引きこもっていたため誰の娘か判断つかないのが痛いところ。



「学問に励んでおりました。」


「学問を。では、イリージア王国の歴史もご存知で?」


「もちろんです。」


「イリージアが独立容認の動きに変わったのはどうしてでしたかしら。」


「現イリージア国王が独立容認後も国力維持を図る政策を提案したためです。占領下の国家も経済面での利点は大きく、両者の妥協点ともいえるでしょう。」



笑顔で答えれば黙ってしまわれた。



私にイリージアの歴史を尋ねた時点で貴女に勝ち目はないのです。

それにランゼルお兄様が取り組んだこの折衷案は、私が考えていたものと似ておりますし。

お兄様も隅に置けない方です。



「流石はシャリア様ですね。イリージアの独立祭随行に選ばれただけあります。」



緋色の髪と瞳の令嬢が微笑んでいる。

その特徴的な色はエネット公爵家の証。


確か名はオルヴィ、年齢は17歳で婚約者はなし。

家柄的にも殿下の婚約者を狙っていておかしくはない。

フィオネ王女への随行を私がすることも気に食わないはずだ。



「まあ、シャリア様がフィオネ殿下の随行を。(どうして貴女が。)」


「大役ですわね。(荷が重いのではなくて?)」


「博識さを活かせられますね。(礼儀作法はいかがなものでしょう。)」



毒づかれていますね。

今まで社交界に出ていなかったので当然ではありますが。


気分は良くありません。



用意されていた紅茶を音を立てることなく一口飲む。

もちろん皿に戻すのも無音で。



何も言わなくていい。

私のこの動作を見れば令嬢達は分かる。


ただ引きこもっていただけではないと。



毒づいてきた令嬢達はそろって気まずそうにしている。

オルヴィ以外は。



「シャリア様はどうして随行を承諾されたのですか。」



私が断れば自分に回っていたと思っているのだろうが間違いだ。

陛下は何が何でも私を引きずりだしていたはずだから。



「陛下の申し出をフォンゼル公爵家として断るなど出来ませんもの。エネット公爵令嬢のオルヴィ様なら一番分かっておられるでしょう?」



私が名を言ったことに少しばかり驚いたようだ。


キャベリアの貴族の名前は頭に入れている。

遺伝的な外見の特徴は見分けるのが簡単だから良い。


これぐらいで驚かれるとは心外である。



「そうですわね。ところでシャリア様に婚約者がいないとは不思議ですわ。こんなに公爵令嬢らしい方ですのに。」



公爵令嬢なのに引きこもっていたせいで婚約者がいないことを揶揄してきた。


私の言動をやけに見てきていたのが彼女であるなら納得です。

ふふ。本当はマナー面などで嫌味を言いたかったのでしょうけれど。


残念でしたわね。

引きこもっていたことぐらいしか弱味が見つけられなかったようで。



「時が来れば父が相応しい方と婚約を結んでくださる予定です。心配はしておりません。ところでオルヴィ様の婚約者様はどのようなお方ですの。」



婚約者がいないのを知ってはいるがあえてそこを尋ねる。


顔を赤くしてしまった彼女に「あら。」と声を漏らす。



「申し訳ありません。オルヴィ様も婚約者がいらっしゃらなかったのですよね。私と違ってすでに婚約者がいるものだと勘違いしてしまいました。」



周りの令嬢がくすくすと笑う。


エネット公爵令嬢であればかわしてくると思いましたが。

少しばかりフォローしておきますか。



「そうはいっても、オルヴィ様も引く手数多で困っておられるのでしょう?」


「そ、そうですの。先日の舞踏会でもパートナーを誰がするのかと大変でしたの。」



切り換えの早さは感心しますね。



「ああ、あの時のお召し物とても綺麗でした。」



フィオネ王女が話題に乗ると周りも同調し出す。



「ありがとうございます。イリージアでは王道のデザインですのよ。なにせ、故セシリア王女が好んでいたドレスを模しているのですから。」



心臓が酷く音を立てた。



「そうでしたのね。道理で印象に残っていたはずです。」


「私も着てみたいですわ。」


「故セシリア王女は女性の憧れですもの。」




彼女らの会話が遠ざかっていく。



記憶の欠片が数珠つなぎのように視界を支配する。






(「セシリア殿下のお召し物はいつも話題になりますのよ。」)


(「いつもご贔屓にしていただきありがとうございます。」)


(「先日のお召物を参考にさせていただきましたの。」)




すりガラスの向こうにいる人影が動いた。


溢れた雑音の中ではっきりと聞き慣れた声が届く。



(「カルティエ、可笑しくないかしら。」)


(「大変お似合いでございます。姫様。」)



訪れた無音と開けた視界。




彼がこちらに振り返る。



――その瞳は金色。





ガタッ



私は椅子から立ち上がっていた。



「シャリア様?どうなさいました?」



フィオネ王女が突然の私の行動に心配している。



「実は――。」



体調がよろしくないと続けようとした時、馬の嘶きが響いた。



「何事ですの。」



オルヴィらが口々に嫌悪感を表している。



令嬢達がいる場所から少し先の場所で騎士が人だかりを作っている。



そこからある一人の男が私の元に走ってくる。

フィオネ王女を視界に認めると慌てながらも跪く。



「この者は私の家に仕えるイロアです。」



私が彼の名を紹介したことでイロアが発言をする。



「フィオネ王女殿下、ご無礼を。」


「いいえ、いかがなさいましたか?」


「馬の気が立ってしまい、落ち着きがなくなってしまって。」



そこまで言うと私を見る。



アヴァンね。



「どうやら私の馬が原因のようです。申し訳ございません。」


「シャリア様の馬、ですか?」



私が乗馬することに引っ掛かったようだ。



「私が落ち着かせて来ますので席を外してもよろしいでしょうか。」


「それはよいのですが。危険ではありませんか?」



馬に慣れている騎士達でも静められていない現状を見て危機感を抱くのは普通のこと。



「少し散歩をして宥めれば大丈夫です。それでは失礼いたします。」



申し訳なさそうにするイロアに「大丈夫よ。」と小声で伝える。



背中から聞こえるのは私を咎めるような声達。



(「飼い主として責任がなっていないのではないですか。」)

(「シャリア様はやはり身分とは釣り合っていないのではなくて。」)



そんな声も今は気にしない。

王太子の婚約者には相応しくないと思ってもらえたらいい、なんて都合のいい解釈をする。



それに、この場から離れられたのは良かったのかもしれない。





先程の回想を消し去るように人混みに向かって脚を早める。






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