麗しき二人の王子
「陛下。本日はお日柄も良く――。」
父が陛下に声を掛けると、弾かれたように陛下は振り返った。
「セネル待っていたぞ。それで――。」
陛下と目が合ったことで最高礼をする。
「お初にお目にかかります。私フォンゼル公爵家が息女。シャリア・フォンゼルと申します。」
礼をするシャリアを眩しいような懐かしむような目で見る陛下にセネルは複雑な心境であった。
彼は娘が時折セシリア王女に似ていると思うようになっていた。
そして、現在進行形で陛下もセシリア王女の姿を重ねていることが分かったからだ。
今日までは単に私の娘を王太子殿下の婚約者にしたいというだけであったはず。
しかし、今は、、。
陛下はセシリア王女にある意味惚れ込んでいた。
今のシャリアを見た陛下が絶対に手に入れたいと思うのは自然の道理だ。
そんなことをシャリアが知るはずはない。
「よい。会うのを心待ちにしていたのだが、、、なぜか昔を思い出したよ。」
私もにこやかな陛下の若き姿を思い出す。
婚約破棄の舞踏会でお会いしたのが最初で最後。
聡明なお方と兄から聞いていましたが、このように立派な国王陛下となられて。
ただ、陛下が昔を思い出すというのが少し不思議ではあります。
母親似の髪と瞳を見て、お母様の面影を感じたのでしょうか。
国王はシャリアの前にある一人の男性を前に連れてくる。
「シャリア嬢にずっと紹介したかったのだよ。私の息子で王太子のウィルヘムだ。」
“私にずっと紹介したかった。”
陛下のその言葉で疑惑が確信へと変わる。
陛下は私を王太子殿下の婚約者に望んでいると。
王太子のウィルヘム殿下は私を見下ろしていた。
紺色の髪に金色の瞳。
長身で端正な顔立ちは芸術の域。
そんな彼から冷たさを感じるのは瞳のせいだろう。
鋭さをもった瞳はまるで鷹のようである。
「ウィルヘム・ハイドレです。」
一言名前を述べるだけで微笑むこともない。
「すまない。いつものことだ。気にしないでくれ。」
「いえ、お気になさらないでください。私もこのような場に参加させていただくのは初めてですので、失礼をしたのかもしれません。」
「何を。シャリア嬢は完璧です。」
「まあ陛下。私は引きこもり令嬢ですよ。」
「セネルから聞いていたのだ。礼儀、作法、学問、淑女としての全てを兼ね備えていると。」
「そんなことはございません。」
父を見ると困ったように笑っていた。
元凶はお父様でしたのね。
娘想いも良いですが裏目に出ています。
目で訴えると指で頬をかいている。
陛下は信頼を寄せるフォンゼル公爵の娘が優秀であると知っていた。
そのため引きこもっていたことは気にしていないのだろう。
むしろ婚約争いが勃発しなかったのを喜んでいるかもしれない。
ずっとこの日を、私を表舞台に駆り出す口実を探していたのだ。
思った通り独立祭の随行も単なる強硬手段ですか。
まんまと陛下に嵌められたということですね。
悩ましく思っているとウィルヘム殿下の隣にいる男性と目が合った。
すると彼は微笑んで胸に手を当て、頭を軽く下げる。
第二王子のノルア殿下でしょうか。
私も軽く礼を返す。
「ああ、息子のノルアだ。フィオネと似ているだろう。」
「ノルア・ハイドレと申します。シャリア嬢の美しさに見惚れておりました。」
確かにフィオネ王女に似た髪色と瞳は王妃譲り。
物腰の柔らかな顔立ちは美丈夫に拍車をかけている。
ウィルヘム殿下はどちらかと言うと陛下似ではあるが、先王に似ている気もする。
それにしても、、。
18歳のノルア殿下は自分の魅力をご存知のようで。
甘い笑顔に甘い言葉。
兄を差し置いて婚約出来ないのが可哀そうなところです。
社交界でも大変人気でしょうに。
「まあご冗談を。」
口元に手を当てくすっと笑う。
お世辞は流すのが一番ですから。
「お世辞ではありません。私も男ですから。」
真っ直ぐに言われると笑うのも失礼になる。
ただ微笑むに留めて口を閉ざす。
なぜノルア殿下が私を口説こうとしているのでしょう。
「あまりシャリア嬢を困らせるな。」
「美しい方に美しいと述べたまでです。」
陛下が釘を刺しても気にしていない様子。
ノルア殿下がウィルヘム殿下を挑発するように笑いかけた。
もしかして私を婚約者にすることで後ろ盾を得て、王太子の座を狙っているとか。
ウィルヘム殿下はより瞳に冷酷さが増している。
やめてほしいものです。
権力争いに巻き込まれるのはもう懲り懲りですのに。
「つけあがるなノルア。」
ウィルヘム殿下の冷えた声に反してノルア殿下は笑い出す。
「はは、そんなに怒らないでくださいよ兄上。」
流し目で弟を見た後、ウィルヘム殿下の瞳はこちらを捉えていた。
目を逸らすことは出来ず、逸らされることもない。
――どうして。
ふとよぎったものが心を乱す。
「シャリア嬢?ウィルヘムがどうかしたかい?」
私がウィルヘム殿下と目を合わせたまま固まっていることを陛下に指摘される。
その言葉で彼から逃れられたものの、陛下は何かを期待するような表情をしていた。
見惚れていた訳ではないのです。
ただ、、、なぜか。
「お兄様が怖い顔をするからではないですか?」
フィオネ王女がくすくすと笑っている。
「兄上は愛想を覚えた方が得ですよ。そう思いませんかシャリア嬢?」
ノルア殿下はそうやって私に話を振ってきた。
なんとも答えずらい質問である。
「私にはウィルヘム殿下へ申し上げることは何もございません。」
「ふ。」「はは。」
至って真面目に回答したのに陛下とノルア殿下が笑いだした。
フィオネ王女も口元を結んで堪えている。
当のウィルヘム殿下は意外と無表情であった。
「あの、何か失礼なことを?」
「ある意味そうかもしれませんね。」
ノルア殿下の言葉を聞いて謝罪をする。
「申し訳――。」
「謝ることはない。」
私を見下ろす彼が口を開いた。
怒っている訳ではなさそうだが、私を見る目は相変わらず冷たい。
「まあ。これからウィルヘムのことを知ってもらえたら嬉しい限りだ。」
陛下は息子を見ながら私へと声をかける。
知るといいましても。
極力関わりたくないというのが本音です。
返事はせずに微笑みだけを返した。
そんなシャリアをウィルヘムは金色の瞳で真っ直ぐに見つめていた。




